SNS の普及によりユーザーの体験が拡散される現代において、多くの製品・サービスの担当者が UX に対する重要性を認識しています。一方で、UX を向上させるためには何から取り組めばよいのか、と悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
UX の取り組みにおいて、まず欠かせないのが UXリサーチです。
この記事では、UX への取り組みに興味をお持ちの担当者様にむけて、UXリサーチとはどのような調査なのか、メリットや必要とされるケースを解説します。
UXリサーチの手法や選び方については以下をご参照ください。
Contents
UXリサーチとは
まず、UX の概要と UXリサーチとはどのような調査なのか解説します。
そもそもUXとは
UX は、ユーザーエクスペリエンス(User Experience)の略で、顧客体験とも言われます。UX には、ユーザーが製品やサービスを通して得るあらゆる体験が含まれます。
たとえば、UX の例として製品やサービスを知ったときの印象や、使いやすさ、使用後の満足度などが挙げられます。ユーザーは、良い UX を得られれば製品・サービスのファンとなり、逆に UX が悪ければ製品・サービスに不満を抱いて使わなくなります。
UX に関連する言葉に「ユーザビリティ」があります。ユーザビリティは製品やサービスの使いやすさを指す言葉であり、UX を構成する要素の一部です。
UXリサーチとは
UXリサーチとは、ユーザーの行動やその行動に至る心理、感情を調査することです。UX を向上させるためにはユーザーを知ることが欠かせませんが、そのための活動が UXリサーチなのです。
UXリサーチの手法には、インタビューや製品・サービスを使ったテストなどさまざまな方法があり、目的によって使い分けます。定量的な調査だけでなく、定性的な調査を実施するのが特徴です。また、たとえば性別や年代といった広いカテゴリではなく、特定の人物像に絞って深く詳しく調査するのが特徴です。
UXリサーチの専門家は、主に「UXリサーチャー」と呼ばれます。UXリサーチャーは、心理学などで人間の基本的な行動特性を学んでおり、その知見や経験則を活かしてユーザーの行動とその心理を調査、分析します。ユーザーと接する際には、開発側の都合によるバイアスや固定観念を含まないように調査を進めます。
企業活動において、ユーザーの理解はあらゆる場面で求められます。そのため、UXリサーチにより明らかになるユーザーの情報は、新製品や新サービスの企画立案、開発、マーケティングや広報など、多岐にわたる領域で活用されます。
UXリサーチが必要となる背景
では、なぜ従来のマーケティングリサーチに加えて UXリサーチが必要とされるのでしょうか。現代において UXリサーチが必要とされる、主な2つの背景を説明します。
「モノ」から「コト」の時代へ
製品・サービスがあふれる現代において、あらゆる市場がコモディティ化しています。似たような製品・サービスが多くあり、ユーザーは製品・サービスそのもの(モノ)よりも、体験(コト)を重視するようになりました。たとえば、シェアサイクルは、自転車そのもの(モノ)ではなく、近距離の移動手段(コト)へのニーズから広まっています。
ユーザーの変化に伴い、企業は「モノ」づくりから「コト」づくりへの変化が求められています。しかし、ユーザーが求める体験というのは、機能のように言語化しやすいものではなく、抽象的で漠然としたものです。ユーザー自身も明確な答えを持っていないケースが多くあります。
そのため、企業は従来の「モノ」づくりの方法では対応できず、そもそも何を作れば良い体験につながるのかわからない、という状態に陥ることが増えました。
そこで注目されたのが、ユーザーの行動や心理を調査する UXリサーチです。ユーザーの行動や心理を理解することで、ユーザーにとって良い体験とは何か、それにつながる製品やサービスを作り出そう、という考えです。
体験というユーザーの主観で良し悪しが判断される「コト」づくりにおいて、UXリサーチによるユーザーの理解は、一層、重要になっているのです。
多様性の時代
従来の概念とは異なる新しい形態や文化が次々と登場し、多様化が進んでいます。たとえば「家族」という言葉一つをとっても、さまざまな家族の形があります。ユーザーは時代と共に変化していく上、カテゴリが細分化されているのです。
多様なユーザーを前に、開発に携わるメンバーがユーザーに関する共通認識を持つことが、より難しくなっています。開発メンバーにおける認識の相違は意思決定を遅らせ、誤ったユーザーの理解は誤った開発につながりかねません。
