こんにちは。企業のデジタル・トランスフォーメーションを全方位で支援するスパイスファクトリー株式会社です。
業界・業種を問わずDXの取り組みが行われる中、自治体においてもDXの動きが進んでいます。住民と直接相対する自治体においては、DXによる住民サービスの向上が求められています。
本記事では、自治体DXの概要や必要性、総務省による推進計画に加えて、当社が実際に企画から開発・導入まで支援させていただいたプロジェクト事例についてご紹介します。
この記事を読むことで、以下のような内容を理解することができます。ぜひご覧ください。
- 自治体DXとは?
- 自治体DXの必要性
- 自治体DXの具体的な事例
Contents
DXとは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用してビジネスや社会の仕組みを根本的に変革することを指す言葉です。
単なるシステム化・IT化とは異なり、業務プロセスやサービスの提供方法、組織文化などを包括的に見直し、より効率的で柔軟なシステムを構築することを目指します。
近年では、経済産業省の旗振りもあり、DXを推進する企業が増えています。
IPAが実施している調査「DX動向2024」では、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」企業が全体の37.5%、「全社戦略に基づき、一部の部門でDXに取組んでいる」企業が21.9%、「部署ごとに個別でDXに取組んでいる」企業が14.3%と、合計で73.7%の企業が何らかの形でDXに取り組んでいる状況が明らかとなっています。
独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2024(データ集)」P5内画像をもとにスパイスファクトリーにて作成
※引用:独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2024(データ集)」P5より
自治体DXとは?
このような中、自治体におけるDXの取り組みも進んでいます。自治体DXとは、地方自治体がデジタル技術を活用して行政サービスや業務プロセスを効率化し、住民の生活をより豊かにするための取り組みを指す言葉です。
自治体は住民に対して直接的にサービスを提供するという重要な役割を担っており、デジタル技術の導入によりサービスレベルの向上や各種施策の迅速な実施が求められています。
総務省による自治体DXの推進計画
自治体DXについて理解するためにまず押さえておきたいのが、総務省による自治体DXの推進計画です。
総務省では、自治体DXの推進にあたり「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画※」を策定し、取り組みを進めています。
本推進計画は2020年に初版が公開された後、2024年に最新版である第3.0版に改訂されました。以下では、本推進計画の概要をご紹介します。
DX推進体制の構築に向けた取り組み内容
第3.0版では、自治体がDXを進める上で取り組むべき観点を以下の4つに整理しています。
1.組織体制の整備
限られた予算内で自治体のDXを進めるためには、住民と自治体の接点の多様化や情報システムの標準化など、自治体全体での取り組みが必要です。そのためには、全庁的かつ横断的な推進体制を整えることが重要となります。
2.デジタル人材の確保・育成
自治体でのDX推進には、専門知識を持つデジタル人材が重要です。一方で、自治体では適任者の確保が課題となっています。
そこで、外部人材を登用する動きも進んでおり、2022年9月時点で198の自治体が外部からデジタル人材を任用しています。内部に適切な人材がいない場合は外部人材の活用を積極的に検討すべきです。
並行して、デジタル人材の育成も重要です。中長期的視点で体系的な人材育成方針を設定しつつ、最新の技術動向に関する研修や管理職の意識改革研修など、実践的な研修を計画します。
3.計画的な取り組み
DXの取り組みを効果的に進めるためには、DXの全体方針が必要です。この全体方針は自治体内で広く共有し、目指すべき方向性にブレがないようにします。
各自治体が着実にDXに取り組めるように、総務省では「自治体DX全体手順書※」を公表しています。このような情報も参考にしつつ、計画の策定と計画に沿ったDXを実施します。
4.都道府県と市区町村の連携による推進体制の構築
全国的にデジタル人材が不足していることから、小規模な市区町村では少人数の職員でDXを推進せざるを得ません。
このような状況では、市区町村がより主体的にDX推進を行うことが求められます。そこで、都道府県が市区町村のDX推進進捗や課題、人員体制を把握し、連携してDX 推進体制を構築することが重要です。
7つの重点取り組み事項
これらのDX推進の基本的な事項を実施しつつ、同推進計画では具体的な取り組みとして「7つの重点取り組み事項」を設定しています。
- 自治体フロントヤード改革の推進
- 自治体の情報システムの標準化・共通化
- 公金収納におけるeLTAXの活用
- マイナンバーカードの普及促進・利用の推進
- セキュリティ対策の徹底
- 自治体のAI・RPAの利用推進
- テレワークの推進
ここでは各取り組みの詳細な紹介は省略しますが、同推進計画では取り組みごとの具体的な進め方や国の支援策について紹介されています。
なぜ自治体DXが必要なのか?
