フィジビリティスタディとは?PoCとの違い・4つの検証項目と記入例
フィジビリティスタディ(Feasibility Study、F/S)とは、計画している事業やプロジェクトに実現可能性と妥当性があるかを、着手前に技術・財務・市場・運用などの多角的な観点から調査・評価する取り組みです。日本語では「実現可能性調査」「事業化調査」と訳されます。
新規事業開発やレガシーシステムの刷新、新規ITシステムの導入には多額の投資が必要です。着手してから「技術的に無理だった」「法規制に抵触した」と分かれば、投じた費用は戻りません。フィジビリティスタディは、その判断をお金をかけて作り始める前に、机上で行うためのものです。
まず要点を1枚で整理すると次のとおりです。
| 項目 | フィジビリティスタディの要点 |
|---|---|
| 目的 | 事業・プロジェクトに投資すべきかどうかを、客観的な根拠に基づいて判断できる状態にする |
| 実施するタイミング | 事業・サービス構想の直後、コアバリュー策定や PoC に進む前 |
| 主な検証の観点 | 技術面/財務面/市場面/運用面(法規制を含む)の4つ |
| 進め方 | 主に机上調査。文献・統計・特許・ヒアリング・競合分析などの二次情報が中心 |
| PoC との違い | フィジビリティスタディは「事業全体が成立するか」を調査・分析で評価する。PoC は試作品を作り「特定の技術やアイデアが実際に機能するか」を現実世界で検証する |
| 主なアウトプット | 実現可能性の評価結果、リスクと対応策、投資対効果の試算、採用/中止/延期の判断材料 |
この記事では、様々な企業の新規事業開発を支援してきた当社、スパイスファクトリーが、フィジビリティスタディの進め方や検証項目、記入例、現場で見てきた失敗パターンまでご紹介します。
フィジビリティスタディとは?
はじめに、フィジビリティスタディの概要についてご紹介します。
フィジビリティスタディの概要
フィジビリティスタディとは、計画された事業やプロジェクトなどが実現可能か、実施することに意義や妥当性があるかを多角的に調査・検討する取り組みを指す言葉です。
「フィジビリティ(feasibility)」とは「実現可能性」を意味する英単語であり、実現可能性について事前に検証するのがフィジビリティスタディの位置づけです。
新規事業の開発や ITシステムの導入においては、多額の投資が必要となります。投資の可否を判断するために、フィジビリティスタディを行い、その妥当性を判断します。
なお、「フィージビリティスタディ」と表記されることもありますが、指す内容は同じです。実務では「F/S」「FS」と略されます。
フィジビリティスタディとPoC・実証実験との違い
フィジビリティスタディと混同されやすい概念に PoC(Proof of Concept:概念実証)が挙げられます。
PoC は、ビジネスアイディアなどの実証を目的とした、プロトタイプ開発や検証のことを指します。
一般的に、机上で行われるケースが多いフィジビリティスタディに対して、PoC はプロトタイプシステムの開発などにより実際にユーザーが触ることができる試作品を開発し、現実世界で試行・検証を行います。
両者は排他的なものではありません。フィジビリティスタディで事業全体の見通しを立てたうえで、不確実性が高く机上では判断しきれない部分を PoC で検証する、という組み合わせが有効です。PoC を実施すること自体にも一定のコストがかかるため、フィジビリティスタディで机上検証を行い、実現可能性が十分に高いと判断できた場合に PoC のフェーズに移るという進め方も採用されます。
近い言葉との違いを整理すると次のとおりです。
| 用語 | 何を確かめるか | やり方 |
|---|---|---|
| フィジビリティスタディ | 事業全体の実現可能性と妥当性(技術・財務・市場・運用) | 主に机上での調査・分析 |
| PoC(概念実証) | 特定の技術やアイデアが実際に機能するか | 簡易的な実証モデルを作って確認する |
| プロトタイプ | 操作性や機能がユーザーの期待に合うか | 初期モデルを作りフィードバックを得る |
| MVP | 市場に受け入れられるか | 最小限の機能を持った製品を実際に市場へ投入する |
| 実証実験 | 実際の運用環境で問題なく動くか | 本番に近い環境で試験し最終調整する |
PoC については以下の記事でもご紹介しておりますので、よろしければご覧ください。
関連記事:「PoCとは。ビジネスにおけるPoC活用メリットや進め方を徹底解説」
フィジビリティスタディのメリット