そのため、UXリサーチによりユーザー像を正しく理解すること、開発メンバーが共通認識を持つことが求められているのです。
UXリサーチのメリット
製品・サービスの開発担当者にとって、UXリサーチはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、UXリサーチのメリットを3点ご紹介します。
ユーザーのニーズとのズレを減らせる
製品・サービスの開発において、ユーザーのニーズとのズレは大きな開発リスクとなります。しかし一方で、コトづくりにおけるニーズは曖昧な要素が多く、単純な要件にならないため評価も難しくなります。
これに対し、UXリサーチは定性的なアプローチでユーザー起点による製品・サービスの評価を実施します。たとえば、リサーチの場にユーザーが同席し、UXリサーチャーがユーザーの表情や発言、操作内容など多角的にユーザーを観察することで、ユーザーのニーズとのズレを見出すことができます。
そのため、UXリサーチによる製品・サービスの評価を実施することで、ユーザーのニーズとのズレを減らすことが可能です。
開発方針の軸を定めやすい
開発のメンバーによって、ユーザーへの理解度や想定しているユーザーはさまざまです。想定しているユーザーに差異があると、意思決定の際に議論がまとまらない、どの選択肢が最適か決めきれないといった事態につながります。
UXリサーチでは、ユーザー像を明確にし、認識の共有に最適な形でドキュメント化します。ドキュメント化することで曖昧さを回避でき、開発メンバーで同じユーザー像の認識を持てます。ユーザー像が明確であること、また、ユーザー像の認識が共有されていることで開発方針の軸を定めやすくなり、迅速な意思決定につながります。
ブランド価値の向上につながる
UXリサーチによりユーザーを深く理解して開発することで、ユーザーが得られる体験の価値向上につながります。その結果、ユーザーは製品・サービスに対して愛着を持つようになります。しかし、それだけではありません。
“体験がより良いものに進化し続けている”という認識は、製品・サービスへの信頼、そしてリピートでの利用に繋がります。ユーザーは、一度だけ良い体験を得られたとしても、リピートするとは限りません。それは、ユーザーが“より良い体験”を求め続け、製品・サービスが進化しなければ時間と共に満足度が下がっていくためです。製品・サービスの長期的な成長のためにも、UXリサーチは必要不可欠なのです。
UXリサーチにより継続的に体験の価値を向上させていくことは、製品・サービスへの愛着、リピート利用を生みます。リピーターやファンを増やすことになり、企業のブランド価値の向上につながるのです。
UXリサーチが必要なケース
UXリサーチは、どのようなプロジェクトでも取り入れることができます。ここでは特に UXリサーチが必要なケースを 3つご紹介します。
新規事業開発にあたりユーザーの課題やニーズが不明確なケース
新しい製品・サービスは、ユーザーの今の生活の中に取り込まれます。そのため、新規事業開発では現状のユーザーの課題を深く理解し、ニーズにつながるものを開発することが重要です。
しかし、ユーザーは自身の課題やニーズを明確に理解しているとは限りません。たとえば、毎日のことで慣れてしまって不便さを感じなくなっていることがあります。
そのため、UXリサーチにより現状のユーザーが何を考え、どのように行動し、何を思うのかを深く理解する必要があります。ユーザーの現状を深く知りながらも客観的に見ることで、課題やニーズとなる部分が見えてくるのです。
新機能や新サービスのプロトタイプを検証するケース
ユーザーは使ったことのないものを正しく評価するのは難しいため、新機能や新サービスはプロトタイプを使った検証が有効とされています。しかし一方で、ユーザーによるテストは時間が制限されており、すべての項目をテストするのは困難です。
そこで、ユーザーによるテストの前に、UXリサーチャーによるユーザビリティの評価が役立ちます。UXリサーチャーの知見や経験則から、ユーザビリティ上の基本的な問題を洗い出しておくのです。その結果、ユーザーによるテスト時には、より重要な項目に絞って検証できます。
その上で、ユーザーによる検証時には、より自然なかたちでユーザーが評価できるように場面の設定やタスクの流れなどを設計します。また、ユーザーが操作する様子を観察しながら臨機応変に質問することで、改善点や解決の糸口を見出します。
