現在、システム開発やサイト制作などのものづくりにおいて、ユーザー起点で使いやすさを考えることが求められています。
ただイケてるもの、かっこいいものを作ったとしても、使いやすさがなければユーザーはついてきません。
そのためにまずやるべきこととして重要視されているのが「ユーザビリティテスト」です。
本記事では、ユーザビリティテストとは何か、その種類や評価項目、やり方について説明します。
関連記事:「Webサイトのユーザビリティ課題はどう解決すればよい?UI/UXを改善するためのポイントを解説」
Contents
ユーザービリティテストとは
ユーザービリティテストとは、ユーザビリティにおける問題点を発見し、それらを改善・向上させるために行うテストのことです。
それでは、ユーザビリティとは何でしょう。
ユーザビリティ研究の第一人者であるニールセンは、ユーザビリティを構成するものとして5つの要素があるとしています。
- 学習のしやすさ:ユーザーがシステムの利用方法を簡単に習得できる必要がある
- 効率性 :ユーザーが効率的にシステムを利用できるようにする必要がある
- 記憶のしやすさ:不定期利用のユーザーでもストレスなく利用できるようにする必要がある
- エラー :致命的なエラーを防ぐことはもちろん、エラーが起きても早急に復旧できるようにする必要がある
- 主観的満足度 :ユーザーが個人的に満足でき、楽しく利用できるようにする必要がある
出典:黒須正明『構造化ヒューリスティック評価法』
ユーザビリティテストとは、これらの要素を改善・向上させるためのテストとなります。
例えば、ユーザーがシステムの利用方法を学習しやすくするために、ユーザーが初めてシステムに触れる際の行動を観察し、どの部分が学習を妨げているのかを特定します。
この結果を踏まえ、画面の簡素化や適切なナビゲーションの追加を検討します。
また、システムを効率的に利用できるかについては、タスク実行に必要な時間やステップを計測し、無駄を排除してスムーズに操作できるように改善します。
記憶のしやすさの観点では、システムの利用頻度が低いユーザーであっても操作方法を忘れないかどうかを検証し、その結果を踏まえて分かりやすいアイコン設計や一貫性のある構造となるように改修を行います。
このように、ユーザビリティテストによりユーザビリティを構成する各要素を改善させ、よりユーザーにとって価値のあるシステムを提供することができるのです。
ユーザーテストとユーザビリティテストの違い
ユーザビリティテストと似た言葉にユーザーテストというものもありますが、両者は異なる概念です。ここでは、両者の違いをご紹介します。
ユーザーテストは、ユーザーがプロダクトやサービスに対して価値を感じ、利用してくれるかを分析するために行うテストです。
具体的には、ユーザーがそのプロダクトやサービスを「どう感じるか」や「どのように使うか」に焦点を当て、ユーザーのニーズや期待に応えているかを判断します。
ユーザーテストは主にプロダクトの開発初期に実施することが多く、アイディアの価値を検証するために活用できます。
必ずしも実際に操作できるものが無くても実施でき、ワークショップやインタビューによって実施することも可能です。
このように、ユーザーに実際のシステムを操作してもらい、使い勝手の観点で改善を行うユーザビリティテストとは実施内容や実施タイミングの点で異なります。
なお、ユーザビリティと関連した言葉としてよく聞かれる「アクセシビリティ」については、以下の記事で解説しております。
ご興味のある方は、こちらの記事もご覧ください。
関連記事:「アクセシビリティとは?ユーザビリティの違い、重要性や例について分かりやすく解説」
ユーザービリティテストの目的
ユーザビリティテストの目的は大きく2つあります。
- 問題の早期発見
- 品質の向上
一般的に、プロダクト開発は仮説を基にして実行に移していきます。
しかし、どれだけチームで話し合い仮説を立てたところで、本当にユーザーにとっての使いやすさを実現できるかは確実ではありません。
開発側が使いやすいと思って設計したものでも、実際にはユーザーにとって邪魔になってしまうケースなども往々にしてあるのです。
仮説を机上の空論にしないためにも、実際の現場検証(ユーザビリティテスト)を通して、その仮説が合っているか否かを確かめる必要があります。
そうすることにより、問題の早期発見に繋がり、品質を向上させることができます。
ユーザビリティテストの種類
ユーザビリティテストはその実施方法に応じて以下の3つの種類に分かれます。
対面型ユーザビリティテスト
対面型ユーザビリティテストは、実際のユーザーがテスト環境で製品やサービスを使用する様子を観察する方法です。
テスト担当者がユーザーと直接対面し、リアルタイムでユーザーの意見を収集します。ユーザーの表情や動作、つまずきのポイントなどを細かく観察できる点がメリットです。
