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東京都デジタルサービス局とのアジャイル開発の取り組み事例 DX勉強会レポート(後編)

東京都デジタルサービス局とのアジャイル開発の取り組み事例 DX勉強会レポート(後編)

Posted by スパイスファクトリー公式 | |システム開発

技術の発展や社会の変化など、行政を取り巻く環境は高速に、かつ大きく変化しています。
一方で、これまで自治体におけるシステム調達は請負契約によるものが一般的であり、必ずしも素早く変化に対応できるものではありませんでした。

2023年7月28日にスパイスファクトリー株式会社が開催した『DX勉強会』では、当社取締役COO の小島とプロジェクトの担当者より、これらの取り組みについてご紹介いたしました。
この記事では、本勉強会の要点をお伝えいたします。

なお、本記事は『DX勉強会』レポートの後編となっています。
前編では、一般社団法人行政情報システム研究所 主席研究員である狩野英司氏より「自治体DX」についての講演内容をレポートしております。ぜひ併せてご覧ください。
※前編はこちら:地方自治体におけるDXの進展 〜アジャイル開発との関係性とは?~ DX勉強会レポート(前編)

 

 

スパイスファクトリーと東京都デジタルサービス局によるアジャイル開発の取り組み

東京都デジタルサービス局との取り組み事例全体像

当社(スパイスファクトリー株式会社)と東京都デジタルサービス局との取り組みは、2022年10月~2023年3月までの期間で、準委任契約により実施しました。

従来、自治体におけるシステム調達においては、システムを必要とする部門にて仕様書を作成し、仕様書に基づく競争入札で調達することが一般的でした。
一方で、変化の激しい現代においては、仕様書の作成に時間をかけられないという課題があります。

行政サービスの迅速な提供のため、システム調達においても迅速かつ柔軟なプロセスが必要とされていました。そこで、東京都デジタルサービス局では、迅速かつ柔軟な開発手法であるスクラム開発を実験的に採用。当社はその活動を支援しました。

本プロジェクトにおいては、以下の4つのプロダクトを開発しつつ、その結果をプレイブックとしてまとめ、将来の都の行政サービス開発へ適用することを目指しました。

<本プロジェクトにおいて開発した4つのプロダクト>

①VOC(揮発性有機化合物)連続測定データベースの統⼀化及び可視化

②通学区域デジタルマップ開発

③職員専⽤ポータルサイト

④問い合わせ等受理簿のデータベース化

プロジェクト実行にあたっての課題感と対応方針

本プロジェクトを進めるにあたり、認識していた課題と、それらに対する解決策を以下で整理します。

①要件・仕様が未定の状態からスタート

本プロジェクトは、開発するプロダクトや具体的な要件・仕様が未確定の状態からスタートしました。
当社は準委任契約という契約形態を活かし、契約書に基づいた内容を開発するのではなく、プロダクトのユーザーである東京都職員が今最も必要としていることを優先した開発を実施。
時間契約の範囲内で最⼤限の価値を提供しました。

②東京都初のスクラム開発

本プロジェクトは東京都における初のアジャイル型開発プロジェクトであり、プロダクトオーナー※を担っていただく方もスクラム開発の経験はありませんでした。
そこで当社では、ワークショップを開催することでご担当者の方へスクラムの考え方を共有し、また簡易的なスクラム体験によりプロダクトオーナーとしてどのようなふるまいを行うべきかをご紹介しました。

※プロダクトオーナー:スクラム開発における役割のひとつであり、開発する機能や方向性を決定する責任者のこと。詳細は以下の記事で解説しております。

関連記事:スクラム開発のプロダクトオーナーとは?スクラムマスターとの違いや役割・必要なスキルを解説

③スクラム開発という新しい形の組織への適用

本プロジェクトは、単にスクラムでプロダクトを開発するだけではなく、都庁内にスクラム開発という手法を浸透させていくことが重要なミッションでした。
4つのプロジェクトを職員の皆さまと実践することで、具体的にどのようにスクラム開発を進めていくのか、従来の仕事の進め方とはどのように違うのか、知見の共有を実施しました。