グローバル化、気候変動、少子高齢化、インフラ老朽化、住民から求められる行政サービスの水準向上など、自治体はさまざまな課題を抱えています。これらの課題を解決するためにも、デジタル技術を活用した高度で効率的な業務遂行・住民サービスの提供が必要です。
特に、自治体DX推進の機運が高まった直接的な要因となったのが新型コロナウイルス禍です。上述した「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」の冒頭においても、自治体におけるDX推進の意義について以下のような記述があります。
新型コロナウイルス対応において、地域・組織間で横断的にデータが十分に活用できないことなどさまざまな課題が明らかとなったことから、こうしたデジタル化の遅れに対して迅速に対処するとともに、「新たな日常」の原動力として、制度や組織の在り方等をデジタル化に合わせて変革していく、言わば社会全体のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が求められている。
※引用:総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」P2より
自治体職員の方は、刻々と変化する情勢や国の施策に対応するために、住民へのサービス提供を迅速かつ効率的に行う必要がありました。
デジタル技術をうまく活用できた自治体では、素早く効率的に住民への情報提供や補助金の給付、ワクチン接種の予約受付などを実現できました。一方で、全ての自治体でうまくデジタルを活用できたわけではありません。
新型コロナウイルス禍は自治体におけるデジタル技術活用およびDX推進の重要性が認識されるきっかけとなり、今日では自治体DXの取り組みが進められています。
自治体DXに取り組む上での課題とポイント
自治体DXを進める上ではどのような観点が課題となり、どのように解決を進めるべきなのでしょうか。ここでは、2つの観点から課題と対応策について整理します。
既存業務の置き換えでなく、「デザイン思考」でユーザーを中心にデジタルで再設計する
自治体DXにおいては、既存の手続きを単純にデジタル化しただけではうまくいきません。「デジタルを前提に体験を再設計する」ことが重要です。
ユーザー体験やデジタルの特徴を考慮せずに既存の手続きをそのまま電子化したり、特定のソフトがないと利用できない、操作が煩雑であったりする仕組みは、住民には支持されず結果として利用されません。
DXにおいては、スマートフォンなどのデバイスの操作性や特徴を活かして誰もが便利かつ直感的に利用できること、すなわちUI/UXへの配慮が求められます。
例えば、役所に書類を提出する場合を想定すると、自治体の視点では「申請書の作成」「窓口での提出」「受理」といった住民と直接対面する部分しか見えません。
しかし、住民にとっては「必要性に気づく」「申請方法を調べる」「書類を集める」「問い合わせをする」といった役所に訪れる前までの流れがあり、書類の提出後も「結果の受領」「利用や実施」といった流れがあります。
このように、利用者にとってより便利なサービスをデジタルで作り上げるためには、UI/UXをはじめとする「デザイン思考」という考え方が有用です。
デザイン思考とは、サービスを利用する際の利用者の一連の行動に注目して、サービスを設計するアプローチです
デザイン思考の視点では、これら全ての流れに注目して住民に対してどのようなサービスを提供すべきかを検討します。これにより、住民が本当に必要とする形でサービスを提供できるのです。
受託事業者への丸投げではなく、共創型で課題を解決する
業務プロセスや住民サービスの見直しには「ワンチームで一緒に取り組むこと」が重要です。
デジタル技術の導入には多様な知識や経験が必要となります。従来、システム導入プロジェクトにおいては請負契約が採用されることが多く、自治体側と受託事業者が分断されていました。しかし、より良いサービスを生むには、両者間で詳細なコミュニケーションをとり、共創型で課題を解決していくべきです。
ここで有効なのがアジャイル開発というシステム開発手法です。アジャイル開発では、自治体とベンダーが一つのチームとして協力し、情報を共有しながらプロジェクトを進めます。
これにより受託事業者は住民サービスの提供意義を深く理解できますし、自治体側では技術面で実現可能な要求について理解できるようになります。
アジャイル開発は、DXの推進において非常に有効な手法です。アジャイル開発とDXについては以下の記事でもご紹介しておりますので、併せてご覧ください。
スパイスファクトリーが取り組んだ事例