UXリサーチをプロトタイプの検証に取り入れることで、リリース前に必要な改善点を把握できます。
次開発に向けて現行の製品・サービスを評価するケース
現行の製品・サービスがある場合、ユーザーの行動を定量的に測定していたり、ユーザーからのコメントや要望を得ていたりするかもしれません。しかし一方で、定量データや要望など、定点的な調査による情報が多いほど、情報の紐づけや対応の優先順位が付けづらくなります。
たとえば、要望を出したユーザーの利用期間や利用頻度、利用する場面、立場といった背景情報を知らなければ、ニーズの大きさや改善のインパクトを見積もれません。また、ある部分を改善すれば、別の部分も改善されるといったケースもあります。
そこで、UXリサーチにより、ユーザーの行動や思考を一連の流れとして理解することが役立ちます。ユーザーの行動と思考を連続的に紐づけることで、要望の内容を適切に理解し、次開発に向けた検討をしやすくなります。
UXリサーチの事例
UXリサーチを活用して製品・サービスが開発された事例をご紹介します。
LINEスタンプ
UXリサーチの結果を元に判断し、事業が成功した例として、LINEスタンプの開発事例をご紹介します。
LINEスタンプとは、LINE株式会社が提供するチャットツール「LINE」で、文字の代わりに送る画像のことです。LINEスタンプは、機能が人気であるだけでなく、LINEスタンプを販売するマーケットなどビジネス面でも成功しています。
そんな LINEスタンプですが、開発当初に実施されたUXリサーチでは9割のユーザーからは ”不要”という評価を受けました。しかし、残りの 1割である 10代の女子高生からは、熱狂的な様子で”必要”という評価を受けたといいます。
この 1割の熱狂的なファンを元に、LINEスタンプの開発を進めたそうです。仮にこのときに評価が簡易的な受容性評価のアンケートであれば、熱狂的なファン層に気づけず、機能のリリースには至らなかったかもしれません。
SmartHR
UXリサーチによる改善を高頻度で実施することで、高い契約継続率を維持している例として SmartHR の取り組みをご紹介します。SmartHR は、株式会社SmartHR が提供するクラウドの人事労務ソフトウェアです。
同社の契約は月額課金、いわゆるサブスク契約です。サブスク契約は初期費用を抑えられるためユーザーに使ってもらいやすい反面、離脱されしやすいビジネスモデルです。ユーザーに不満があればすぐに他社に乗り換えられてしまいます。
そんな中、同社は高い契約継続率を維持しています。その理由の一つとなっているのが、2週間に 1回という高頻度での UXリサーチによる製品評価です。UXリサーチの専門部署を設けることで、高頻度での評価を実施できる仕組みを実現しています。
Nintendo Wii
UXリサーチにより新しいユーザーの獲得に成功した例として、Nintendo Wii の開発事例をご紹介します。
Nintendo Wii は、任天堂株式会社が 2006年に発売した家庭用ゲーム機器です。Wii が発売される前のゲーム機は、多数のボタンがついたコントローラーを巧みに操作して楽しむのが主流でした。そんな中、発売された Wiiは、ゲーム初心者でも扱いやすいシンプルなコントローラーで、家族で楽しめるゲームとして人気が出ました。
Wii のヒットにつながったシンプルなコントローラーや家族で楽しむというコンセプトは、同社社員の家庭を観察したことから得られたと言われています。UXリサーチの行動観察といわれる方法です。
既存ユーザーだけでなく、そのユーザーの環境や周りとの関係などを深く知ることで、新たなアイデアとユーザー獲得につながったと言えるでしょう。
UXリサーチで顧客体験を向上。事業成長へつなげよう
この記事では、UXリサーチについてご紹介しました。もし、製品・サービスの開発に携わる中で“考えてもわからない”という場面があれば、それはユーザーのことを知ることで解決されるかもしれません。体験を重視したコトづくりの現代において、UXリサーチによるユーザーの理解は必須となっています。
UXリサーチにはさまざまな手法があり、目的だけでなくコストや期間などに応じて柔軟に対応できます。また、UXリサーチで得られる知見は、開発だけでなく、マーケティングやブランディングなど、多岐にわたって役立ちます。これから UXリサーチを始める、UXリサーチに興味があるという方は、まずは取り入れられる部分から始めてみてはいかがでしょうか。
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