UXリサーチには、目的や用途に応じた様々な手法があります。UXリサーチを実施しようと思っても、どの手法が適切なのか、どのように手法を選べばよいのか悩まれる方は多いでしょう。
この記事では、多数あるUX手法の中から代表的な手法8つをご紹介し、それらの選び方について解説します。UXリサーチを実施する際のポイントについても解説していますので、UXリサーチに取り組む前の参考にしてください。
UXリサーチとはなにか、どのようなケースで必要とされるかについては以下の記事をご参照ください。
UXリサーチとは?
UXリサーチとは、ユーザーの行動やその行動に至る心理、感情を調査することです。UX を向上させるためにはユーザーを知ることが欠かせませんが、そのための活動が UXリサーチなのです。
企業活動において、ユーザーの理解はあらゆる場面で求められます。そのため、UXリサーチにより明らかになるユーザーの情報は、新製品や新サービスの企画立案、開発、マーケティングや広報など、多岐にわたる領域で活用されます。
UXリサーチの種類
UXリサーチの手法は、数値によって結果を表す「定量調査」と、言葉や絵などの数値以外の表現によって結果を表す「定性調査」に分けられます。調査後にどのような分析をしたいのか、そのためにどのような形で結果を得たいのかによって、選ぶ手法が異なります。
また、UXリサーチは、ユーザーへのアプローチ方法の違いによって「探索型リサーチ」と「検証型リサーチ」にも分けられます。探索型リサーチはユーザーの潜在ニーズを探索することを目的とし、検証型リサーチは仮説や製品の評価・検証を目的としています。
参考までに、上の図では各 UXリサーチ手法の代表的な使われ方を分類しています。図は一例であり、定量調査と定性調査、探索型リサーチと検証型リサーチの両方で使われる手法もあります。
定量調査と定性調査、そして探索型リサーチと検証型リサーチのそれぞれの特徴を解説します。
定量調査
定量調査とは、数値や量で示される定量的な結果を得たいときに実施する調査です。たとえば、アンケートを実施して年代ごとの購買傾向を調べる、Webサイトの滞在時間に対する購入率を調べる、といったケースです。
定量調査は多数の結果を統計的に分析するため、製品・サービスに対するユーザーの傾向を把握したいときに向いています。
多数の結果を得られるだけでなく、統計的な有意差を検証できるため、定性調査よりもより精緻な検証が行えることが大きなメリットです。
定性調査
定性調査は、数値で表せない言葉や行動などを文章で示した結果を得たいときに実施する調査です。たとえば、ユーザーの発言や行動から、根底にある価値観を調べるといったケースです。定性調査の結果には、文章以外にも、写真やイラストなど多様な表現方法が用いられます
定性調査は、特定の調査対象に対して質的に分析するため、ユーザーの心理や価値観など、表面的にはわからないことを明らかにしたいときに向いています。
探索型リサーチ
探索型リサーチは、仮説や新規事業のアイデアなどを立案するために、ユーザーの潜在的なニーズを知りたいときに実施する調査です。バイアスや開発側の都合を排除し、幅広い視野で探索的にユーザーにアプローチするのが特徴です。
たとえば、探索型リサーチでは、会話の中からユーザーの価値観を探ったり、何気ない行動から潜在的なニーズを探ったりします。
潜在的なニーズをいち早く捉えて事業化することは、新しい事業機会や他社との差別化につながります。そのため、探索型リサーチは事業機会やアイデアを模索している際に向いている調査方法です。
検証型リサーチ
検証型リサーチは、仮説を元に作られた製品・サービスの利用を通して、仮説が正しいかを検証するときに実施する調査です。検証の項目や流れをあらかじめ設計し、それに沿ってユーザーにアプローチするのが特徴です。
たとえば、検証型リサーチではユーザーに特定の操作をしてもらったり、そのときの様子を観察したりして、仮説が正しいかを判断します。そのため、検証型リサーチはプロトタイプや製品がある際に向いている調査方法です。
UXリサーチの手法の選び方
UXリサーチを実施するためには、まず適切な手法を選ぶ必要があります。この章では、UXリサーチの手法を選ぶ際の観点を解説します。
開発のフェーズ
開発のフェーズに応じて、探索型リサーチと検証型リサーチのどちらが適切かを考えます。
一般的には、企画段階ではアイデアの創出のために探索型リサーチ、開発中はプロトタイプの評価のために検証型リサーチが実施されます。リリース後は、現行製品・サービスの評価のために検証型リサーチ、次製品・サービス開発に向けた探索型リサーチと、検証型と探索型のどちらも実施されます。
求める調査結果のかたち
分析時に使用する調査結果が数値かどうかによって、定量調査と定性調査のどちらが適切かを考えます。