フィジビリティスタディを実施する主なメリットは以下のとおりです。
リスクや課題の明確化
フィジビリティスタディでは、事業やプロジェクトの実施前に、多角的な視点から検証を行います。
これによりリスクや課題を明確化し、見切り発車による失敗や無駄な投資を回避できます。
意思決定の精度向上
フィジビリティスタディを実施することで、投資判断を行う経営層をはじめとしたステークホルダーに対して、客観的な根拠を提示できます。これにより、意思決定の精度を高められます。
課題解決方法の検討
技術・市場・財務・運用などの様々な観点から検証を進める過程で、リスクや課題に対する対処方法の糸口が見えてくる点もポイントです。
対処可能な課題については、事前に対応策を検討することで、事業やプロジェクトの成功確率を高められます。
フィジビリティスタディの種類と検証ポイント
フィジビリティスタディを実施する上では様々な考え方が存在しますが、ここでは「技術面」「財務面」「市場面」「運用面」の 4つの観点で検証を行う例を紹介します。
これらの要素はそれぞれ以下のような位置づけのものです。フィジビリティスタディを行う対象にもよりますが、多くの場合これらすべての観点で検証が必要となります。
| 観点 | 確かめること | 主な調査手段 |
|---|---|---|
| 技術面 | 必要な技術・設備が現実的に導入・運用できるか | 特許・学術論文の調査、既存開発事例の探索、技術提供企業へのヒアリング |
| 財務面 | コストに見合う収益・価値創出が見込めるか | 初期投資とランニングコストの試算、キャッシュフロー予測、LTV・顧客獲得コストの試算 |
| 市場面 | ターゲット市場にニーズがあり、事業として成立するか | 統計データ・調査レポート、ユーザーインタビュー、競合分析(3C分析・ファイブフォース分析など) |
| 運用面 | 継続的に運用する人材・組織があり、法令上の問題がないか | 必要スキルの棚卸し、採用・外注可能性の検討、関連法令の洗い出しと関係省庁への確認 |
技術面のフィジビリティ
プロジェクトを進める上で必要となる技術や設備が、現実的に導入・運用可能かを評価します。
〇既存技術で対応可能か
社内外に既に存在する技術・設備で要件を満たせるかを、特許や学術論文、関連企業へのヒアリングなどにより調査します。
〇外部パートナーとの連携が必須か
社内に存在しない技術である場合、技術提供者との協業体制の可否や契約条件、知的財産の観点も含めて検討します。
〇新規開発が必要か
既存技術で対応できない場合、既存の技術とのギャップを踏まえ、どの程度の開発が必要であるか開発期間・コストの観点から検証します。
財務面のフィジビリティ
プロジェクトのコストを予想し、それに見合う収益・価値創出の見込みを検証します。
〇開発・運用コストの想定
設備投資や人件費など初期投資と保守費用や更新費用などのランニングコストを明確化し、コスト構造と投資規模を整理します。
〇投資回収の見込み
検討対象とする事業やプロジェクトの収益モデルに基づき、何年で投資を回収できるか、キャッシュフロー予測により検証します。
〇収益性の妥当性
価格設定や顧客獲得コスト、LTV(顧客生涯価値)など、ボトムアップで収益性を予測します。収益性の根拠となる各指標が現実的な予測となっているかがポイントです。
市場面のフィジビリティ
ターゲット市場におけるニーズの有無や競合調査、市場の成長性などを調査し、事業として成立するかを判断します。
〇市場規模・成長性
対象市場が十分な規模を持ち、今後の成長が見込まれるか、統計データや調査会社によるレポートなどを活用して調査します。
〇顧客ニーズとの合致
提供価値が顧客の課題や期待にフィットしているか、ペルソナ設計やユーザーインタビュー、ユーザーテストなどを通して推測します。
〇競合との差別化要素
競合企業との比較を行い、技術面や価格面などに優位性があるかを検証します。提供するサービスや商品の模倣困難性も重要な視点です。
運用面のフィジビリティ
事業やプロジェクトを継続的に運用するための人的なリソースや組織が整っているかを確認します。併せて、法令面で課題が無いかもチェックします。
〇必要な人材・スキルの有無
事業やプロジェクトを進める上で、必要なスキルを持った人材が十分な人数存在するかを検証します。不足がある場合、育成や再配置の計画も含めて検討します。
〇外注・採用による補完可能性
リソースが不足する場合、外部で補えるかを検討します。外部リソースを利用するコストは収益性にも影響するため注意が必要です。
〇法規制・業界基準のクリア
