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AI時代、開発ベンダーは「何に時間を使う会社か」で選ぶ − “人月”という評価基準が変わった今、本当に見るべきポイントとは

AI時代、開発ベンダーは「何に時間を使う会社か」で選ぶ。“人月”という評価基準が変わった今、本当に見るべきポイントとは。筆者・太田佑祈(スパイスファクトリー株式会社 CTO室 エンジニア)のポートレート。

どのような基準で、開発ベンダーを選ぶか

生成AIの普及によって、システム開発の進め方は大きく変わりました。
コード生成やテストの自動化が進み、「AIを使えば開発は速く、安くなる」という認識も広がっています。実際に、私たちの開発現場でもAIを活用することで実装工数を大きく削減し、生産性を向上させています。

一方で、AIの普及によって新たな課題も生まれています。
それは、開発ベンダーをどのような基準で選べばよいのかということです。

これまでであれば、人月や工数、見積金額は開発会社を比較するための有効な指標でした。しかしAI時代では、同じ人数、同じ期間でも、生み出せる成果は会社によって大きく変わります。

だからこそ、私はベンダー選定の基準も変わるべきだと考えています。本記事では、AI時代に開発会社を見る際、私が最も重要だと考えているポイントをご紹介します。

太田佑祈のポートレート

太田 佑祈(スパイスファクトリー株式会社 CTO室 エンジニア)

奈良県出身。大学向け・自治体向けなどのSaaS企業にて、エンジニア、エンジニアリングマネージャー、プロダクトマネージャーとして複数のプロダクト開発・事業立ち上げを経験。2025年よりスパイスファクトリーに参画し、CTO室にて部門横断の技術支援や技術監修、アーキテクチャ設計支援を担う。プロダクト開発と組織マネジメントの双方に知見を持ち、技術・プロダクト・組織の観点から課題解決を支援している。情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)保有。

AI時代、見積金額だけでは開発会社は選べない

開発会社を選ぶ際、多くの企業は複数社から見積を取得します。
例えば、同じ販売管理システムの刷新という案件で、600万円と1,800万円という2つの見積が提示されたとします。

販売管理システム刷新について、A社とB社の相見積もりを比較する図。A社はシステム開発一式600万円、要件定義・設計、実装・テスト、納期3か月。B社はシステム開発一式1,800万円、業務ヒアリング・プロトタイプ検証、合意形成ワークショップ・要件定義・設計・実装・テスト、リリース後の利用計測、納期6か月。「この2つの見積、どちらが良い見積でしょうか?」と問いかけている。

以前であれば、「なぜ3倍も違うのか」を人月や工数からある程度説明することができました。しかしAI時代では、その前提が崩れています。

600万円という価格が、AIを効果的に活用した結果なのか。それとも、要件整理や品質保証など、本来必要な工程を十分に見積もれていないだけなのかは、金額だけでは判断できません。

逆に1,800万円という見積も、AIを十分活用できていないため工数が膨らんでいる可能性もあれば、プロジェクトを成功へ導くための活動まで含めている可能性もあります。

つまり、「高いから良い」「安いから悪い」という時代ではなくなったのです。

「同じ要件で価格差3倍、AI時代は妥当性が測れない」。これまでとAI時代の見積の見方を比較する図。これまでは、価格の根拠は「人月×単価」で積み上がり、「なぜ3倍も違うのか」を人月や工数で説明でき、「高いから良い」「安いから悪い」で判断できた。一方AI時代は、同じ人数・同じ期間でも成果は会社によって変わり、「なぜ違うのか」を人月では説明できず、高くても安くても金額だけでは判断できない。

私は、この変化を「壊れたのは価格ではなく、ものさし」という言葉で表現しています。
これまで開発会社を比較する基準だった「人月」というものさしだけでは、プロジェクトの価値を測れなくなりました。

