これまでは、主に製造業において採用されてきたラピッド・プロトタイピングですが、シリコンバレーをはじめとした海外を中心に、ソフトウェア開発領域においてもその有用性が認識されるようになりました。
ラピッド・プロトタイピングとはどのような手法なのでしょうか。また、新規事業開発を進める上でどのように役に立つのでしょうか。この記事では、注目されるラピッド・プロトタイピングについて詳しくご紹介します。
この記事を読むことで、以下のような内容を理解することができます。ぜひご覧ください。
- ラピッド・プロトタイピングの導入目的とメリット
- 従来のプロトタイプ開発とのプロセスの違い
- これからのPoC開発について
Contents
ラピッド・プロトタイピングとは?
ラピッド・プロトタイピングは、製品やサービスの開発過程において、スピードを重視して高速に試作品を作成する手法のことです。
ラピッド・プロトタイピングは主に製造業において、CADシステムや3Dプリンターを利用し、金型の製作などをスキップして効率的に開発を行う手法を指す言葉として利用されてきました。
一方で、ソフトウェア開発においても、2010年代初頭からシリコンバレーをはじめとした海外を中心に採用されてきたこの考え方が、ここ数年は日本でもベンチャー企業や教育機関を中心に注目されつつあります。なぜなら、変化の激しい現代のビジネス環境において、スピード感は非常に重要な要素となるためです。
プロダクトのリリースを高速に実現するラピッド・プロトタイピングは、新規事業の開発やサービスの強化などを実施する上で、強力な武器となります。
通常のプロトタイプの開発との違いや、プロセスの詳細については後述で説明します。
ラピッド・プロトタイピングを導入する目的とメリット
なぜソフトウェア領域において、ラピッド・プロトタイピングへの注目度が高まっているのでしょうか。以下では、ラピッド・プロトタイピングを採用する目的とメリットについてご紹介します。
迅速なフィードバックを得るためのラピッド・プロトタイピング
ラピッド・プロトタイピングを導入する最大の目的は、ユーザーや市場からのフィードバックを迅速に得るためです。
実際に動作し、触れられるプロダクトを素早く提供することで、開発の初期段階でユーザーのニーズをより正確に把握したり、課題を発見して修正したりといった取り組みを進めやすくなります。
特に、新規事業開発など不確実性の高い取り組みにおいて、ラピッド・プロトタイピングは有効です。机上でユーザーのニーズを完全に読み切ることは難しく、アイデアを具現化したプロダクトを利用してもらうことで、フィードバックを得やすくなります。
これにより、プロダクトの品質向上のほか、見込みのあるアイデアの選別もしやすくなります。
DX推進の流れもあり、近年では新規事業開発においてソフトウェアを活用することは一般的となりましたが、一方で新規事業の成功率は15%というデータもあります※1。
新規事業の失敗確率をできるだけ下げるためにも、早期にプロダクトを開発し、ユーザーニーズの見極めを行う取り組みが必要とされています。
※参考1:アビームコンサルティング「アビームコンサルティング、新規事業創出の実態調査を発表」
ラピッド・プロトタイピングにより時間とコストを削減
ラピッド・プロトタイピングのメリットは、時間とコストの削減にあります。完全ではないものの、一定の機能を備えたプロトタイプを高速に用意することで、低コスト・短期間でプロダクトがニーズをとらえているかを判断することができます。
撤退のしやすさもポイントです。新規事業開発としてプロトタイプを作った結果、市場とマッチせず撤退するというケースもあるかと思いますが、その場合でもサンクコストを最小化できる点がラピッド・プロトタイピングのメリットとなります。
また、時間の節約も可能です。早期にユーザーからフィードバックを得られるため、早期に新規事業の継続可否を判断できます。
従来のプロトタイプ開発との違い
以下では、ラピッド・プロトタイピングと通常のプロトタイプ開発を比較します。
通常のプロトタイプ開発も、早期にプロダクトをユーザーに利用してもらい、フィードバックを得ることを目的に行われます。
ラピッド・プロトタイピングは、このプロトタイプのプロセスをより高速に実施するものです。プロトタイプ開発の高速化により、早期にフィードバックを得て、プロダクトを改善することができます。また、撤退時のサンクコストも抑えやすくなります。
特に不確実性の高く、失敗リスクの高い新規事業開発においては、このようなラピッド・プロトタイピングの特性がマッチします。
なお、プロトタイプ開発に関しては以下の記事で詳しく解説しています。こちらの記事も併せてご覧いただけると、より理解が深まるかと思います。
関連記事:システム開発におけるプロトタイプ・モデルのメリットと注意点
ラピッド・プロトタイピングのプロセスを解説
ここでは、ソフトウェア開発においてどのようにラピッド・プロトタイピングを進めるのか、具体的なプロセスについて解説します。
高速に低解像度プロトタイプを作成
開発する製品のコンセプトを踏まえ、主にUXデザイナーが中心となり、プロダクトの低解像度プロトタイプを作成します。
低解像度プロトタイプとは、基本的な機能や要素のみを実装したプロトタイプであり、素早く手間をかけずに最低限の利用ができるものを作ることを指します。
ここで作成するプロトタイプはできるだけシンプルで小さいものにする必要があります。
場合によっては、デザインツールなどを利用せず、紙とペンだけなど、素早く具体化できる道具だけでプロトタイプを作成することもあります。
実装に時間をかけることなく、まずは頭の中にあるアイデアを具現化することが目標です。
フィードバックの取得
作成したプロトタイプを、他のチームメンバーや関係者、プロダクトの想定エンドユーザーなどに共有します。プロダクトを利用してもらうことで、イメージを持ってもらい、プロダクトに対するフィードバックを得られるようにします。