④知見の蓄積

スクラム開発を現場に浸透させていくためには、現実的で実⽤性のあるノウハウの蓄積と共有が必要です。
本プロジェクトにおいては、各プロジェクトの実施を通して得た知見をまとめた「プレイブック」を作成しています。
契約終了後も、プレイブックをスクラム開発の進め方ガイドとして活用できるようにしました。

プレイブックは東京都より公開されており、ダウンロードが可能です。
ご興味がございましたら以下のリンクよりぜひダウンロードください。

(※以下のリンクは東京都のポータルサイト「#シン・トセイ」に遷移いたします。)

https://shintosei.metro.tokyo.lg.jp/post_cp2_230517/

プロジェクト事例のご紹介:Yu-kiについて

本勉強会では、上述した4つのプロジェクトのうち、東京都環境局と進めた「VOC連続測定データベースの統⼀化及び可視化(プロジェクト名称:Yu-Ki)」についてご紹介しました。

VOC とは「Volatile Organic Compound:揮発性有機化合物」の略称であり、光化学スモッグの原因となる化学物質の一つとして知られているものです。
本物質の大量発生を抑制するために、東京都環境局では業務の一つとして VOC のデータを収集・分析しています。しかしながら、作業を Excel で実施していることもあり、集計・分析には時間がかかっていました。
このような単純作業にかかる時間を削減し、環境負荷軽減に向けた本質的な作業に時間をかけられるようにするため、本プロジェクトでは BIツール導入により効率化を図りました。

本開発は2か月という短い期間でリリースまで実施。
東京都デジタルサービス局・環境局と当社でワンチームを結成し、プロダクトオーナーは東京都環境局のご担当者様が担い、スクラムマスター※と開発者を当社が担当しました。
また、東京都として初めてのスクラム開発であることも考慮し、プロダクトオーナーのアドバイザーも当社が実施しました。

※スクラムマスター:スクラム開発における役割のひとつであり、スクラムに精通した有識者として、その理論と実践方法を全員に理解してもらえるように手助けを行う。詳細は以下の記事で解説しております。

関連記事:スクラムマスターとは?役割やスキル、責任について分かりやすく解説

取り組みの流れ

本取り組みは以下の5つのステップで実施しました。それぞれの実施内容についてご紹介します。

  • ① ワークショップ
  • ②キックオフ / 計画‧整理
  • ③スプリント1:互い③ペースを知る
  • ④スプリント2:より洗練させる
  • ⑤スプリント3:リリースに向けて仕上げる

①. ワークショップ


まずステップの1つ目として、スクラムチームでワークショップを開催しました。
ワークショップでは、⾃⼰紹介シートでスクラムチーム全員が⾃分の得意/不得意をオープンに会話し、互いの⼼理的距離を無くす取り組みを実施。

また、ご担当者様に仮想的なスクラム開発プロジェクトを体験頂くことで、プロダクトオーナーの役割を把握できるような工夫も行いました。

② キックオフ / 計画‧整理

キックオフでは、インセプションデッキ※という手法を用いることで、プロジェクト名称やプロジェクトの目的、やるべきこと・やらないこと、利用するツールなどをスクラムチーム内で共有しました。

また、今回のプロジェクトのスコープをユーザーストーリー※の形で整理。
誰のためにどのような機能を用意するかを具体的に確認しつつ、どの機能を優先すべきか優先順位付けを行いました。ユーザーストーリーをスクラムチーム内で共有し、質疑応答などを行うことで、チーム内で開発すべき機能に対する理解を深めることができます。

※インセプションデッキ:プロジェクトの目的や提供価値、課題などの全体像を記載することで、プロジェクトが進むべき方向性を定義し、またチーム内で共有するためのドキュメント。

※ユーザーストーリー:アジャイル開発において利用される、システムを開発する際にユーザーが求めている機能を整理するためのフォーマット。

③. スプリント1:互いのペースを知る

スプリント※の開始時には、スプリントプランニング※として本スプリントで開発する内容を確認します。
ユーザーストーリーの優先順位や必要な作業時間に基づき、最初のスプリントで開発すべき機能を精査しました。

スプリント期間中は、日々デイリースクラムにより開発者同士で進捗状況や課題、確認事項などを共有します。
プロダクトオーナーへ確認すべき事項がある場合は、分科会を設定し内容の確認や質疑応答を実施しました。