関連する法令を洗い出した上で、事業やプロジェクトの展開において抵触するものが無いかをチェックします。前例がない事業など、関係省庁との調整が必要となるケースもあります。
フィジビリティスタディを実施すべきタイミング
一般的に、新規事業開発や新製品・サービス開発は以下の流れで実施されます。
- 事業・サービス構想
- フィジビリティスタディ
- コアバリュー策定
- PoC
- 本番開発
1.事業・サービス構想
事業やサービスのコンセプトメイキングや事業計画の立案を行う。
2.フィジビリティスタディ
市場規模や競合状況、技術的制約、法規制の有無などを確認し、机上で実現可能性を検証する。
3.コアバリュー策定
フィジビリティスタディの結果を踏まえ、事業やサービスの提供価値を定義する。
4.PoC
プロトタイプ開発やユーザーテストを通じて、ユーザーニーズとの合致や技術的実現性をさらに具体的に検証します。
5.本番開発
ユーザーに製品・サービスを提供するため、正式リリースできるプロダクトを開発する。
上記の流れのとおり、フィジビリティスタディは事業・サービス構想を行った後、その内容が妥当であるか、実現可能性はあるのかを検証するために実施されます。
その後、PoCなどを通してユーザーニーズへの合致状況の確認やプロダクトの品質向上、費用対効果の検証などを行い、本番開発に進む流れが一般的です。
なお、フィジビリティスタディで洗い出した課題は、そのまま PoC の検証項目の入り口になります。既存システムのリニューアルなど、フィジビリティスタディの段階で現状課題がある程度見えている場合は、その課題に対して必要なアプローチを検討することで、PoC のスコープを絞り込みやすくなります。
関連記事:「PoCプロジェクトの計画において絶対に押さえるべき8つの項目とは?」
フィジビリティスタディの進め方
フィジビリティスタディは、実施目的と対象を明確化しつつ、調査・分析による検証を行い、最終的な意思決定につなげていくプロセスで進めていきます。
目的と範囲を明確にする
フィジビリティスタディを始める前に、目的と範囲を明確にする必要があります。
技術面だけかコスト面も含める必要があるのか、法律面の検証は必要ではないのかといった視点で、対象範囲を整理します。
例えば、システムを活用して技術面で差別化した事業を提供するにあたってフィジビリティスタディを行う場合であれば、実用に足る精度でサービスが提供できるといった観点での検証が重要です。
この場合、技術検証を中心にフィジビリティスタディを進めていくこととなります。
このとき、「どういう結果が出たら中止するのか」も同時に決めておくことをおすすめします。中止条件を先に決めておかないと、判断がつかないまま調査だけが続き、意思決定の先送りにつながります。
調査と分析で実現可能性を検証する
目的と範囲を明確にしたら、実現可能性の検証を進めていきます。必要なリソース・技術的制約・見込みコスト・法令面の遵守など、構想の実現に向けて障害となり得る要素を洗い出し、現実的な事業やプロジェクトとして成立するかを検証していきます。
例えば、新規事業開発においてシステムを活用するケースであれば、既存システムとの連携可否やサービス提供に必要なデータ・コンテンツ等の利用可否、システム構築にかかるコストの想定などが必要となります。
また、市場調査や競合分析を通じて、新規事業やそれに伴うシステム投資に対する、経済的な妥当性を検討することも重要です。
市場分析では、3C分析・SWOT分析・PEST分析といったフレームワークが多くの新規事業で共通して使いやすいものです。フレームワークの使い分けについては以下の記事で解説しています。
関連記事:「新規事業を成功に導くフレームワーク17選」
評価・分析結果の取りまとめと報告
調査と分析が完了したら、結果を取りまとめ、経営層をはじめとしたステークホルダーへ報告します。
ここでは、意思決定可能なレベルで情報を整理・可視化することが重要です。
実施結果を単にまとめるだけでなく、事業やプロジェクトの成功シナリオ/失敗シナリオ、リスク要因とその対応策、事業化した場合の投資対効果など、実施の可否を判断できる観点で整理すべきです。
特に経営層に対しては、投資対効果をはじめとした経済的なインパクトやリスクを意識した報告が重要となります。
また、現場の責任者や担当者に対しては、導入プロセスや運用面の課題など実務に即した内容を明確化することがポイントです。
意思決定をする
フィジビリティスタディの目的は、検証の結果に基づいて行動を選択することにあります。
最終的に、採用、中止、延期、代替案の検討など、フィジビリティスタディの結果を踏まえて事業やプロジェクトの投資可否や実施可否を判断します。
