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アジャイル開発 × オフショア開発の有効性 事例を通じて成功のためのポイントを解説!

アジャイル開発 × オフショア開発の有効性 事例を通じて成功のためのポイントを解説!

日本国内における IT人材不足が叫ばれる中、コストやリソース確保の観点からオフショア開発の活用に目を向ける企業も増えています。
かつて、オフショア開発においてはウォーターフォール型で定められた仕様にもとづき開発を委託する形態も多かったですが、近年ではアジャイル開発でのプロジェクト事例も増えてきています。

この記事では、アジャイル開発に強みを持ち、オフショア開発サービスも提供している当社、スパイスファクトリーが、オフショア開発とアジャイル開発を組み合わせることの有効性についてご紹介します。

アジャイル開発とオフショア開発について


まず、アジャイル開発とオフショア開発それぞれの概要を簡単に整理します。

アジャイル開発とは

アジャイル開発とは、システムを機能ごとに小さく分割し、その小さな機能単位に開発・リリースを繰り返していく手法のことです。
アジャイル開発は開発の指針を示す方法論であり、アジャイル開発の中に更に「スクラム」「XP(エクストリーム・プログラミング)」などの様々な開発手法が存在します。
これらに共通するのは、アジャイル(agile : 機敏な、素早い)という言葉がさすように、小さい開発スパンの繰り返しによって螺旋階段のようにシステムの開発を行っていくということです。
アジャイル開発の特徴の一つとして、最初の開発スパンが完了した時点で実際にある程度動くプロダクトを触ってみることができるという点が挙げられます。

アジャイル開発の主なメリットは以下のとおりです。

  • 変化に対する柔軟性
  • 早期にシステムを確認できる

アジャイル開発については以下の記事で詳しく解説しているので、ご興味のある方は併せてご覧ください。
関連記事:アジャイル開発とは? – システム開発を発注する時に知っておきたい開発手法の話

オフショア開発とは

オフショア開発とは、システムの開発業務における一部もしくは全部の工程を海外に委託することを指します。
かつて、オフショア開発は人件費の安い国に発注できる「コスト面」と国外に人材を拡張できる「リソース確保面」がメリットと認識されてきました。

近年は、オフショア開発の拠点国として人気のある東南アジア圏も経済成長してきており、人件費も高騰してきているため、コスト面のメリットは減少傾向です。
その一方で、高度な教育を受けた技術力の高い海外人材が増えてきていることもあり、単に人材リソースを確保するのみならず、技術力を活用するという観点でも注目が集まっています。

オフショア開発の主なメリットは以下のとおりです。

  • コスト
  • 技術力
  • リソースの確保
  • 開発スピード

オフショア開発については以下の記事で詳しく解説しているので、ご興味のある方は併せてご覧ください。
関連記事:オフショア開発とは?簡単にわかるメリットや最新の市場動向

アジャイル開発とオフショア開発の組み合わせは有効なのか


双方メリットのあるアジャイル開発とオフショア開発ですが、オフショア開発をアジャイル型で実施することはできるのでしょうか。

結論から言うと、オフショア開発をアジャイル型で実施することで、上述した両方のメリットを享受できます。
一方で、アジャイル × オフショアでプロジェクトを推進する場合には、注意しなければならない点もあります。

もっとも難しいのは「コミュニケーション」です。
ウォーターフォール型の開発では、要件をドキュメントとして明確に定義し、請負でオフショア拠点へ依頼するため、コミュニケーションコストは比較的低くなります。

対して、開発する機能を調整しながら進めるアジャイル型では、オフショア拠点と密にコミュニケーションをとりながらプロジェクトを進めていく必要があります。

コミュニケーションの観点を意識し、チームが一体となってプロジェクトを進めることができれば、アジャイル開発・オフショア開発のメリットを最大限享受することができるでしょう。

関連記事:オフショア開発は失敗しやすい?よくある失敗パターンの原因と対策を解説

アジャイル × オフショア開発の実践事例


それでは、過去の事例ではどのようにアジャイルとオフショアを組み合わせて開発を進めているのでしょうか。
以下では、いくつかのケースを取り上げ、ご紹介します。

中国オフショア体制におけるスクラム実践

アジャイル型で中国拠点へのオフショア開発を行ったある事例では、やはりコミュニケーションによるバグや手戻りが課題となりました。
本事例のオフショア拠点においてアジャイル型での開発は初めてで、経験値が低かったこともプロジェクトが難航した原因の 1つです。

本事例では、コミュニケーションを強化するために以下のような取り組みを実施しました。

プロジェクト序盤にオンサイト期間を設ける

1つのチームとして活動することが重要となるアジャイル開発ですが、国内・オフショア拠点の物理的な距離から、チームメンバーがお互いにチームの一員であることを認識しづらい環境にありました。
そこで、初回から第3スプリントまでオフショアの開発チームを日本に招き、日本側のメンバーとオフショア側のメンバーが同じ拠点で開発をする取り組みを実施。
その間にアジャイル開発に関する教育やチームビルディングを実施しました。

