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地方自治体におけるDXの進展 〜アジャイル開発との関係性とは?~ DX勉強会レポート(前編)

地方自治体におけるDXの進展 〜アジャイル開発との関係性とは?~ DX勉強会レポート(前編)

グローバル化やデジタル化、少子高齢化など、行政機関を取り巻く環境は大きく変化しています。
コロナ禍を経た生活様式の変化への対応や、住民サービスに求められるさらなる利便性の向上などに対応するべく、地方自治体はデジタル化の取り組みを進めています。

当社では、2023年7月28日に『DX勉強会』を開催し、一般社団法人行政情報システム研究所 主席研究員である狩野英司氏に「自治体DX」というテーマでご登壇いただきました。
本記事では、狩野氏による講演内容について詳しくご紹介いたします。

なお、本記事は『DX勉強会』のイベントレポート記事の前編です。
後編ではスパイスファクトリーが東京都デジタルサービス局様と実施した例に基に詳細を解説しています。以下より確認いただけます。
後編:東京都デジタルサービス局とのアジャイル開発の取り組み事例 DX勉強会レポート(後編)

登壇者紹介

登壇者プロフィール
登壇者:狩野 英司 氏
一般社団法人 行政情報システム研究所 主席研究員
中央官庁、大手シンクタンク、大手メーカー勤務を経て現職。
行政期間や企業の業務・システム改革、デジタルガバメントに関する調査研究に長年携わる。
2020年に筑波大学発ベンチャーD’s Linkを第二創業、地域DX人材育成に取り組む。

行政を取り巻く環境・課題の多様化と複雑化

行政を取り巻く環境
冒頭、狩野氏から行政を取り巻く環境の急速な変化についてご紹介がありました。

地方自治体は、グローバル化、デジタル化、気候変動などの様々な周辺環境の変化に追随していかなければなりません。
また、少子高齢化の進展やインフラの老朽化の進行は今やほとんどの自治体にとって無視できない課題であり、特に過疎地域においては自治体の持続可能性リスクも高まっているのが現状です。

加えて、住民から期待される行政サービスの水準が高まっているという状況もあります。
生活・仕事両面において、民間ではオンラインサービスの提供が急速に一般化してきました。一方、自治体での手続きについては、相変わらず役所に足を運ぶ必要があったり、手続きに長い時間がかかったりします。
住民に「自治体の対応は遅れている」という認識を持たれてしまっていることも、自治体の抱える課題のひとつでしょう。

こうした現状に対応するべく、地方自治体においてもデジタル化を進めることでこれらの環境変化や課題に対応していく動きが見られるようになってきました。
デジタル化で効率的に業務遂行ができるようになることで、過疎化・労働力不足への対応や、住民サービスのレベル向上などが期待されています。

コロナ禍を契機として、個々の自治体において現場主導でデジタル化が進む

コロナ禍の影響により、自治体においては「現場主導型」でデジタル化が進んだと狩野氏は言います。
従来、国からの指示に基づき業務を進めることが多かった自治体ですが、コロナ禍における混乱状態では大量の業務に対し迅速に対応する必要に迫られ、効率化が求められました。

この結果、必要に迫られる形で自治体のデジタル化が進展。
狩野氏によれば、地方自治体のデジタル化は大きく以下の観点で進んだといえるとのことです。
多種多様なデジタル化

  1. プロセスのデジタル化:テレワークの推進やサービス開発の内製化、ビジネスチャット利用、オンライン申請の普及など
  2. デジタル技術の活用:オープンデータなどを活用したデータ分析やAI・RPAの活用、LINE等のアプリを利用したサービス提供、チャットボット等による非対面型のサービス提供など
  3. 公共イノベーション:オープンソースの共有やオープンデータの提供と活用、公民連携によるイノベーションの推進、民間による公的サービスの提供など

ローコード開発

たとえば、神戸市では職員によるローコードツールを利用したサービス開発が行われました。
ローコードツールとは、プログラミングに関する知識が少ない方でも比較的容易にシステムを作ることができるツールのことです。
実際に、プログラミングの知識がない職員の方が、1週間程度で特別定額給付金の申請状況確認サービスを開発し、住民へ提供しました。

以下の当社記事では、ローコード開発の実際の進め方について解説していますので併せてご覧下さい。

参考記事:AppSheetとは?できることや活用例、料金までやさしく解説

デジタルを前提とした設計の重要性

狩野氏によれば、DX においては既存の業務プロセスを単にデジタルに置き換えるだけではなく、「デジタルを前提に再設計する」ことが重要だといいます。
既存の手続きを単純にデジタル化しただけでは「利用されない仕組み」が生まれてしまいます。

デジタルの特徴を意識せずに既存の手続きをそのまま電子化したり、特定のソフトがないと利用できなかったり、操作が煩雑であったりといった仕組みは、住民には支持されず、結果として利用もされません。
デジタルを前提としたプロセスを意識し、スマートフォンなどのデバイスの操作性や特徴を活かし、誰もが便利かつ直感的に利用できることが重要です。