特に、大規模プロジェクトや複数部門が関与する場合など、ステークホルダーが多いケースでは、意見をまとめるのも簡単ではありません。
フィジビリティスタディによるファクトにより、感情や前例に流されない意思決定がしやすくなります。
フィジビリティスタディで検討する項目と実践例
以下では、上述した「技術面」「財務面」「市場面」「運用面」という 4つの検討項目について、より具体的にご紹介します。
ここでは、新規事業開発として「生成AI を活用したコールセンターの顧客対応支援」を例として取り上げたいと思います。
①技術面
技術面は、本例のような新規事業における大きな差別化要素となります。一方で、その技術が一般に提供するために十分な品質であり、また現実的に利用できるのかについては検証が必要です。
コールセンターにおける生成AI を利用した顧客対応が現実的なものであるのか、文献や既存技術の調査を行います。主な調査方法は研究論文や既存の開発事例の探索、生成AI を提供する企業へのヒアリングとなるでしょう。ここで得られた情報から、生成AI により顧客対応が現実的に利用できる精度で行えるのかを机上で検討します。
②財務面
新規事業開発にはお金がかかります。今回実施しようとしているサービス開発にどの程度の投資が必要であるのか概算金額を把握します。
主に、プロダクトの開発コスト、宣伝・営業費用、導入や運用にかかる費用などが想定されます。想定される投資金額をどのように賄うかも検討する必要があります。自社が保有する資金で資金を賄えない場合は、外部からの調達について検討します。大きくは金融機関からの融資と投資家からの投資という2つの選択肢があります。融資は回収可能性が高いケースに、投資は回収可能性が低いものの大きなリターンが見込める可能性がある場合に活用されます。
今回例に挙げている挑戦的な新規事業の場合は、投資家からの投資や予算管理部門から決裁を引き出せるポテンシャルがあるかという観点での検討が必要でしょう。
③市場面
本サービスが市場においてニーズがあるかどうかもフィジビリティスタディの検討対象となります。
新規事業開発においては、既存の知識や人脈でのつながりなどからアイディアを思いつくことも多いですが、改めて提供するサービスに本当にニーズがあるのかを精査します。市場調査のフレームワークとして良く知られているのがファイブフォースモデルです。
ファイブフォースモデルは、「業界内の競合」「代替品の脅威」「新規参入者の脅威」「買い手の交渉力」「売り手の交渉力」という 5つの観点で市場分析を行います。
コールセンターにおける顧客対応支援サービスにはどのようなものがあり、どのような価値を提供しているのか、また買い手となるコールセンター運営者はどの程度存在し、どの程度の投資余力があるのかなどを整理することで、市場分析を進めます。
④運用面
実際に新規サービスを提供していくためには、人的なリソースを含めた運用体制を整える必要があります。
一般的に、新規事業の提供においては「営業」「開発」「カスタマーサポート」などのメンバーが必要です。近年では、カスタマーサクセスとして顧客の成功を支援する役割も重要視されつつあります。特に生成AI を活用するという今回の事例では、開発担当者として AI に関するスキルを持ったエンジニアも必要でしょう。
これらのスキルを持った人的リソースを確保できるかもポイントです。
検証項目の記入例
上記の4観点を、実際のフィジビリティスタディでどう書き下すかの記入例です。「生成AI を活用したコールセンターの顧客対応支援」を題材にしています。判定を「○(問題なし)/△(条件付き)/×(不可)」の3段階で置くと、報告時に論点が絞り込めます。
| 観点 | 検証項目 | 調査方法 | 判定と根拠(記入例) |
|---|---|---|---|
| 技術面 | 実用に足る応答精度を出せるか | 論文・開発事例の調査、AIベンダーへのヒアリング | △:一般的な問い合わせは対応可能。ただし約款に関わる回答は誤答リスクが残るため、有人エスカレーションを前提とする |
| 技術面 | 既存のCTI・CRMと連携できるか | 既存システムのAPI仕様確認、ベンダーへの確認 | △:API連携は可能だがリアルタイム連携には追加開発が必要。初期は日次バッチ連携とする |
| 財務面 | 投資回収の見込みはあるか | 初期投資・運用費の試算、応対時間削減効果の試算 | ○:応対時間の削減効果が想定どおりであれば、3年以内に回収可能な試算 |