フィードバックの取得においては、うまくユーザーに質問することがポイントです。ユーザーの表情や身ぶり・手ぶりを観察しつつ「XXXの機能についてどう思いましたか?」「どの操作が難しかったですか?」といったオープンクエスチョンにより会話を広げます。
さらに「なぜそう思ったのですか?」といった質問でユーザーの意見を深掘りすることも有効です。
新規事業開発においては、取得したフィードバックが芳しくないものであれば、そのアイデアの実装を中断することも検討します。早めに撤退を行うことで、次のアイデアを検証できる余力を確保します。
改善
各ユーザーからのフィードバックを受けて、プロトタイプを改善します。フィードバック結果の傾向を分析し、改善ポイントをまとめ、優先度の高いものからプロトタイプへ反映していきます。
改善後、再びユーザーにプロトタイプを共有し、フィードバックを取得します。このプロセスを繰り返すことで、素早くプロダクトのアイデアを検証していきます。
ラピッド・プロトタイピングの事例
ソフトウェア領域におけるラピッド・プロトタイピングの事例として、PayPalのケースをご紹介します。
従来、同社では以下のプロセスでプロダクトの開発を進めていました。
- プロジェクトマネージャーがアイデアを出し、文章化してデザインチームに渡す
- デザイナーは、プロジェクトマネージャーが書いた指示を基にデザインを具現化する
- デザイナーは開発者にイメージを伝える
- 開発者はそのイメージを再現し、機能を開発する
- プロジェクトマネージャーは、開発者の成果物を確認し、修正を依頼する
一方で、このプロセスには時間がかかります。このプロセスを改善するために、PayPalはより効率的にプロダクトを開発するためのオペレーションモデル“DesignOps 2.0”を構築しました。
DesignOps 2.0では、汎用的に利用できるデザインテンプレートを用意し、誰でも簡易的なデザインを実施できるようにしています。このデザインテンプレートの利用にあたっては、デザインに関するスキルは必要ありません。
ロゴやボタンなども、デザイナーが作業することなく、既存のテンプレートの組み合わせで作成することができます。
これにより、プロジェクトマネージャーは自身で既存のテンプレートから一定のデザインを確認できるようになり、複数のメンバーによる多重的なプロセスをスキップすることができます。
一定の検証を行った後、リリース前のタイミングでデザインチームはプロダクトのデザインを確認し、修正を行います。
このようなプロセスの組み方により、デザインチームの負荷が大きく減少し、より高速に、より多くのプロダクト開発を実現できるようにしています。
※参考:「How to Improve Your Product Design and Development Model: Lessons From PayPal」
スパイスファクトリーが推奨する超高速PoC開発
当社では、このようなラピッド・プロトタイピングの概念を踏まえ、超高速でPoC開発を実現する取り組みを進めています。
特に新規事業開発においては、PoCにおいてFigmaなどのデザインツールを用いてプロトタイプを作成し、実現可能性を検証する取り組みがよく行われます。
一方で、さらに迅速なPoC開発を実現するためには、ラピッド・プロトタイピングの考え方を踏まえてプロダクトアイデアを高速に可視化しつつ、アイデアを検証していくことが重要です。
高速にアイデアを具現化することで、アイデアの「筋の良さ」を素早く判断できるため、多数のアイデアを検証しやすくなります。
これらの中から、優れたものをとりあげて事業化を進めることで、より新規事業の成功確率を高められると考えています。
ラピッド・プロトタイピングを踏まえた超高速PoC開発においては「一番早く体験できる方法を考え」「実際に手を動かし」「簡単な方法で素早く実現する」ことがポイントです。
ユーザーは当初の想定と違う方法でプロダクトを利用する、ということはよくあります。ユーザーがどのように製品を利用するか想像するのに時間をかけすぎず、粗いプロトタイプ作りテストを行うことが重要です。
実際に当社社員で行ったしたラピッド・プロトタイピングのワークショップでは、1時間という短時間で顧客に提供できる水準の製品プロトタイプを作成し、フィードバックを受ける取り組みを実施しました。
結果として、概念をプレゼンテーションするより、実際に手を動かして具体化することによって、問題点の把握がしやすくなるという気づきもありました。
今後も当社では、ラピッド・プロトタイピングを含めた超高速PoC開発の取り組みを進めて参ります。詳細は以下のプレスリリースもご覧ください。
なお、PoC開発に関しては以下の記事でも詳しく解説しております。ぜひ併せてご覧ください。
※関連記事:PoCとは。ビジネスにおけるPoC活用メリットや進め方を徹底解説
まとめ
この記事では、ラピッド・プロトタイピングについて、その概要や目的、メリット、具体的なプロセスなどについてご紹介しました。
ますます高速化する現代社会において、スピード感は何より重要な要素です。新規事業開発の成功率をあげるためにも、ラピッド・プロトタイピングは有効な手段だといえるでしょう。
当社では、これまで多くのお客さまの新規事業開発を支援してまいりました。アジャイル開発やデザイン思考の豊富な知見をベースとして、密なコミュニケーションを行いながらお客さまのビジネスを具現化してまいります。
新規事業開発に関してお悩みやご質問がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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