だからこそ、ベンダー選定でも新しい視点が必要になります。

AIは、「人月」という評価基準を変えた

私たちの開発現場では、AIを活用することで実装工数は約10分の1まで削減され、生産性も大きく向上しました。この数字だけを見ると、「AIで速く作れるようになった」という話に聞こえるかもしれません。

「AIは『人月』という評価基準を変えた」。2024年4月から2026年2月までの月間PR件数と月間工数の推移を示すグラフ。AI活用初期はChatGPTとコピペ、開発未実施期間を経て、Claude Code/Cursorを使ったAI駆動開発へ移行。AI駆動開発では工数が約1/10になっている。

しかし、私が本当に重要だと考えているのは、その先です。
AIによって実装時間が短くなると、人間はどこに時間を使うようになるのでしょうか。

「AI駆動開発により上流工程の比率は、30%から80%へ」。従来とAI駆動開発の工程別の工数配分を比較する図。従来は総工数10.0人月で、要件定義10%、設計20%、実装40%、テスト20%、リリース・管理10%、上流工程は30%。AI駆動では総工数約1.0人月で、要件定義40%、設計40%、実装10%、テスト10%、リリース・管理1%、上流工程は80%。人は課題整理、利用部門との認識合わせ、プロジェクトの方向性決定を担い、AIはコード・テスト・ドキュメントの作成を担う。※AI駆動開発に適した考え方や前提条件の整備が前提で、常にこれだけの改善が得られるわけではない。

AIはコードを書き、テストを実施し、ドキュメントも生成します。一方で、人間に残るのは、課題を整理し、利用部門と認識を合わせ、プロジェクト全体の方向性を決める仕事です。

私はこうした仕事を「人間的な営み」と呼んでいます。AIがどれだけ進化しても、「本当に解決すべき課題は何か」「現場は何に困っているのか」といった問いは、人が対話を重ねながら導き出すしかありません。

つまり、AIが実装を担うようになるほど、人間に求められる価値は、実装そのものではなく、プロジェクトを成功へ導くための意思決定へ移っていきます。

ベンダー選定でも同じです。AIを使っているかどうかではなく、その会社がどこへ価値を発揮しているのかを見る必要があります。

AI時代に見るべきは、「何に時間を使う会社か」

AIによって実装が速くなると、プロジェクトのボトルネックは別の場所へ移ります。

実際にプロジェクトを止める原因は、コードではありません。

  • 要件が整理されていない。
  • 利用部門との認識がずれている。
  • 関係者の合意形成に時間がかかる。

こうした上流工程の課題が、プロジェクト全体の成否を左右します。

「プロジェクトを止めるのは、コードではない」。プロジェクトが止まる原因と、AIで生まれた時間の使い方を対応させた図。要件が整理されていない場合は業務ヒアリングに時間を使って課題を整理し、利用部門との認識がずれている場合は早い段階からプロトタイプを見せて実装前にずれを発見する。関係者の合意形成に時間がかかる場合は、利用者との対話を重ねて合意形成に時間を使う。「AIで生まれた余白は、不確実性を減らすために使う」と示している。

私自身、要件がなかなか固まらず、実装に着手できない場面を何度も経験してきました。AIによって実装そのものがどれだけ速くなっても、その前段階で認識がそろっていなければ、AIの力を十分に発揮することはできません。

だからこそ、私はAI時代では「どれだけ速く作れるか」より、「どれだけプロジェクトのあるべき姿へ導けるか 」が重要になると考えています。

「改めて冒頭の見積書を見比べてみる」。販売管理システム刷新について、A社とB社の見積を比較する図。A社はシステム開発一式600万円、要件定義・設計、実装・テスト、納期3か月。B社はシステム開発一式1,800万円、業務ヒアリング・プロトタイプ検証、合意形成ワークショップ・要件定義・設計・実装・テスト、リリース後の利用計測、納期6か月。「この2つの見積、どちらが良い見積でしょうか?」と問いかけている。