さらに、ユーザーとのやり取りを通して、確認したいポイントを深掘りできる点もポイントです。例えば、特定の操作が複雑でユーザーが戸惑った場合、その場で戸惑った理由を深掘りして確認できます。
ただし、対面型はテスト担当者・ユーザー共に準備やテスト場所への移動などで時間がとられる点がデメリットといえるでしょう。
リモート型ユーザビリティテスト
リモート型ユーザビリティテストは、ユーザーが自宅やオフィスなど自分の環境で製品やサービスを使用し、その様子を遠隔で観察する方法です。
地理的に遠い場所に住むユーザーや多忙なユーザーにも参加してもらいやすくなり、また比較的低コストで実施できる点がメリットです。
ユーザーが自分の慣れた環境でシステムを利用するため、より自然に操作できるという特徴もあります。
しかしながら、どうしてもリモートでの観察や対面でのテストと比較すると得られる情報量に劣り、ユーザーの表情や微細な反応を捉えるのが難しい場合もあります。
簡易型ユーザビリティテスト
簡易型ユーザビリティテストは、時間やリソースが限られている場合に実施される、簡便なテスト方法です。
簡易型ユーザビリティテストでは、実験の範囲や対象を絞り、限られた人数で短期間に実施します。
例えば、特定の機能に焦点を当て、数名のユーザーに使用してもらい、フィードバックを得る形式などが考えられます。
簡易型ユーザビリティテストのメリットは、コストをかけずにポイントを絞ってユーザビリティをチェックできる点にあります。ただし、どうしても全体的なユーザビリティの評価には限界があるといえるでしょう。
ユーザビリティテストにおける評価項目
ユーザビリティテストにおいては、定量評価・定性評価の両方の観点から評価を行います。
定量評価
ユーザーの感覚的な側面も強いユーザビリティですが、タスクの成功率やエラー率、タスクの完了までにかかった時間、満足度スコアなどの観点で定量的な評価が可能です。
タスク完了率・エラー率では、ユーザーが設定したタスクを成功させられるか、もしくは失敗してしまうかを評価します。
また、タスクの完了までにかかった時間を計測することで、ユーザーがそのタスクの完了にどの程度苦労するかを測ることもできます。
定性評価
ユーザーの感覚的な面を測定するためには、定量評価だけでなく定性評価も重要となります。定性評価により、数値化されたデータでは捉えきれないニュアンスを理解できます。
定性評価を行うためには、ユーザーが製品やサービスを操作する様子を直接観察し、ユーザーがどの操作でつまずくか、またヒアリングを通してなぜユーザーがその操作につまずいてしまったかを分析します。
東京都デジタルサービス局が公開している「ユーザビリティテストの進め方」においては、以下の観点でユーザビリティに関する課題を整理することが推奨されています。
<ユーザーの評価を整理すべき観点>
- なぜ操作に迷ったのか
- なぜ想定と違う操作を行ったのか
- なぜテスターの満足度を得られなかったのか
※出典:東京都デジタルサービス局「ユーザビリティテストの進め方」P20より
ポイントは、ユーザーの指摘や不満点に着目することです。ユーザーの不満を改善することで、よりよいユーザビリティを持ったシステムを提供できます。
【実例付き】ユーザービリティテストの工程・手法
では、ユーザビリティテストはどのように進めていくのでしょうか。
ユーザビリティテストのやり方には複数種類がありますが、メインとなるのは以下2つの手法になります。
- 思考発話法
- 回顧法
- チームへの共有
これらはセットで行われるケースが多いです。
具体的にどのような流れで行われるのか、実際の例も併せてご説明いたします。
思考発話法
端的にいうと「操作テスト」です。
スパイスファクトリーでは以下のような流れで進行しています。
- ユーザー(人数は最低5名ほど)に利用文脈の説明をする
- 実際にプロダクトに触れてもらいながら独り言をぶつぶつ呟いてもらう
まず、ユーザーにどんな場面で使われるのかを説明します。例えば、食材配達サービスのECサイトの場合、以下のようなイメージです。
「40~50代女性が日々の夕食に課題を感じている。仕事終わりに料理することへの疲れや、栄養バランスを意識することに億劫さを感じている。素早く簡単に調理できるようにサブスクの宅配サービスを検討している。」
また「初回体験サービスを予約してください。」など、最終的にどのような操作をするかを指示することもポイントです。
そして、実際にプロダクトに触れながらその時思ったことを口に出してもらいます。その様子を横で見て、特にどんな時にネガティブな発言が出たかを着目します。
このネガティブ発言が、改善の重要な鍵となります。また、一連の様子を録画・録音しておくと後で振り返るときに良いでしょう。
※テストユーザーの選定ポイント
