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OMO(Online Merges with Offline)戦略とは?マーケティング施策のポイントと施策例

OMO(Online Merges with Offline)戦略とは?マーケティング施策のポイントと施策例

輸送・配送網の高度化やECサイトの充実化などを背景としつつ、コロナ禍の影響も相まってオンラインでの購買行動は多くの消費者にとって一般的なものとなりました。一方で、実店舗では音響や照明、陳列など豊富な手法で顧客体験を演出できるというメリットもあります。
双方の良いところをうまく組み合わせ、顧客に新たな価値を提供しようとする OMO(Online Merges with Offline) を戦略に取り入れる動きが進んでいます。この記事では、OMO の概要や重視すべき理由、メリットや進め方についてご紹介します。

OMO(Online Merges with Offline)戦略とは

OMOとは、オンラインとオフラインを融合し、顧客体験を向上させる取り組みを意味する言葉です。2017年ごろに元 Google社の李開復(リー・カイフー)氏が提唱したといわれており、中国を中心として普及してきた概念です。近年、日本でも OMO のキーワードで取り組みを行う事例が増えつつあり、注目度が上がっています。
OMO戦略の一例としては、たとえば顧客がオフライン店舗で商品を見つけられなかった際に、オンラインへ顧客を誘導し購買へつなげるような取り組みが挙げられます。このケースでは、オンライン・オフライン両方の在庫データを統合的に活用し、顧客の状況や都合に合わせて最適な体験を提供できるようにしています。

O2O(Online to Offline)とは何が違うのか?

OMO と似た概念として、2010年代前半に注目された O2O(Online to Offline)を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。O2O は、オンラインから実店舗へ誘導することを目指す戦略・施策です。たとえば、Webサイトやアプリ上でクーポンを配布して実店舗への来店促進することなどが挙げられます。
O2O ではオンラインからオフラインへの一方的な送客を主としているのに対して、OMO ではオンラインとオフラインの垣根を取り払い、チャネルの違いを感じさせないような体験を目指している点で異なります。O2O を発展・昇華させた概念が OMO といえるでしょう。

企業がOMO戦略に取り組む理由とは


世界や日本の各企業が OMO戦略に取り組む理由はどこにあるのでしょうか。様々な理由が存在しますが、ここでは3つの観点から整理します。

EC化率の頭打ち

消費行動のうち EC を利用する割合を示す EC化率は年々上昇を続けていますが、一方でその上限も見えつつあります。経済産業省「令和3年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」によれば、世界の B to C 市場における EC化率は今後も伸びつつありますが、一方でその伸び率は低減傾向にあることが読み取れます。
特に EC の先進国であるアメリカや中国ではその傾向が顕著です。同調査では、アメリカの EC化率はほぼ頭打ちとなっており、また中国の EC化率も伸びが鈍化している傾向にあることが明らかとなっています。これには、いわゆる「最寄品」や「買い回り品」は EC での購買もしやすいものの、詳細な商品比較や検討が行われる「専門品」は EC での購買が難しい点も影響していると考えられています。
このような状況において、これまでオンライン・EC での販売を中心とした戦略をとってきた企業も、オフラインへの進出を検討することになります。たとえば、OMO戦略の代表事例として名前が挙がることの多い中国のアリババ社は、中国14億人の購買行動のうち、非EC化領域の80%を取りに行くために、OMO戦略によるオフライン進出を進めてきた背景があります。

世界のBtoC-EC市場規模
出典:経済産業省「令和3年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」p101
中国におけるEC市場規模
出典:経済産業省「令和3年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」 p105
米国におけるEC市場規模
出典:経済産業省「令和3年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」 p114

なお、日本における EC化率は、同調査によれば2021年度時点で8.78%とされています。日本の EC化率はまだまだ増加傾向であり、諸外国に比べるとさらに伸びる余地があるといえますが、一方で日本の大都市中心の都市立地やスーパー・コンビニなど小売店の充実などを考慮すると、他国よりも低い値に収束する可能性も想定されます。
いずれにせよ、他国の状況を考慮するとオンラインのみをターゲットとした戦略には、いずれ限界が訪れることは明らかです。

物販系分野のBtoC-EC市場規模及びEC化率の経年推移
出典:経済産業省「令和3年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」 p5

顧客獲得コスト

もう一つの観点は、オンラインにおける顧客獲得コストの向上です。従来、オンラインの顧客獲得コストは実店舗などのオフラインと比較すると安いとみられてきました。メールやオンライン広告などで多数のユーザーにアプローチできるオンラインチャネルですが、近年ではその市場がレッドオーシャン化しています。
たとえば、中国では「オンラインでユーザー1人を獲得するために数万円コストを使う」※1ということも状態化しています。日本においても、総務省「令和4年 情報通信白書」第2部第3節(2)広告によると、2021年にはインターネット広告費がテレビ・新聞・雑誌・ラジオの広告費を上回るなど、オンライン上での顧客獲得チャネルとして一般的な Web広告費用は増加傾向です。この傾向が続けば、日本国内のオンラインでの顧客獲得単価も増加していくことが想定されます。
このような中、実店舗での顧客獲得に再度注目が集まっています。実店舗においては、ディスプレイや陳列、内装などによるブランディングが可能であり、また顧客への細かい接客も可能です。オンラインに比べれば丁寧で質の高い顧客体験を実現しやすいことから、ロイヤルカスタマー化しやすいという観点でも、店舗戦略は有効といえます。
よって、これまでオンラインに注力していた企業においても、実店舗とオンラインを組み合わせることにより顧客獲得を目指す流れが生まれています。