統計学的な側面から定量的に分析したい場合には、調査結果として数値的な情報が必要になるため定量調査が適しています。一方、心理学的な側面などから質的に分析したい場合には、調査結果として詳しくユーザーの発言や行動を書き下した文章などが必要になるため、定性調査が適しています。
調査期間と予算
手法によって必要な調査期間や予算が大きく異なるため、プロジェクトのスケジュールと予算の観点からも手法の検討が必要です。一般的には、定量調査よりも定性調査のほうが調査期間と予算を要するケースが多いです。
定性調査では、少人数の調査対象を時間をかけて調査するため、調査対象の選定に時間を要します。また、スケジュールも調査対象の都合に合わせる必要性が大きいため、調査期間が長期化し、必要な予算も大きくなる傾向があります。
ただし、あくまでも傾向であり、手法のアレンジによりコストダウンも可能です。そのため、複数の手法で調査期間と予算を見積もることが大切です。
製品・サービスの分野
製品・サービスの分野も調査手法の選択に影響します。たとえば、高度な専門職など、ユーザーの人数を確保しづらい場合には統計的な分析を目的とした定量調査は難しくなります。また、機微な個人情報を扱う医療や保険などの分野は、複数人に一斉に話を聞くグループでのインタビューは避けるといった配慮が必要です。
代表的なUXリサーチ手法8選
ここでは具体的に代表的なUXリサーチの手法を8つ、定量調査と定性調査に分けてご紹介します。
定量調査
アンケート調査
アンケート調査とは、質問と回答の選択肢をあらかじめ用意した上でユーザーから回答を得る調査方法です。アンケート調査は定量調査で用いられることが多く、選択式の質問をベースに多くのユーザーから意見を集めることでユーザーの傾向を探ります。必要に応じて自由記述の解答欄を設けるなど、定性的な情報収集も可能です。
アンケート調査では、恣意的な調査設計をしないように注意する必要があります。たとえば、回答を誘導するような質問の仕方などは、調査自体への信用を失うため避けなければいけません。
A/Bテスト
A/Bテストとは、2種類以上のパターンを用意して運用し、それぞれの成果を測定することで、より効果の高いパターンを検証する方法です。主にウェブページや広告バナーなどでコンバージョン率を最適化するために用いられます。
複数の改善案を比較的簡単に準備でき、効果測定により改善策を一つに決めたいときに適している手法です。
ヒートマップ分析
ヒートマップ分析とは、ユーザーの操作内容を元にユーザーが注目している箇所を可視化することで、ウェブページ内の課題を見つける手法です。たとえば、ページのコンテンツが最後まで閲覧されていない、といった課題を見つけられます。
ヒートマップ分析で得られるユーザーの視線情報は、ユーザーの行動を分析する際の重要な要素となります。そのため、ヒートマップ分析は他の手法と組み合わせることで、より高度で効果的な分析につながる傾向があります。
定性調査
ユーザーインタビュー
ユーザーインタビューとは、ユーザーに質問を投げかけ、その回答や会話の中から気づきを得る手法です。他の手法と併せて実施されることも多く、UXリサーチの中でも主流と言える手法です。
インタビューの実施方法は複数あります。たとえば、一対一でユーザーを深彫するデプスインタビュー、共通の属性を持つユーザーから座談会形式で話を聞くフォーカスグループインタビューなどがあります。他にも、 SNS などを使ってオンラインコミュニティ上で意見交換を交わす方法もあります。
どの実施方法でも、ユーザーからの回答に応じて柔軟に質問を変更しながら調査を進められる、という点がアンケート調査との大きな違いです。
エスノグラフィ (行動観察)
エスノグラフィ調査とは、ユーザーに密着してその行動を観察し、行動や思考、文化などを把握して分析する手法です。元々は文化人類学の手法ですが、ユーザー目線でのニーズの理解や課題の発見のために有効な手段として、UXリサーチで用いられるようになりました。
エスノグラフィ調査は実施の難易度が高く、スキルを持ったUXリサーチの専門家に依頼するのが一般的です。また、調査期間が長く、他の手法と比較してコストが高い傾向にあります。そのため最近では、エスノグラフィのノウハウを活かした簡易的な行動観察によって、期間やコストを抑えて調査を実施するケースも増えています。
ヒューリスティック評価
ヒューリスティック評価とは、ユーザビリティの専門家が経験則に基づいて製品のユーザビリティを評価する手法です。ユーザービリティ上の基本的な問題を発見して改善につなげます。
比較的実施しやすい手法であり、特にユーザーによる評価を計画している場合には事前評価として用いられます。ヒューリスティック評価による改善を済ませておくことで、ユーザーによる評価時には、より重要な内容に絞って評価を実施できます。