利用文脈を自分ごととしてイメージしてもらうため、サービスのターゲットユーザーにあった人材を用意しましょう。
また、ユーザー人数は最低5名いることが望ましいです。1人の意見をすべて鵜呑みにすることはリスクがあるため、複数人にテストを実施し相対的に分析しましょう。
回顧法
回顧法では、「操作の振り返り」を行います。
思考発話法の際に録画した動画を見ながら、この時何を思っていたか、あるコンテンツ(CTAボタンなど)を認知していたかなど、ユーザーに質問し深掘りをしていきます。
そうすることにより、ユーザー側とのギャップをより認識をすることができます。
チームへ共有
思考発話法・回顧法で得たポイントをチームに共有し、開発に落としていきます。
ユーザビリティテストを踏まえることで、他のメンバーへパスする際に根拠をもって設計の意図を説明できるようになります。
併せて、改善点の優先順位付けもしておくとよいでしょう。例えば、10人にユーザビリティテストをした場合、8人以上が使いずらさを感じていた点は優先度を高くするなど、数値を基にしてランクを付けるイメージです。
ユーザビリティテストでの成功事例
ここでは、ユーザビリティテストによりシステムのユーザビリティを改善させた事例をご紹介します。
e-Gov
e-Gov は、電子申請機能や法令検索、オープンデータ検索などの機能を提供する政府のオンラインサービスです。
2020年に行われたe-Govのリニューアルにおいては、ユーザビリティにこだわり、徹底的なユーザビリティテストが行われました。
具体的には、e-Govの直接的な利用者である社労士や企業担当者向けに、以下のプロセスでユーザビリティの改善を進めました。
- 現状のシステムの操作上の課題を把握するために、初回のユーザビリティテストを実施
- As-Isのペルソナとジャーニーマップを作成し、現状と課題を整理
- 解決策を検討し、目指すべきTo-Beのジャーニーマップを設計
- 具体的なサイト構成や画面遷移を再設計
- 再度のユーザビリティテストでモックアップを検証
- 改善したモックアップに対して再度ユーザビリティテストを実施し、画面や機能要件を確定
このように、計3回のユーザビリティテストを通して、徹底的にユーザビリティの改善を実施。
結果として電子申請対象手続きの見つけやすさや、トップページのナビゲーションなど、さまざまな点で改善を行うことができました。
※出典:砂金 信一郎他「行政機関におけるサービスデザインの利活用と優良事例」
株式会社ナスタ |「Nasta Box」のフルリニューアルに伴うタッチパネルデザインのブラッシュアップ
1930年の創業以来リーディングメーカーとして日本の住環境を支える住宅建材の製造・販売を行う株式会社ナスタ様では、集合住宅向け宅配ボックス「Nasta Box」のフルリニューアルに伴うタッチパネルデザインのブラッシュアップを検討されていました。
本プロジェクトでは当社も参画させて頂き、UI/UXデザインの支援を行いました。プロジェクトには、ハード・ソフトのユーザビリティに精通したデザイナーをアサイン。
音や光の要素など、ハードウェア特有のポイントを意識しつつ、認知的ウォークスルーやインパクト分析を用いたUI設計やユーザビリティテストの設計を実施しました。
さらに、テストの進め方や注意事項などに加え、思考発話法や回顧法といったテクニック面も含め、レクチャーと実演も行いました。
関連記事:「株式会社ナスタ|ハードウェアのUI/UXコンサルティング支援」
株式会社トムス・エンタテインメント | アニメーションの制作管理システム「ProGrace」の開発
アニメーション制作を営む株式会社トムス・エンタテインメント様によるアニメーションの制作管理システム「ProGrace」の新規開発において、当社はユーザビリティの側面からも支援をさせて頂きました。
このプロジェクトでは、実際にシステムを利用する現場の制作進行担当の方にデモやレビュー、ミーティングに参加して頂き、現場目線の意見を取り入れてデザイン・ワイヤーフレームの作成を進めました。
また、リリース前にはユーザビリティテストを実施し、実際の業務を想定したプロダクト利用の様子を観察することでユーザビリティのブラッシュアップを行いました。
ユーザビリティテストを通してプロダクトの品質向上へ
いかがでしょうか。ユーザビリティテストとは何か、その目的・手法についてお伝えしてきました。
少しでも、あなたのビジネスにお役立ちいただけますと幸いです。
また、スパイスファクトリーではユーザー起点のシステム開発やサイト制作に尽力しています。システムのユーザーが増えない、サイトの申し込みが少ないなどお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。
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