先日、美容師の友達から「面貸し」というスタイルの美容室の存在を教えてもらった。
別名でミラーレンタルとも呼ばれる「面貸し」とは、美容室側が鏡や椅子など一部のスペースを、フリーランスで活動する美容師に提供すること。一方、美容師は設備を借りた対価として売上の一部を美容室に支払います。
出展:面貸し(ミラーレンタル)とは|美容師/美容室の求人・転職【ビューティーキャリア】
なんとも「Uber」的で先進的なビジネスモデルなんだと驚いたが、美容業界では15年以上前から存在しているらしい。最先端を突き進むイメージがあるテクノロジー業界だが、進歩のヒントは意外と異業種にあるのではないかと思い、もっといろいろな業界の方の話を聞かなきゃなと反省した。
ところで、「Uber」だが、米国では最近(といっても去年の話だが)「ウーバライズ(uberize)」という動詞が登場し、“新興のデジタル企業が既存の業界を大きく変える”という意味で使われるほど、この事象への関心が広がっているらしい。IBMが昨年行った大規模な調査によると、世界中の名だたる大企業(特にエスタブリッシュメントな)のCEOは、自分たちの業界でも、「Uber」のような企業が台頭し、あっと言う間に自分たちを脅かす存在になることを一番の脅威だと感じているらしい。
出展:境界線の再定義 グローバル経営層スタディ
テクノロジーで切り拓く新たな地平 日本IBM[/caption]
業界を隔てる境界線が消滅し始め、他業界の企業が、そこで培った能力を生かして自分たちの事業領域に参入し、業界の統合・融合と、再定義が始まっている。こうしたトレンドは今後さまざまな業界に波及していくように思う。
この動きはテクノロジー業界が他業界を侵食するという文脈で語られることが多いが、テクノロジー業界というか「日本のSIer」から見ると脅威に映るのではないだろうか。
ウェブネイティブ企業の拡大に加え、既存の各市場で既存企業がウェブ活用型サービスを始め、境界領域が生まれること」でウェブビジネス市場が拡大していく。
出典:野村総合研究所 日本の成長を支える産業「ウェブビジネス」
SIerや当社のような受託開発を行っている企業にとってお客様である流通や小売等の他業界の企業が、時代の動きを敏感に察し「自らの業界に及ぼすITパワーの本質」を捉え、自ら技術者を雇用し、イケてるサービスを作り出すー。これまで「システムだけ作れます」というような受託開発型企業はこうした「ITに目覚めたエンドユーザー」とサービスを競争を行って勝てるのだろうか?
現にアメリカには純然たる受託開発型の企業は非常に少なく、多くのエンジニアがエンドユーザー企業(サービス提供側)で技術を活かしている。もっとも、これには柔軟な労働環境などの社会的背景があるだろうが、多重な下請け構造が主体の日本とは大きな違いだろう。
私は、現在受託開発を行っているIT企業の社長だが、「エンドユーザーがエンジニアを雇用し、自社でウェブサービスを生み出していく」方向性については、そうなると思っているし、そのほうが働くエンジニアも報われるのではないかと思っている。
一方でIT技術者を雇用すれば優れたウェブサービスが生み出せるのかというとそんなに単純な話でもないと思っている。
上記動画の21:50あたりから日本交通の川鍋一朗社長が語っている内容が興味深い。
コテコテトラディショナル業界のタクシー業界にとって、テクノロジーと付き合うのは非常に大変。平均年齢も高いしまったくの異文化。世界が全然違う。(中略)表面的に言えば勤務時間/給料/服装/ロケーション(都心ですぐに勉強会にいける範囲とか)など。エンジニアたちが活躍できるような、少なくともストレスなく働けるような場を作らなければいけない。全然違うんですよ。
※上記の動画「IoTが拓く新たなフロンティア〜その可能性と脅威〜」はこのエントリーの記事あまり関係ないが、とても面白いのでお時間がある方はぜひ。
テクノロジーを理解し、ウェブの思想を取り込みながら本業の競争力を高めて勝負する非IT産業企業と、テクノロジーだけではなく、“ビジネス”を深く理解し、“リアルサービス(実業)”でマネタイズを模索するテクノロジー企業ー。今後は業種の垣根を超えてますます競争が激化していくと思っている。井の中の蛙にならないよう、常に情報収集と勉強を怠らないようにしようと襟を正してみる。
About The Author
高木広之介
代表取締役社長兼グループCEO
スパイスファクトリー株式会社代表取締役CEO。システムの受託開発(Java,PHP)やウエディング系のサービス/メディアの運営など。好きなフォントはリョービのゴシック