変化の激しい時代において従来のビジネスから多角化を図る、もしくは新事業を計画し自社の経営資源を振り分けていくためには、事業戦略の立案が必要です。事業戦略を行う際には、経営戦略上の位置づけを踏まえつつ、フレームワークなどを活用して検討を進めますが、確実性を高めていくためにも PoC の実施も有効な手段となります。
この記事では、企業における事業戦略の地位付けと、その立案方法、活用できるフレームワークについてご紹介します。
Contents
事業戦略とは
事業戦略とは、特定の事業分野において自社の競争優位性を確保するための基本的な構想のことです。
自社の金銭的・人的・設備的経営資源には限りがあります。数多のビジネスチャンスの中から、自社が優位性を確保できる領域をターゲットとしつつ、どのような施策を行っていけば競争に勝つことができるか、自社の資源をどのように分配していくかを戦略としてまとめます。
事業戦略は経営戦略の一部に位置づけられる
事業戦略は、経営戦略の一要素として位置づけられます。
経営戦略とは、自社の経営理念を定め、その理念を達成するために自社が取り組むべきことの方針を定めた体系的なものです。
経営戦略は様々な経営学者により定義がされており、たとえばチャンドラーによれば以下のような定義づけがされています。
企業の長期的目的および目標の決定、これらの目標を実行するために必要な活動方向と資源配分の決定である。
~アルフレッド・D・チャンドラー『経営戦略と組織』より引用
経営戦略は以下のような階層構造で定義され、上位概念に沿った形で下位概念を定めていきます。
たとえば、経営理念に沿っていない事業戦略は、自社の方針にそぐわないため検討すべきではないということになります。
ただし、小規模から中堅規模の企業においては、実質的に企業内で一つの事業しか行っていないケースもあります。
その場合は、企業戦略と事業戦略はほぼ同じものとして位置づけられることもあります。
企業戦略との違い
企業戦略とは、自社の経営理念に基づき、企業が長期間にわたって成長していくための基本的な構想を定めたものです。企業全体として、どのような活動領域をターゲットとし、どのように経営資源を配分していくかを検討します。
事業戦略は、企業戦略と齟齬がないように定めます。
優れた事業戦略であったとしても、企業戦略と矛盾があれば、企業全体としてパフォーマンスを上げることはできません。
一般的には、ターゲットとする事業自体は企業戦略において事業ドメインとして定め、その事業の具体的な進め方を事業戦略として定めていきます。
機能戦略との違い
機能戦略とは、営業活動や生産活動、研究開発、情報システム投資など、事業を展開していく上で必要となる個々の機能について、その方針を定めるものです。
事業戦略よりも下位の概念であり、事業の生産性・効率性を上げていくために定義されます。
事業戦略の立て方
以下では、一般的な事業戦略において検討すべき事項を紹介します。
事業目標の決定
まずは、事業目標の決定です。
その事業を行うことで、企業としてどのような成果をあげるのかを目標として設定します。
企業の存在目的(パーパス)は利益を上げることであり、当然ながら事業を実施する大きな目的の一つは利益の確保にあります。一方で、利益だけが目的というわけでもなく、他事業とのシナジーを狙うための投資や、自社の認知度向上、ブランディング強化など多岐にわたります。
近年では ESG投資の広まりなども踏まえ、社会的な問題を解決することを目標として事業を展開していく企業も増えました。
ESG への貢献もしくは SDGs の達成についても、事業目標として検討すべき観点となります。
このように、企業理念や企業のパーパス、企業戦略の実現に貢献する形で、事業目標を定義していきます。
市場・顧客戦略
市場・顧客戦略として、当該事業領域において市場環境はどうなっているかを分析し、どうしたら顧客に高い価値を提供できるか、他社と比較してどうすれば競争優位性を確保できるかを検討します。
自社が戦うべき市場の設定やメインで狙っていく顧客ターゲットなどの設定が重要です。
市場構造の分析においては、後述する5フォースモデルなどのフレームワークが知られています。
商品・サービス戦略
外的要因である市場や顧客に対して、どのような商品・サービスを提供すればよいかを分析し、競争優位性が確保できる方策を決めるのが商品・サービス戦略です。
自社が提供することのできる商品・サービスは自社の経営資源に依存します。たとえば、コンサルティング事業を実施する場合は人材が重要になりますし、電子機器の製造・販売を行う場合は工場設備が重要な経営資源となります。
どのように商品・サービスを提供していくかを検討する際には、後述する競争優位の3つの基本戦略などのフレームを活用するのがよいでしょう。
PoCによる検証
事業戦略を確かなものとするために有効な手段の一つが、PoC(Proof of Concept:概念実証)の実施です。
PoC はビジネスアイデアなどの実証を目的とした、試作開発や検証のことを指す言葉であり、ここまで整理した市場・顧客および商品・サービスに関する戦略の妥当性を評価するために活用できます。
作成してきた事業戦略が妥当かどうかを評価するためには、事業コンセプトの核となる機能を中心にプロトタイプを開発し、実際の市場・顧客に利用してもらい、フィードバックを確認する形での PoC の実施が有効です。
これにより、立案した事業戦略を低コストで、かつ実際に近い形で検証できます。
また、本格的に製品の開発体制(工場を作り、開発体制を整える・事業を運営する人員を新規採用する等)を作ってしまった後に事業戦略が通用しないことが判明してしまうと投資したリソースが無駄になってしまうリスクも大きくなります。PoC の実施はコスト面だけではなく、事業リスクを抑えることにも繋がります。