| 市場面 | 買い手に投資余力があるか | 統計データ、ファイブフォース分析、想定顧客ヒアリング | △:大手コールセンター運営企業には余力があるが、中小は価格感度が高い。初期ターゲットを大手に絞る |
| 運用面 | 必要な人材を確保できるか | 社内スキルの棚卸し、採用市場の確認 | △:AIエンジニアが不足。初期は外部パートナーとの協業で補い、並行して育成する |
| 運用面 | 法規制・ガイドラインに抵触しないか | 個人情報保護法・業界ガイドラインの確認 | ○:応対ログの取り扱いに関する社内規程の改訂を前提に、抵触なしと判断 |
記入例のとおり、フィジビリティスタディの判定は「○か×か」だけではありません。実務では「△(条件付き)」が最も多く、その条件をどう設計するかが次のフェーズの設計そのものになります。上の例であれば「有人エスカレーション前提」「初期は日次バッチ連携」「初期ターゲットは大手」が、そのまま PoC で確かめるべき論点になります。
フィジビリティスタディでよくある失敗
新規事業開発の支援を通じて繰り返し目にしてきた、つまずきやすいパターンを挙げます。
判断基準を決めずに調査を始めてしまう
最も多いのがこれです。「どういう結果が出たら進めるのか、やめるのか」を決めないまま調査に着手すると、資料は増えるのに結論が出ません。目的・検証項目・成否の判断基準を着手前に合意しておくことが、フィジビリティスタディが機能するかどうかの分かれ目になります。
この構図は、後続の PoC で「検証を繰り返すこと自体が目的化し、いつまでも事業化や本開発の判断に至らない」といういわゆる「PoC死」「PoC疲れ」とまったく同じです。判断基準の欠落は、フェーズが進むほど損失が大きくなります。
机上で確かめられないことまで机上で決めようとする
フィジビリティスタディは机上調査が中心のため、「ユーザーが実際に使うか」「その画面で迷わず操作できるか」といった、触ってみないと分からない論点には向きません。ここを調査で結論づけようとすると、精度の低い推測に基づく判断になります。机上で確からしさを高められる範囲を見極め、残りは PoC やプロトタイプに渡すのが本来の役割分担です。
結論を「実施可否」の二択にしてしまう
実際の判断は、採用・中止のほかに「条件付きで進める」「スコープを縮小して進める」「時期を延期する」といった選択肢があります。二択に切り詰めると、有望な構想が条件の詰め不足で潰れたり、リスクを抱えたまま進んだりします。前述の記入例のように、条件を明示した形で結論を出すことをおすすめします。
フィジビリティスタディに役立つデータ一覧
主に机上で実施するフィジビリティスタディを進めていく上では、各種文献を基に調査を行っていくことになります。
ここでは、特に技術調査や市場調査などに活用できるデータについてご紹介します。こちらでご紹介させていただくものにつきましては外部サイトへ遷移いたしますので、あらかじめご留意くださいませ。
情報通信白書・DX白書
国内の IT・通信に関する技術動向や市場動向は、総務省が年次で刊行している情報通信白書※1や、IPA が取りまとめを行っている DX動向※2にて知ることができます。
令和 7年度版の情報通信白書では、社会基盤化したSNSやクラウドなどの動向やAIの爆発的な進展状況、国内外のICT産業の概況などについて整理がされています。
AIの動向については、国内外のLLMモデルの開発動向や企業・個人におけるAI活用状況が網羅的に調査・分析されており、参考となります。
DX動向2025では、国内のみならず、国外のDXに関する取り組み状況が分析されています。事業開発においてどのような技術が利用できるか、また先進的な企業はどのような技術を活用しているのかを把握できます。
IPAでは継続的にDXに関する調査を行っており、DX動向により企業のDX推進状況やDXに対するモチベーションなどの時系列変化を把握できるのもポイントです。
※1 引用記事:総務省「令和7年度版情報通信白書」(新しいタブで開きます)
※2 引用記事:独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025」(新しいタブで開きます)
総務省統計局
市場調査を行う上で有効なのが政府の各省庁・機関が実施している統計調査です。これらの情報は、総務省統計局が一元的に取りまとめを行っています。
たとえば、市場調査を行う上では以下のような統計情報が参考になるでしょう。
〇国勢調査:地域別人口数、世帯状況、就労状態などを把握できる。5年間隔で実施されるため最新の状況とずれが生じる可能性がある点に注意が必要。