当社では、これまで多くの自治体サービスに関連するプロジェクトを支援してまいりました。ここでは、当社が実際に担当した自治体DX推進の事例をご紹介します。
東京都デジタルサービス局とのアジャイル開発の取り組み事例
東京都は、デジタルの力を活用した行政を総合的に推進するため、2021年にデジタルサービス局を設置するなど、DXの取り組みを進めています。
従来、自治体におけるシステム調達においては、仕様書に基づく競争入札で調達することが一般的でした。一方で、変化の激しい現代においては、仕様書の作成に時間をかけられないという課題があります。
そこで同局では、都民の生活の質・利便性向上を進めるため、迅速かつ柔軟に新しい価値を創出するアジャイル開発の採用を進めています。
当社は、同局が企画するアジャイル型でのプロトタイプ開発プロジェクトを受託しました。本プロジェクトの実施にあたっては、まず東京都職員様にアジャイルマインドを理解してもらうために、アジャイル開発に関するワークショップを開催。
職員の皆様と当社メンバーがワンチームになるためのアイスブレイクゲームのほか、プロダクトオーナーの体験を通してアジャイル開発プロジェクトについての理解を深めました。
ワークショップ後、デジタルサービス局と当社では、東京都庁内の各組織において以下の4つのアジャイルプロジェクトを推進しました。
- 動物の愛護に関する問い合わせ等受理簿のデータベース化
- VOC(揮発性有機化合物)連続測定データベースの統一化および可視化
- 通学区域デジタルマップ化
- 「シン・トセイ」職員専用ポータルサイトの改修
本プロジェクトは、東京都という大規模な組織においてもアジャイルマインドを核にチームとなることでアジャイル開発によるDX推進を実現できた事例といえます。
東京都町田市 | 「バーチャル市役所」の実現を目指した市民のためのポータルサイト構築
東京都町田市では2021年から「町田市デジタル化総合戦略」を策定し、DXを推進しています。同市では他の自治体に先駆け、オンライン行政手続きをはじめとしたデジタルサービスのポータルサイト「まちドア」を開設しました。
当社は、この「まちドア」の構築を支援しました。
本プロジェクトでは、「誰にとっても」「使いやすい」サービスを構築することを重視。20代~50代までの幅広い層を対象にユーザーテストを行いユーザー心理やサービスの課題を解析しつつ、その結果をデザインに反映することで、あらゆる世代が使いやすいデザインを実現しました。
同市では、行政手続きのオンライン化の取り組みを今後さらに加速させる予定です。そこでまちドアの設計においては、カテゴリを容易に追加できるようにするなど、将来的な拡張性や運用コストの軽減も考慮しています。
株式会社NTTデータ関西 | 個人番号カード 交付予約・管理サービス「e-TUMO MYNUM」のUI・UX改善
株式会社NTTデータ関西様では、国・地方公共団体向けのクラウドサービス「行政総合サービスモールe-TUMO」を提供しています。
当社では、「e-TUMO」シリーズの一つである、個人番号カード交付予約・管理サービス「e-TUMO MYNUM」のUI/UX改善を支援いたしました。
同システムは地方自治体の職員向け業務システムとして多数の自治体で利用されるものである一方、画面デザインが古いままであり、改善が必要でした。
当社では、現行システムの分析やヒアリング結果を踏まえ、ユーザー体験を向上させる機能を提案。初めてシステムを使った方が実際の画面でチュートリアルを受けられる「オンボーディング機能」や職員間でのやりとりを効率化する「チャット機能」など、ユーザーニーズを踏まえた機能追加を行いました。
また、UI/UXの改善内容が具体的にイメージできるよう、上述したオンボーディング機能など重要なポイントの実際の動きを検証できるプロトタイプを構築。プロトタイプを用いたお客さま社内での評価会などを通して、UI/UX改善の価値を伝えることができました。
まとめ:自治体DXにはデザイン思考とアジャイル開発がおすすめ
この記事では、自治体DXの概要や必要性、事例についてご紹介しました。
記事中でもご紹介しましたが、自治体DXの推進においては、ユーザー視点での体験設計すなわちUI/UXを取り入れることと、従来の請負型のシステム開発ではなく、迅速で柔軟なアジャイル開発の採用が効果的です。
当社では、これまで多くの自治体のお客さまのDX推進において必要となるUI/UXデザインから実装まで、伴走型でのサポートを実施してまいりました。これからDXを進めたいものの、進め方に悩んでいるという方は、ぜひ当社までお問い合わせください。
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