※1 藤井 保文「アフターデジタル2 UXと自由」p101より引用

OMO戦略のメリット

以下では、OMO を戦略に取り入れるメリットを企業・顧客それぞれの観点からご紹介します。

企業側のメリット

企業側が得られる OMO の大きなメリットは、販売・サービスの機会損失を防げる点です。たとえば、オンライン上で在庫切れだった商品を「お知らせリスト」に登録しておき、商品が入荷されたら自分がよく行く店舗に訪れた際に受け取れるようにします。これにより「在庫切れ」で途切れそうだった購買行動をつなぎとめることが期待できます。
また、オンライン・オフラインの一元的なデータ収集もメリットといえます。両者のデータを顧客に紐づけ一元化することで、これまでできなかった販促や分析にもつながります。

顧客のメリット

OMO のキモは顧客への提供価値の向上にあります。よって、当然ながら顧客側にもメリットがあります。
OMO により、顧客はこれまで以上に便利に買い物やサービス利用ができるようになります。必要な時・タイミングで好きなチャネルで情報が受け取れたり、オンライン・オフラインを問わずサービスの利用や商品の購入ができたりするようになります。

OMO戦略のタイプと事例


OMO戦略は「流通・提供の改善」と「接点の改善」という2つのアプローチから整理できます。以下では、それぞれのアプローチ方法の具体的な事例を紹介します

OMOによる流通・提供の改善

OMO による流通・提供の改善とは、商品やサービスの「届け方」を OMO の実践により改善するアプローチです。実店舗とデジタルの力を融合させ、ユーザーに対して、より便利な購買体験を提供します。

盒馬鮮生(フーマーシェンシェン)

盒馬鮮生
出典:盒马官网 – 盒馬,鮮·美·生活

中国のアリババ社が展開するスーパーマーケット「盒馬鮮生(フーマーシェンシェン)」では、オンラインでの注文を、条件により最短30分で届けるサービスを実施しています。ユーザーがアプリから商品を注文すると、盒馬の店舗スタッフの端末に注文情報が届き、スタッフはそれを見ながら手早く商品を袋詰め。食品の特性である「注文したらすぐに利用したい」というニーズに応えられるサービスとなっています。

滴滴出行(DiDi)

DiDi
出典:DiDiモビリティジャパン株式会社

同じく中国の「滴滴出行(DiDi)」社では、タクシーの配車や自家用車のカーライドシェア、高級車の手配などのマッチングサービスを提供しています。アプリから配車や予約を行い乗車すると、地図上には推奨ルート、混雑具合、自分とタクシーの現在地、推定到着時間、推定金額と現時点での金額が表示されます。走行データに基づいて自動精算されるなど、オンライン上の処理で快適な移動をサポートする仕組みを構築しています。
日本でも最近はタクシーアプリとして「GO」や「JAPAN TAXI」等が活用されています。タクシー会社の連絡先を調べて、電話で配車の依頼をして…という従来のサービスの利用方法がアプリを活用することでより簡単に、スピーディーになっていることがわかるかと思います。

瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)

luckin coffee
出典:瑞幸咖啡

コーヒーチェーン「瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)」では、注文をすべてアプリに集約。店舗ではコーヒー作りとデリバリーに特化した形でサービス提供を実施しています。これにより、ユーザーデータを蓄積しやすくしつつ、設備やワークフローの効率化により店舗にかけるコストを最小限に抑えることに成功。出店スピードの加速に繋がっています。

CHOOSEBASE SHIBUYA(そごう・西武)

CHOOSEBASE SHIBUYA
出典:リアルストア お買物の仕方 – CHOOSEBASE SHIBUYA

渋谷の西武百貨店内にある商業施設「CHOOSEBASE SHIBUYA」では、折々のテーマに合わせた商品展示を実施。商品のそばに二次元バーコードを設置し、スマホで読み取ることで商品説明や値段の確認、注文をできるようにするなど、リアル店舗での商品購買行動をオンラインでサポートしています。

明日見世(大丸松坂屋百貨店)

明日見世
出典:明日見世(asumise) | 大丸・松坂屋

大丸東京店では「明日見世」としてD2C(Direct to Consumer:製造者と消費者の直接取引)を提供している企業の見本市を展開。大きな特徴は、実店舗でじっくり商品を選んだうえで、購入する際はその場でECサイトから買い物かごに商品を入れる方式を採用している点です。出展ブランドは実際に来店した顧客から多様なデータを収集できるほか、現場でダイレクトな評価を受けられるメリットを享受できます。

