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「期待通り」わずか3割
突然ですが、システム開発の「成功率」がどの程度かご存知ですか?日経コンピュータが2014年に行った調査によると、「当初予定していた品質・予算・納期遵守できた」新規システムの導入・開発プロジェクトは「75%」だったそうです。ただ、これはあくまで「品質・予算・納期の遵守」ができたプロジェクトの割合。
アビーム コンサルティング株式会社の 「国内大手企業125社のIT投資意識調査」によると、システム開発の成果について、「期待以上」だったとした企業はゼロに近く、「期待通り」と回答した企業も3割程度に留まるという結果になったそうです。つまり、「期待通りの成果を上げたシステム開発はわずか3割」ということになります。
そこで、本日はシステム開発を発注する前に、期待どおりの成果が上がらない原因とその対策方法についてお届けしたいと思います。
システムが提供する“価値”はさまざま
一口にシステム開発を言っても、規模や分野によって求められる役割が異なります。例えば、安全な暮らしを支える社会インフラとしてシステム(交通インフラ)とネットショッピングサイトが提供する価値はまったく違います。今回はシステムが提供する価値を「売上向上に貢献するタイプ」のウェブシステムに焦点を当てて失敗の原因と対策についてお伝えします。
収益化を目的とした“攻め”のウェブシステム開発
・新規顧客を獲得するためのオウンドメディア構築
・新規事業としてのウェブサービスの開発
・既存顧客に向けてクロスセル(他の商品などを併せて購入いただく)商材としてのシステム
上記のように新たなお客様を開拓したり、既存顧客の客単価アップを期待し開発を行うシステムです。システムの貢献により発生した利益がシステム開発費用を上回れば「成功」と言えるでしょう。ただし、販売・顧客管理システム(CRM)や既存顧客の満足度向上を目的としたシステムなど、時間軸や費用の切り分けが難しく、そのシステムの貢献度合いを正確に把握しにくい分野もあります。
「売上貢献型」のウェブシステム開発でよくある2つの失敗ケース
システム開発の失敗例はさまざまなパターンが存在しますが、代表的なケースとしては大きく下記の2パターンの分類することができます。
イメージと違うものが出来上がった
失敗例でもっともよく耳にするのは、開発を終えシステム開発会社が提出した実物を見ると思い描いたイメージとは食い違ったものになっていたケースです。この時点で修正や仕様変更を加えると納期に影響を及ぼすばかりではなく、場合によっては追加予算が発生するケースも。追加予算が免れたとしても急いで納期に間に合わせるために品質が低下し、表示崩れやバグが発生し、最悪の場合はまったく使い物にならないシステムになってしまったという場合もあります。
想定していた売上が上がらない
思い描いたシステムが出来上がったのにも関わらず、想定していた売上がまったく上がらない-。これではせっかくのシステム投資が無駄になってしまいます。「システム開発として失敗」という側面よりも「ビジネスとしての失敗」という側面が強いかもしれませんね。新しい取り組みに当然、失敗はつきもの。ですが、せっかく作ったシステムなので、少しでも多くの顧客にご利用いただき、ビジネスとしての成果をあげたいものですね。
攻めのウェブシステム開発で失敗する主な原因
開発会社(もしくは他部門など)とのイメージの食い違い
「落ち着いた雰囲気」や「スマートフォンでも使い易い」など抽象的かつ感覚的な言葉のみで開発を進めてしまうのは非常に危険です。同じ言葉でも頭の中で思い描くイメージは人それぞれ。ましてや最近のウェブシステムは高度化しており、使ってみたときの操作感や与える印象など、細部のディティールがサービスの成否を握ると言っても過言ではありません。
開発会社が提出する資料が分かりにくかった
認識のすり合わせのためシステム開発会社は「DB設計」「ER図」「画面遷移図」など、システムの要求を確認するための資料を作成します。こうした資料の中には専門用語が多かったり「実際に動くもの」とは程遠いので、資料を確認するためにはある程度のIT知識が必要なものもあります。これでは使ってみたときの操作感や与える印象が分かりません。分からないのでとりあえずGOサインを出す。そして上がってきたシステムを見て愕然とする-。こんな光景が上手くいかないシステム開発の現場では繰り広げています。
顧客ニーズの読み取り不足
どんなに機能的に優れたシステムを提供しても、顧客ニーズを満たしていなければビジネスとしての成功は難しいでしょう。次々と新たなサービスが生み出されている現代において、ユーザーの表面化している「ニーズ」だけではなく、さらに一歩先のお客様自身が認識していない「真のニーズ」や、お客様の見えない心の動き=感情に共感し、訴えかけるものづくりが求められています。ユーザーを深く理解する-。使い古された当たり前のワードですが、徹底できていない企業が多いのも事実です。
分かりにくい戦略
システムを通じて収益を上げることを目的とする場合、シンプルで分かりやすい戦略が必要です。前述の「顧客への理解」を通じて見出したニーズに対して、どう自社に強みを生かし価値を提供するか。そして、競合他社といかにして差別化を行うのか。こうした戦略の骨子がシンプルで明快であり、社内はもちろんパートナーである開発会社にも共有されていることが大切です。ここで大事なのはシンプルで明確であること。戦略が複雑で何度聞いてもよく分からなければ戦略は共有されず、その効果を発揮することはありません。
システム開発で失敗しないために知っておきたい4つの対策
(1)「設計書」を事前に確認する