https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2025/index.html(新しいタブで開きます)
〇家計調査:家庭における家計の収支を把握できる。人々が何にどれだけお金をかけているのかを知ることができる。
https://www.stat.go.jp/data/kakei/index.html(新しいタブで開きます)
〇サービス産業動向調査:産業分類別に売上高と従事する従業員数を月次で調査し、推移を確認できる。
https://www.stat.go.jp/data/mssi/index.html(新しいタブで開きます)
〇小売物価統計調査:月次で主要品目についての販売価格を調査したもの。商品の価格変化状況を把握できる。
https://www.stat.go.jp/data/kouri/index.html(新しいタブで開きます)
上記以外にも、目的に応じて様々な統計情報を活用できます。
民間コンサルティング企業の書籍
その他、民間コンサルティング企業においても様々なデータが公開されています。一例をあげると以下のとおりです。
〇野村総合研究所
https://www.nri.com/jp/knowledge/report(新しいタブで開きます)
〇ボストン・コンサルティンググループ(BCG)
https://www.bcg.com/ja-jp/about/corporate-newsroom(新しいタブで開きます)
〇NTTデータ経営研究所
https://www.nttdata-strategy.com/knowledge/reports/(新しいタブで開きます)
フィジビリティスタディに関するよくある質問
フィジビリティスタディにはどのくらいの期間がかかりますか?
対象の広さによりますが、机上調査が中心のため数週間から1〜2か月程度が一つの目安です。続く PoC は、当社の場合、ユーザーリサーチやコアバリュー策定などの準備に最短でも1か月、検証の実施にも最低1か月ほどかかります。フィジビリティスタディで論点を絞り込んでおくほど、後続フェーズの期間も短くできます。
フィジビリティスタディの費用相場はどのくらいですか?
調査範囲や外部委託の有無で大きく変わるため、一律の相場はありません。参考までに、続く PoC の予算相場はサービス内容や開発期間にもよりますが100万円〜数百万円が一般的です。フィジビリティスタディはこれより小さい規模で実施されることが多く、社内リソースで完結させるケースもあります。
フィジビリティスタディは必ず実施すべきですか?
投資額が小さく、失敗しても撤退が容易な取り組みであれば、簡易な検討にとどめて早く試したほうが学びは早くなります。一方、多額の投資や長期の開発を伴う場合、法規制の確認が必要な場合、複数部門の合意形成が必要な場合は、実施する価値が大きくなります。
フィジビリティスタディとビジネスデューデリジェンスは違いますか?
目的が異なります。ビジネスデューデリジェンス(DD)は主に M&A や出資の場面で、既に存在する事業の実態と価値を精査するものです。フィジビリティスタディは、これから始める事業やプロジェクトが成立するかを事前に評価します。
調査した結果「実現不可能」となった場合、無駄になりませんか?
無駄にはなりません。着手前に中止を判断できたということは、本来失うはずだった開発投資を回避できたということです。また、判断の過程で得た市場理解や技術情報、洗い出した論点は、別の構想を検討する際にそのまま活用できます。
フィジビリティスタディで大きな失敗を避けよう
この記事では、フィジビリティスタディの概要や実践例、検討項目、活用できるデータソースなどについてご紹介しました。
フィジビリティスタディの段階でどれだけ精度高く検証を行えるかは、その後の PoC や本番開発の成否にも影響します。重要なのは調査の量ではなく、「何がどうなったら進める/やめる」を先に決め、机上で確かめられることと触ってみないと分からないことを切り分けることです。
スパイスファクトリーでは、フィジビリティスタディに続くPoC・プロトタイピング開発や、事業企画から MVP 開発までを一気通貫で支援する新規事業立ち上げ支援をご提供しています。構想段階からのご相談も承っておりますので、ぜひ一度お問い合わせください。
システム開発を外部に依頼する際の要件整理には、システム開発RFP(提案依頼書)テンプレートもご活用いただけます。
参考:スパイスファクトリー株式会社 100の失敗から見つける、強い新規事業。モノで語りながら推進する超高速PoCサービス提供開始