スプリントの完了時には、スプリントレビュー※により開発内容を確認します。
スプリント開始時点で計画していた内容を実現できているか、デモを通してプロダクトオーナーの方や関連するステークホルダーの方に確認して頂きました。

※スプリント: 主にスクラム開発で用いられる、1週間~1ヶ月程度の期間で繰り返し開発を進めていく手法。

※スプリントプランニング:スプリント開始時点で実施されるものであり、スプリント期間中に開発する機能を計画し、チーム内で共有する取り組みのこと。

※スプリントレビュー:スプリント完了時点で実施されるものであり、スプリントの成果を検査し今後の方針を決定する取り組みのこと。

関連記事:アジャイル・スクラム開発の「スプリント」とは?意味とその特徴を解説

関連記事:スプリントレビューとは?アジャイル・スクラム開発でのやり方や目的を徹底解説

④ スプリント2:より洗練させる


2週目のスプリントに入る前に、スプリントレトロスペクティブ※として前回のスプリントの振り返りを実施します。

今回は、スプリント1においてプロダクトオーナーの方への確認事項をうまく解決できなかったという反省を生かして、質問箱の設置を実施しました。
これにより、スプリント1で保留にしていた内容も迅速に質問できるようになり、開発対象に対する解像度が高まりました。

また、当初洗い出したユーザーストーリーを改善する活動(バックログリファインメント)も実施しました。
これらの改善活動により、発展的に改善していけるというスクラム開発の利点を享受することができます。

※スプリントレトロスペクティブ:スプリントレビュー後に実施されるものであり、スプリントの内容を振り返り、改善を行うことで今後のスプリントに生かしていく取り組みのこと。

関連記事:アジャイル開発におけるレトロスペクティブって何?効果的な振り返りの方法

⑤ スプリント3:リリースに向けて仕上げる


最後のスプリントでは、プロダクトへのフィードバック対応やマニュアルの作成など、リリースに向けた仕上げに重点をおいて作業を実施しました。
修正に向けた作業のために確保しておいた工数も活用し、機能のブラッシュアップも実施。
品質面も向上させました。

本プロジェクトの成功要因


最終的に、本プロジェクトではツールのリリースまで無事完了させることができました。
本プロジェクトの成功要因としては、以下の3つが考えられます。

  1. ⼼理的安全性の確保:
    スクラム開発においては心理的安全性が重要といわれています。
    ワークショップでお互いのことを知り、個々の強みと弱みを⾒せることでチームの結束⼒を高めることができました。
    チームでなんでも話せるという関係性を構築できた点が成功ポイントの一つといえます。
  2. 提供価値と優先順位の明確化:
    キックオフ後にユーザーストーリーを洗い出した時点では多くの開発要望があったものの、その中で利⽤者にとって価値があるものを優先順位付けしました。
    必要な機能を早く開発することで、具体的なフィードバックを早く得ることができます。
    これにより品質の向上にもつながります。
  3. 作業分担ではなくチームで取り組む:
    発注側・受注側という縦割りの関係だと、どうしても聞きにくいことも増えていきます。
    ワンチームで取り組むことで、些細なことでも勇気をもって発⾔できます。

会話により生まれる気づきが、プロジェクトの成功につながります。

まとめ:地方自治体におけるスクラム開発の適合性

東京都における初めてのスクラム開発プロジェクトは、成功裏に終えることができました。
改めて、従来型のプロジェクトと本プロジェクトの違いを以下に整理します。


本プロジェクトの経験を通して、改めて「地方自治体の開発にはスクラム開発が適している」と感じました。

スクラム開発の原則は、利用者への提供価値を最大限に高めることにあります。
地方自治体という住民に近いポジションであるからこそ、職員の方々は真摯に住民への提供価値を高めることができます。

何より、関わったプロダクトオーナーのみなさまが⼝を揃えて「楽しい」と⾔ってくださったことが、私たちが本プロジェクトにおいて最も誇りに感じたことです。

当社では本事例をはじめとして、これまで様々な企業へアジャイル型でのサービス開発を支援してまいりました。
今後、アジャイル開発を進めたいと考えられている方は、ぜひお問い合わせください。

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本イベントレポートの前編はこちら:地方自治体におけるDXの進展 〜アジャイル開発との関係性とは?~ DX勉強会レポート(前編)

 

 

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