そのために見るべきなのが、AIによって削減した時間の使い方です。例えば私たちは、その時間を業務ヒアリングやプロトタイプの作成、利用者との対話に充てています。

AIによって削減した時間の使い方

実際に最近のプロジェクトでは、早い段階から実際に動くプロトタイプを見せながら、詳細な要件を詰めることも増えています。

従来の開発では、顧客が実際に動くものを確認できるのは開発の終盤になることも少なくありません。その段階で初めてフィードバックを受け、使用感だけでなく、場合によっては業務仕様そのものの認識がずれていたことに気づくケースもあります。
プロトタイプを早い段階で見てもらえれば、こうした認識のずれを実装前、あるいは実装の早い段階で発見できます。結果として、不要な機能を作り込んだり、大きな作り直しが発生したりするリスクを減らせます。

これらは一見すると「コードを書いていない時間」です。しかし実際には、この時間があるからこそ認識のずれを早い段階で解消でき、結果としてプロジェクト全体の成功確率が高まります。

つまり、AIによって生まれた余白は、コスト削減のためだけではなく、不確実性を減らすために使うべきなのです。

「A社の見積は、作るものが明確な案件向き」。販売管理システム刷新の見積は600万円、納期3か月で、要件定義・設計、実装・テストを含む一方、業務ヒアリング・合意形成などの記載はない。安い理由は、AIで圧縮しやすい工程が中心で、要件定義・設計・実装・テストのみの従来通りの構成であること。注意点は、業務ヒアリングや合意形成の工数がなく、ボトルネックへの対応が積まれていないため不確実性に弱いこと。作るものが明確で、合意形成があまり必要でない案件に向いている。

私なら、開発会社にこの質問をする

AI時代に開発会社を選ぶなら、私は一つだけ質問します。

「AIによって削減した時間を、何に使っていますか?」

この質問への答えには、その会社の思想が表れます。

「より多くの案件をこなします。」

という会社もあるでしょう。
一方で、

「利用者へのヒアリングを増やしています。」
「プロトタイプを繰り返しています。」
「合意形成に時間を使っています。」

という会社もあります。

「見積の良し悪しを判断するためには」。STEP1は、自社のボトルネックを把握し、要求定義・利用部門との認識・合意形成等、どこで止まりそうかを整理した上で見積依頼する。初回相談時の情報整理シートを使用する。STEP2は、対応できるベンダーかを見極め、「AIによって削減した時間を何に使っているか?」を候補ベンダーに質問して、回答に納得できるか。開発パートナーチェックリストを使用する。

私は後者を選びます。
AIは、多くの会社に同じように実装を効率化する力を与えます。
だからこそ差が生まれるのは、AIを使って何を削減したかではありません。

削減した時間を、何へ再投資しているか。
そこに、開発会社としての価値が表れます。

開発会社の持つ本質的な価値とは

生成AIによって、システム開発はこれからも大きく変わっていくでしょう。
しかし、開発会社の価値は「AIを使っているか」だけでは決まりません。

「AIと人による多層チェックで、品質とスピードを両立」。AIコード生成、AIコードレビュー、継続的な品質検証、人によるレビュー、デリバリーの5段階を示す図。AIエージェントが高品質なコードとテストコードを生成し、構文エラーや不具合・リスクをAIが検出して修正を指示。テストを自動実行してAIの誤りや回帰バグを早期に発見し、仕様理解が必要な部分やAIの判断が難しい箇所は人が精査する。多層チェックを経た高品質なコードを高速にデリバリーする。

AIで生まれた時間を、お客様の課題理解や要件整理、プロジェクト成功のために使っているのか。そこにこそ、本当の違いがあります。AI時代のベンダー選定では、人月や価格だけを見るのではなく、「この会社は、AIで生まれた時間を何に使う会社なのか。」

ぜひ、その視点で開発会社を見ていただきたいと思います。

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