OMOによる接点の改善

もう一つの OMO戦略のアプローチとして、接点の改善が挙げられます。これは、顧客接点をオンライン・オフラインで高頻度に持つことで顧客解像度を高め、今までできなかった価値を提供するアプローチです。

平安好医生(平安グッドドクター)

中国の大手保険会社である平安保険が提供しているアプリ「平安好医生(平安グッドドクター)」では、医療機関の予約からオンライン診療、処方箋の受け取り、医薬品の購入まで、医療にかかるすべての接点をアプリで完結させている点に特徴があります。これにより、通院や処方にかかる時間を、患者と医師の双方において短縮させる効果を生み出しています。

自如(ズールー)

中国の若者向け賃貸サービス「自如(ズールー)」では、サービスの一つとしてルームシェア向けのサポートを実施。家賃の支払いや清掃といったルームシェアの課題を解決するために、家賃の個別支払いや、追加費用により清掃や家具の修理を依頼できるサービスを提供しています。

保険IQシステム(アイリックコーポレーション)

日本のアイリックコーポレーション社が提供する「保険IQシステム」では、保険ショップで行うような高度な保険のシミュレーションをユーザー自らで行うことができるサービスを提供。ユーザーが希望した条件に合致する保険を提示しつつ、後続フローである保険加入のコンサルティングから実際の申し込みまでワンストップで対応することで、ユーザーが本当に必要とする保険を選択できるという価値を提供しています。

OMO戦略の進め方

ここまで、OMO のメリットや事例をご紹介しました。ここまでの内容を踏まえつつ、具体的に企業は OMO にどのように取り組むべきかを解説していきます。

1.ユーザー理解

OMO戦略が目指す目的は顧客体験価値の向上です。よって、まずはユーザーの理解が重要です。ペルソナ設定やカスタマージャーニーマッピングなどを行うことで、ユーザーがどのようなニーズ課題をどんな時に抱えているかを理解していきます。

2. ユーザーの求める価値を体験に落とし込む

洗い出したニーズや課題に対して、それらを満たす・解決するための体験を設計します。ここで OMO の考え方がポイントとなります。従来は、オンラインとオフラインの体験は切り分けて設計するのが当然でした。OMO の戦略では、両者を組み合わせることでどのような体験を新たに提供できるかを思索し、アイディアを膨らませます。
この時、オンライン・オフライン双方でどんな接点を設けられるか、各接点でどのようなデータが収集できるか、必要に応じてそれらを統合することでどのような価値を提供できるかを考慮することも重要な観点となります。

3. オンラインとオフラインをどうつなぎ施策に落とすか考える

次に、具体的な施策に落とし込みます。たとえば、オンライン・オフラインの購買データを統合することで、より高度に商品のリコメンドを実施したいケースを想定します。これを実現するためには「EC会員のAさんの購買データ」と「実店舗でのAさんの購買データ」が同一人物(同じAさん)であると紐づけなければなりません。このような時に検討できるのが、EC・実店舗でのポイントカードの統合です。ECサイト上の会員ID と実店舗のポイントカードID の紐づけを行うことが検討できます。ポイントカードはスマートフォン上のアプリでデジタル会員証として提供することで、この紐づけを実現できます。小規模店舗では、LINEミニアプリによる低コストでのデジタル会員証発行も検討できるでしょう。このような取り組みにより、ECの購買データとPOSやレジの購買データを紐づけます。
これらを実現するためにはシステム面の対応が必要です。具体的には以下のようなシステム・ツールの導入が検討できます。

  • 顧客データをまとめて管理するデータベース
  • 顧客との関係性を管理する CRM(Customer Relationship Management)
  • 見込み顧客の管理や育成などを実現する MA(Marketing Automation)
  • 接点の獲得やオンライン・オフラインの紐づけを実現するスマートフォンアプリ・LINEミニアプリ

2で考案した顧客体験を具体的に実現するために必要なアセットやシステムの構成・接続を設計していきます。
この段階ではビジネスの企画を担当する部署だけでは検討が難しいケースも多くなるでしょう。自社の ECサイト・店舗の POSシステム・アプリの開発担当などシステムに詳しいメンバーを巻き込んだ議論と整理が必要です。

4. 設計したUXの改善方法を考える

サービスもプロダクトも作って終わりではありません。改善してよりユーザーに喜んでもらえるように PDCAサイクルをまわすことが重要です。
サービスの利用データや商品の購買データの分析、アンケートなどで取り組みを検証することを計画しておきましょう。サービスが本当にユーザーにとって良い体験を提供しているかを振り返り、改善を重ねていきましょう。

OMO戦略で顧客体験をひとつ上のステージへ進めましょう


この記事では、注目を集める OMO戦略についてご紹介しました。
スパイスファクトリーでは、OMO の戦略実践に必要な ECサイト構築やシステム連携開発、UXリサーチやアンケートの実施等取り組みの検証サポートも実施可能です。
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参考文献

藤井保文.「アフターデジタル2 UXと自由」.日経BP. 2020/7/29
日本経済新聞出版.「日経MOOK 店舗DX2022」.日経BP. 2022/2/18

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