ユーザビリティテスト
ユーザビリティテストとは、実際にユーザーに製品・サービスを使ってもらい、その様子を観察することでユーザビリティ上の問題点を発見する手法です。定性調査で用いられることが多いですが、操作時間や操作のステップ数など定量的な観点から定量調査として実施するケースもあります。
被験者となるユーザーの用意が難しい場合には、UX の専門家がユーザーになりきって評価する認知的ウォークスルーという手法もあります。
ホームユーステスト
ホームユーステストとは、一定期間、ユーザーに製品や商品を自宅で使ってもらい、評価する手法です。主に、家電製品や食品など、家庭内で利用される製品や商品の評価に用いられます。
ホームユーステストでは、使っている様子を直接確認することが困難です。そのため、テスト期間中の定期的なアンケートや使用時の動画撮影、テスト後のインタビューなど、詳しい情報収集が併せて必要となります。
そもそもUXリサーチがどのようなケースで求められているのかについては以下をご参照ください。
UXリサーチを実施する際のポイント
UXリサーチは専門家でなくても取り組めるような手法が多くありますが、一方で効果的な調査結果を得るのは容易ではありません。UXリサーチの専門家に依頼する場合にも、自分たちでUXリサーチに取り組む場合にも知っておきたい、UXリサーチを実施する際のポイントを解説します。
価値に着目し、バイアスを排除して考える
ユーザーは物や機能に対する要望を挙げやすく、また会社もそのような要望には応えやすいものです。しかし単純に求められた物や機能を提供するだけでは不満の解消に留まり、製品・サービス全体のUX向上につながるとは限りません。そのため、UXリサーチでは、常にユーザーに提供できる価値に着目して考えることが求められます。
たとえば、オフィスにおやつを届ける会社が、アンケート調査で「ドーナツが欲しい」という要望を得たとします。要望のとおりにドーナツを届けたとして、ユーザーに提供できる価値は適切でしょうか。
このとき、もう一つ大事なのが「バイアス」を排除して考えることです。バイアスとは思い込みや先入観のことであり、今回の例だと「ユーザーは、単にドーナツ好きだから欲しいと言っている」などと決めつけることです。バイアスを排除して調査を進めることで、「ドーナツみたいな少しがっつりしたお菓子でエナジーチャージして、もうひと踏ん張り仕事をしたいときがある。」といった、ユーザーの潜在的なニーズを発見することができるかもしれません。そこから、「もうひと踏ん張り仕事を頑張れる」ことに貢献することこそが本質的な価値の提供であるといった気付きを得られることができます。
このように、バイアスを排除して本質的な価値に着目することで、ドーナツやおやつの提供以外にも視野を広げ、UX向上につながる解決策を考えられるのです。
ユーザーの考えと自分の考えが混ざらないようにする
UXリサーチによりユーザーの行動や思考を知るようになると、ユーザー目線で色々と考えられるようになります。しかし一方で、UXリサーチの初心者はユーザー目線で考える途中で、自身の考えが無意識に混ざってしまうことがあります。これでは、「ユーザーはこう考えるに違いない」という新たなバイアスになりかねません。
そのため、調査結果の分析や議論を進める際には、UXリサーチで得られた事実と、その事実から考えられる推論とを明確に分けることが求められます。
評価で終わらず、改善につなげる
検証型の UXリサーチの目的は、評価結果を得ることではなく UX を改善することです。たとえば 8割のテスト項目で良い評価を得た場合に、「良い製品・サービスができた」と満足して 2割の悪い評価を軽視しないことが大切です。
ユーザーは必ずしも総合的に製品・サービスを評価しているわけではありません。2割の悪い評価の中にもユーザーが重視している点や、新たなニーズにつながる知見が含まれている場合があります。そのため、可能な限り改善点を見出す姿勢が求められます。
顧客理解、まずはUXリサーチから
良い製品・サービスにはユーザー理解が不可欠であり、その点で UXリサーチは有効な手法とされています。
UXリサーチには様々な手法があるため、目的に応じて適切な手法を選びましょう。
UXリサーチは、予算や期間に応じて複数の手法を組み合わせたり、手法をアレンジしたりできます。
当社では、UXリサーチャーによるリサーチなどのデザイン支援を幅広く承っております。
- 顧客の課題やニーズに対する理解が不足している
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このようなお悩みを持たれている方は、ぜひ一度お気軽にご相談くださいませ。
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