このように、デジタルを前提として利用者にとって便利なサービスを作り上げるためには「デザイン思考」という考え方が有用です。

デザイン思考

デザイン思考とは、サービスを利用する際の利用者の一連の行動に注目して、サービスを設計するというアプローチのことです。

たとえば、役所に書類を提出する際に、利用者はどのような行動をとるでしょうか。
行政の視点では「申請書の作成」「窓口での提出」「受理」といった住民と直接対面する部分しか見えません。
しかしながら、住民にとっては「必要性に気づく」「申請方法を調べる」「書類を集める」「問い合わせする」という役所に訪れる前までの流れがあり、書類の提出後も「結果の受領」「利用や実施」といった流れがあります。
デザイン思考の視点ではこれらすべての流れに注目して、住民に対してどのようなサービスを提供すればよいかを検討します。

※参考記事:なぜ今、アジャイル開発×デザイン思考が新規事業開発に必要なのか

電子申請ポータルサービスの改善
たとえば、電子申請の一元的な受付サービス「e-Gov」では、デザイン思考の考え方を取り入れたサービス設計を実施しています。
同システムのリニューアル開発においては、ユーザービリティテストとして利用者に実際に操作をしてもらい、その様子を観察することで、不満点や躓きやすいポイントを確認し改善を実施しました。
また、ペルソナやジャーニーマップの整理によるユーザー行動フローの整理を行うなど、UX(ユーザー体験)の向上を重要視した取り組みも行いました。

結果として、同システムは改善前と比較して電子申請の件数が 23% 向上するなど、結果を残しています。

アジャイル型のプロジェクト体制

アジャイル型プロジェクト体制
このような業務プロセスや住民サービスなどを見直していく際に重要なのが「ひとつのチームとして一緒にやっていくという点」であると狩野氏は言います。

住民サービスの担当者やデジタルの専門家、関連するステークホルダーなど、デジタルの導入においては様々な知識や経験が必要となります。
よって、特にデジタル導入においては共創型の課題解決が重要となります。

従来のシステム開発は、請負契約型のプロジェクトが一般的でした。
請負契約型のプロジェクトにおいては、行政側である発注者とベンダーである受注者は分断されていました。
発注者は仕様書さえ作ってしまえばあとは受注者側にお任せであり、受注者側は仕様書に沿ってシステムを作るという関係性でした。

しかし、書類だけでは物事は動かないのが現実です。
よりよいサービスを生み出していくためには、人間同士のやり取りで課題認識や実現したいビジョンを共有し、詳細にコミュニケーションを行っていく必要があります。

アジャイル開発型のプロジェクトでは、従来発注者の立場だった行政側と、従来受注者の立場だったベンダーが一つのチームとして活動します。
アジャイル開発において比較的よく採用されるスクラムというフレームワークにおいては、サービスの機能に責任を持つ「プロダクトオーナー」というポジションと、実際に開発を担当する「開発者」というポジションが一体となって、課題を解決していきます。

このような関係性により、開発者は提供すべき住民サービスの理解が進み、プロダクトオーナーは技術面での実現性を理解した要求ができるようになります。

アジャイル開発やスクラムについては、以下の当社記事で詳しく解説しておりますので、よろしければ併せてご覧ください。

※参考記事:アジャイル開発とは? – システム開発を発注する時に知っておきたい開発手法の話
※参考記事:スクラム開発とは?アジャイル開発との違いやメリット・デメリット、プロジェクトの進め方例を解説

アジャイル利用
海外の行政機関においてはアジャイル型の開発が一般的なものとなっています。
たとえば、デジタルガバメントに関する先進的国家として知られるデンマークにおいては、行政部門の 6割がアジャイル開発を利用しているというデータもあります。

ローコード開発
日本においても、アジャイルというアプローチはすこしずつ浸透しています。
たとえば、上述したローコード開発においては約 2/3 がアジャイル型を採用しているという調査結果※もあります。

ローコード開発においては、住民に近い職員の方が住民ニーズや改善アイディアに沿って柔軟に開発を進めるため、アジャイルというアプローチが適しています。
ローコード開発の例からも見えてくるとおり、行政においては従来の「受注者・発注者という関係性によるシステム構築」から「アジャイルというアプローチによるデジタル導入」へと、意識や進め方が変化しているといえるでしょう。

※参考:一般社団法人行政情報システム研究所・一般社団法人ガバナンスアーキテクト機構によるアンケート調査(2022年9月実施)より

まとめ

この記事では「自治体DX」をテーマとして社会で DX をどのように進めていくのがよいかを紐解いてきました。
大きな示唆として、デザイン思考やアジャイル型開発など、従来、日本のシステム開発で一般的であったウォーターフォール開発とは異なるアプローチや方法も有効であること。
Appsheet に代表されるようなローコードツールを活用し、デジタル化のハードルを下げることなどが印象に残りました。

当社では、これまで自治体を含め様々な企業へアジャイル型でのサービス開発を支援してまいりました。今後、アジャイル開発を進めたいと考えられている方は、ぜひお問い合わせください。

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本記事では『DX勉強会』のイベントレポートの前編です。
後編では前編で解説した内容の具体例として、当社、スパイスファクトリーがご支援した東京都様との取り組みを参考にしつつ、さらに自治体DX の全容に迫っていきます。
後編はこちら:東京都デジタルサービス局とのアジャイル開発の取り組み事例 DX勉強会レポート(後編)

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