ソフトウェアは動かしてみなければ見えない部分が多いのが特徴です。事前にどれだけしっかりとしたドキュメントを見ても、実際に使ってみると操作感や表示のバランスが違ったり、意図と違う動作をすることが多くあります。設計資料が分かりにくければIT知識が少ない方にとってはしっかりとした確認を行うことが難しくなり、意図と違うものが出来上がってしまいます。
そこで発注前の段階でシステム開発会社が提供する画面系の設計書を確認することをおすすめします。
ウェブシステム開発会社であれば、必ず下記のような画面系の設計書を用意しています。
(1)各画面のデザイン・動作・機能・画面遷移などを示した「画面仕様書」(Excelが多い)
(2)画面仕様書よりも、より見やすく工夫された「ワイヤーフレーム」(PowerPointや専門ツール)
(3)見た目を最終形に極限まで近づけ、ブラウザ上で実際に動きを確認できる「プロトタイプ」(HTML)
出典(左):第3章 画面レイアウト – IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
出典(右):Cacoo(カクー
画面設計書の書体は(1)のみや(1)と(2)の組み合わせ、(3)まで用意している会社、独自の書式を用意している会社など、各社さまざまです。システム開発で大事なのは双方のコミュニケーション。そのコミュニケーションの“土台”となるどのような設計手法をもとに開発を進めていくのかという点もシステム開発会社選びの一つの指標にしていくことも大事です。
出典:当社が情報サイト構築プロジェクトで実際に提出したプロトタイプ。HTMLで構成されており、スマートフォンを含めて事前に動きを確認できる
(2)顧客理解に労力を割く
出典:カスタマージャーニーマップを正しく活用するには「おもてなし」と「カスタマーエクスペリエンス」の理解
システムの価値に対して最終的に対価を支払うのは顧客。顧客に選ばれるために、もっとも重要なことは「深く知る」こと。年齢や性別/居住地はもちろん、顧客が日々何を感じ、何に関心があり、潜在的に抱えている課題や想い-。数字で表せないもっと深くまで、顧客に“共感”することが大切です。そこで、当社でおススメしているのが「カスタマージャーニーマップ」の作成です。カスタマージャーニーマップとは、サービスを利用する際にお客様がとる一連の「行動」はもちろん、「思考」や「感情の起伏」まで踏み込んで視覚化した図のこと。自社とお客様との接点を書き加えることで、どのタイミングでどのような機能が用意し、価値を提供すれば良いのか分かるようになります。
カスタマージャーニーの意味を直訳すると「顧客の旅」となります。顧客が商品を認知してから、購入し、さらに購入後の行動(例えば評価・レビュー・口コミなど)に至るまでを「旅」と捉え、その一連の行動を時系列で把握する考え方を、カスタマージャーニーと呼びます。
出典:Cバイブル
うまく活用することで、そのシステムが提供する価値についてチーム内で共通認識を得ることができます。
(3)シンプルで明確な戦略をもつ
独占的な企業でも無い限りあなたの会社には競合企業が存在するはず。そして、お客様はあなたの会社が作ったシステム(サービス)と競合製品を必ず比較するでしょう。あなたの会社の強みをシステムにどう落とし込み、差別化を図るかという視点も初期の段階で考えておく必要があります。こうした「自社」と「顧客」と「競合」の関係性を整理する手法として3C分析というフレームワークがとても有名です。3C分析とは、顧客(Customer)、競合の動向(competitor)、自社(Company)の3つを分析することで、プロジェクトの課題や成功要因を見つけ出し、経営に活かすためのフレームワークのことです。
システム開発のプロジェクトでも開発会社にこうした戦略を伝え、意識の共有を図るがとても大切です。作り手も「どのような意図・目的をもったシステムであるのか」を深く理解するほうが良いものが作れます。また、開発会社から「こういう機能はどうですか?」と積極的に提案が上がってくるかもしれません。
一方で3C分析にもデメリットがあります。それは変化に弱いということ。私たちを取り巻く環境は変化のスピードはとても速く、市場も刻一刻と変化しています。開発途中で競合の動向が変化するのはもちろん、ユーザーを取り巻く環境さえ変化する可能性があります。
(4)小さくはじめて大きく育てる
前述の3C分析の変化に弱いというデメリットを受けて最近のシステム開発プロジェクトで注目されているのは「アジャイル(agile)開発」というソフトウェア開発プロセスです。はじめから大きなシステムを作るのではなく、小さなところから細切れにリリースを行い、ユーザーの反応を見ながら次の打ち手を考える-、そして、それ繰り返すことによってリスクを最小化する「小さくはじめて大きく育てる」開発手法です。
・要件の全体像がはっきりしていない
・ビジネスの状況変化が激しく仕様の優先度が変化する可能性がある
・開発会社との信頼関係が構築できておりチームとして参画してくれる
上記のようなプロジェクトは一般的にアジャイル開発との相性が良いと言われています。既存の開発会社にアジャイル開発の実施についてご相談されてみてはいかがでしょうか。
アジャイル開発で理想のシステム開発を
以上となります。次回は「コスト削減」を目的としたシステム開発の失敗原因と対策についてご紹介いたします。
About The Author
高木広之介
代表取締役社長兼グループCEO
スパイスファクトリー株式会社代表取締役CEO。システムの受託開発(Java,PHP)やウエディング系のサービス/メディアの運営など。好きなフォントはリョービのゴシック