一般的に立案した事業戦略は経営層の承認をもって実行することになりますが、PoC を実施してエビデンスを収集することで、経営層への説得力を高めることができます。
提供する商品・サービスが市場ニーズに合致しているかを把握するためにも、PoC の活用が有効となります。
PoC については以下の記事で詳しく解説しておりますので、よろしければ併せてご覧ください。
事業戦略立案に活用できるフレームワーク例
事業戦略の立案に関しては様々な研究がされており、活用できるフレームワークも多く検討されています。
ここでは、そのうちマイケル・E・ポーターによる競争戦略論である「ポジショニングアプローチ」をご紹介します。
5フォースモデル
ポーターの競争戦略論においては、まず業界構造を把握するために「5フォースモデル」を用いた分析を行います。
ポーターによれば、事業の対象とする市場は「利益が確保できること」を重視して選ぶべきであり、たとえシェアが取れても利益が確保できないのであれば望ましい状況ではないとしています。
利益を確保できる市場を選ぶためには、その市場がどのような外的要因にさらされているかを分析することがポイントです。たとえば、ニーズがあり顧客がたくさん存在する市場であったとしても、競合他社も多く存在し、新規参入も容易であれば、市場の競争状況は激しくなるでしょう。
競争が激しい市場では、値引きなど価格競争に巻き込まれる可能性も高くなり、利益確保の面から考えると望ましい市場とは言い切れません。
5フォースモデルでは、以下の5つの観点で市場分析を行い、自社が置かれている、あるいは参入しようとしている市場の評価を実施します。
- 買い手(顧客)の交渉力:
商品の買い手となる顧客がどの程度交渉力を持っているか。
たとえば顧客数が少ない状況では交渉力が高まる。 - 売り手(サプライヤー)の交渉力:
商品・サービスの原料などを提供するサプライヤーがどの程度交渉力を持っているか。
たとえば、提供するために特許技術が必要である部品を持つサプライヤーの交渉力は高まる。 - 新規参入企業:
市場に参入しようとしている企業が存在するか。
たとえば、参入のために技術やノウハウが必要とならない業界においては新規参入企業が増える傾向にある。 - 代替品:
提供する製品と同じ機能を持つ代替品が存在するか。
代替品が存在する場合は、その代替品を提供する市場との競争も発生する。 - 既存業者の敵対関係:
市場内に存在する既存企業者はどの程度存在し、どの程度脅威となるか。
同業者が多ければ企業間の競争は高まる。
また、たとえば多額の初期投資が必要となるなど撤退しにくい市場においては、企業間の競争が高まりやすい。
競争優位の3つの基本戦略
競争優位を確保するために、ポーターは商品・サービスの提供方法について、3つの基本戦略を提唱しています。
- 差別化戦略:
自社商品・サービスの独自性を高め、顧客にとっての魅力を高めることで、競争企業に対する優位性を築く戦略。 - コストリーダーシップ戦略:
同種の商品・サービスを他の企業よりも低コストで生産する戦略。大規模工場による大量生産など、いわゆる規模の経済を活用した戦略となることが多い。 - 集中戦略:
市場を細分化し、自社の経営資源を最大限生かせるセグメントに集中して商品・サービスを提供する戦略。ニッチなニーズを発見し、かつ自社の経営資源を活用できるセグメントを発見することが重要となる。
これらのうち、どのような戦略をとっていくべきかは自社が保有している経営資源によるところが大きいといえます。一般的には、資本力のある大企業はコストリーダーシップ戦略を選択しやすく、独自技術を生かしたベンチャー企業などは差別化戦略を採用しやすいといえます。
バリューチェーン分析
事業を行う上では、製品の設計や製造、マーケティング、流通、販売など様々な活動が必要です。
バリューチェーン分析では、これらの諸活動を体系的に分析し、どの部分が自社の強み・弱みであり、どの部分で価値が提供できるのかを整理します。
たとえば、自社の強みが「革新的な製品デザイン」にあるのであれば、製品設計に価値を置いた戦略が必要です。
製造や流通などに積極的に経営資源を割り当てない選択もできますし、自社では行わずに外部に委託することも考えられます。
もしくは、競合他社との比較において弱みとなる製造・流通での価値向上が競争力強化に繋がると判断できれば、これらに積極的に投資していくという判断もできます。
事業を構成する各機能の一部がいかに優れていても、事業全体ではうまくいかないといったことは良く起こります。諸活動が相互に連結されて初めて事業全体の価値となることは忘れないようにしておきましょう。
まとめ:事業戦略は事業成長のためには必須
この記事では、事業戦略について詳しく解説を行いました。
近年では、新たな事業領域としてデジタルを活用したビジネス展開にも注目が集まっています。自社の経営資源を活用しつつ、デジタル技術を新たに取り入れることで、従来は存在しなかったような商品・サービスの提供を実現できます。
一方で、これまでデジタル領域でビジネスを展開していなかった企業においては、デジタルビジネスを進めていく上でデジタル関連のノウハウやスキルの不足に悩まされるケースも見られます。
当社スパイスファクトリーでは PoC の実施やシステム開発などを通して、デジタルビジネス創造の支援を実施しています。
ぜひお気軽にご相談くださいませ。
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