中国語と中国の文化が分かるスクラムマスター(ブリッジSE)の起用

オフショア側の中国人技術者には日本語が堪能な人材が多かったものの、もちろん全員日本語が話せるわけではありません。
そこで、中国出身かつアジャイルの経験が豊富な人材をスクラムマスターに起用し、スクラムマスターの役割を担うと同時にブリッジSE として通訳などコミュニケーションのフォローも担当しました。

イベントの追加とTV会議システムの常時接続

やはり遠隔で作業を進めなければならない関係上、コミュニケーションの機会と品質は対面には劣ります。
そこで、一般的なアジャイル開発よりもレビューやミーティングを増やしつつ、TV会議システムを常時稼働させ、いつでもコミュニケーションが取れる環境を整備しました。

これらの取り組みの結果として、ミスコミュニケーションによるバグや手戻りは減少。チームへのヒアリングにおいても、効果を実感できたという感想を得ることができました。

参考:杉浦 由季, 小堀 一雄, 柴山 洋徳, 中国オフショア体制におけるScrum実践手法の提案と検証, 情報処理学会論文誌デジタルプラクティス, 7 (3), 268-274, 2016-07-15

アジャイル × オフショア開発におけるコミュニケーションコスト低減手法

次にご紹介するのは、オフショア開発におけるコミュニケーションコスト削減に関する研究です。
この研究では、中国およびベトナムへのオフショアを実施したある事例を対象に、コミュニケーションに関してどのような課題が発生しているのかを抽出しました。
結果として、以下のような点が課題であることが明らかとなりました。

言葉の統一が不十分であること

同じ意味の言葉が様々な表現で伝えられており、コミュニケーションコストを上げる一因となっていました。
特に日本語から中国語もしくはベトナム語に翻訳する際に、意図が誤って伝わるケースも多く、日本語およびオフショア先の言語での用語定義が重要であることが明らかとなりました。

判断基準のルール化が不十分であること

レビューに対する基準が明確に設けられておらず、レビューを実施するまで作成した設計やソースコードが適切か判断しにくいことも難しい点でした。
どのように開発を行えばよいか、オフショア拠点に対して明確に伝えることが重要です。

ブリッジSEの役割

中国へのオフショアは日本語で開発者と直接コミュニケーションがとれたものの、ベトナムへのオフショアにおいては開発者と日本語でコミュニケーションが取れないという課題がありました。
両者を仲介するブリッジSE が適切にコミュニケーションを行うことが重要となります。
この研究では、特に言葉の定義に注目して、用語集の定義によるコミュニケーションの円滑化が提案されています。

参考:上野 肇, 山本 修一郎, オフショアを活用したアジャイル開発における コミュニケーションコスト低減手法の提案, 人工知能学会 知識流通ネットワーク研究会, 2013 年 2013 巻 KSN-013 号 p. 03-

アジャイル手法の導入でウォーターフォール × オフショア開発の問題点を解決

従来ウォーターフォール型でオフショア開発を行っていたある事例では「要求があいまいであり対応できない」「品質に対する考え方が異なる」「情報共有が難しい」「モチベーションを保つのが難しい」などの課題が顕在化していました。

これらを解決する方法として、ウォーターウォール型からアジャイル型へプロジェクトの進め方を変更。
結果として、上述した4つのすべての要素に一定の効果がありました。

特にモチベーション面では、オフショア側も含めてチームで良いものを作るにはどうしたらよいか検討を進めることで自律性が高いチームとなり、結果として離職率が一番低いチームとなるなど、高い効果を得ることができました。

一方で、やはりコミュニケーションについては課題もあり、ツールの利用などでカバーすることが推奨されています。

参考:オージス総研「オフショア開発の問題点をアジャイル開発で効果的に解決!」

アジャイル × オフショア開発の成功に必要な要素


これまでご紹介してきた事例や、これまで当社が実施してきたオフショア開発プロジェクトの経験を踏まえると、アジャイル × オブショアのプロジェクトを成功させるために必要な要素は以下のとおりだと考えられます。

コミュニケーションの工夫

アジャイル開発においてはチームが一体となれるようにコミュニケーションを密にとっていく必要があります。
しかしながら、物理的距離、文化的距離のあるオフショア拠点と密にコミュニケーションするためには工夫が必要です。

コミュニケーションツール活用はその1つです。
ZOOM 等のオンラインミーティングツールや Slack などのチャットツールで、同期・非同期両面で密にコミュニケーションをとれる環境を用意します。

また、費用面などの懸念はありますが、一定期間は同一拠点で共に開発を行うなど、チームビルディングの観点から両者の心理的な距離を縮めるための工夫も必要でしょう。

多言語対応可能なスクラムマスター(ブリッジSE)の存在

オフショア拠点によっては、エンジニアと日本語でコミュニケーションをとることが難しい場合も多々あります。
そのような場合には、プロダクトオーナーなどの依頼者と開発者の仲介役としてブリッジSE の存在が重要となります。

ブリッジSE が国内とオフショア拠点双方の仲立ちを行い、ミスコミュニケーションが発生しないようにプロジェクトをサポートしていきます。しかし、複数の言語を理解し、またアジャイル開発に精通したブリッジSE を確保するのは難しいケースも。どのように優秀な人材を確保していくかがポイントです。

関連記事:ブリッジSEとは?オフショア開発での役割と必要性、注意点も解説

オフショア拠点メンバーのアジャイル開発への理解とコミット

もちろん、オフショア開発先のメンバーがアジャイル開発を理解し、適切に実践していなければプロジェクトはうまくいきません。特に重要となるのはプロジェクトへのコミットです。

委託された内容を仕様に沿って作ればよいウォーターフォール型の開発とは異なり、アジャイル開発ではメンバーが積極的にシステムの改善提案を行い、プロジェクトを前に進めていく必要があります。
ワンチームになれるように、各国の文化を理解しながらチームビルディングを進めていくことが重要となります。

アジャイル開発に適した契約形態

アジャイル型で開発を行う場合、請負契約ではなく準委任契約で契約を締結することが一般的です。
請負契約では事前に要件を明確に定める必要がありますが、準委任契約では柔軟な変更が可能となります。

特にオフショア開発においては、準委任契約にてプロジェクトを進めることを「ラボ型開発」と呼ぶこともあります。
ラボ型開発の概要やメリットについては以下の記事で詳しく解説しているため、併せてご覧ください。
参考:ラボ型オフショア開発とは?メリットや請負型との違いも説明

弊社、スパイスファクトリーでは、ラボ型同様の準委任契約をベースに、ラボ型のデメリットだった「一定量の発注をし続けないと費用対効果が悪化する」といった点を解決する柔軟性を持たせたサービスとして「タイムチャージ型」という形態のサービスも提供しています。
ご興味をお持ちいただけましたら是非お気軽にご相談ください。

アジャイル開発に適した案件を対象とする

案件によっては、ウォーターフォール型の開発が適しているケースもあります。
開発する内容や納期が明確である場合は、リスクヘッジやコストの面からあえてウォーターフォール型を採用することも検討できます。

一方で、ユーザー体験が重要であるシステムや、新規事業に伴い開発するシステムなど、明確な正解がないケースについては柔軟な要件変更が可能であるアジャイル型が適しています。
特にオフショア開発においては、新規開発するシステムの方がオンボーディングしやすいという特徴もあります。
新規開発案件においては、既存の設計書やソースコードを読み解く必要がなく、キャッチアップしやすいためです。

日本語で書かれた既存システムのドキュメントを理解するためには、言語の違いもありかなりの工数が必要となるため、注意が必要です。
参考記事:新規事業担当者必見。“アジャイル開発”で小さく始めるシステム開発

オフショア開発においてもアジャイル開発の力を発揮することは可能


この記事では、アジャイル開発とオフショア開発の組み合わせについて、事例をご紹介しながら有効性や気を付けるべきポイントについてご紹介しました。

アジャイル × オフショアで開発を行う場合には、円滑なコミュニケーションを実現するための取り組みや、優秀なブリッジSE の確保が特に重要となります。

創業当初より、エンジニアの幅広い技術力を必要とするアジャイル開発を強みとして成長してきた当社では、オフショア開発においても「安い」だけでなく「高品質」なサービスを提供しています。
窓口となるブリッジSE は、もちろん日本語でのコミュニケーションが可能です。
また、現地駐在責任者によるマネジメント体制構築や CTO による直接の技術指導、海外拠点現地研修などを実施。ブリッジSE 以外の現地メンバーも含め円滑なコミュニケーション実現のための取り組みを行っています。

アジャイル × オフショアでの開発にご興味のある方は、ぜひ一度当社にお問い合わせください。

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参考文献

  • 杉浦 由季, 小堀 一雄, 柴山 洋徳, 中国オフショア体制におけるScrum実践手法の提案と検証, 情報処理学会論文誌デジタルプラクティス, 7 (3), 268-274, 2016-07-15
  • 上野 肇, 山本 修一郎, オフショアを活用したアジャイル開発における コミュニケーションコスト低減手法の提案, 人工知能学会 知識流通ネットワーク研究会, 2013 年 2013 巻 KSN-013 号 p. 03-
  • 株式会社オージス総研 技術部クラウドインテグレーションセンター茨木 良昭,アジャイル開発センター 張 嵐,「オフショア開発の問題点をアジャイル開発で効果的に解決!」,オブジェクトの広場,株式会社オージス総研,2012年10月4日,閲覧日 2023年10月2日,https://www.ogis-ri.co.jp/otc/hiroba/technical/CLIC/AgileOffshoreCaseStudy/casestudy.html
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