VOC(Voice of Customer=顧客の声)が、ビジネスの成長を支える資産として注目されています。顧客の声を正しくとらえ施策に反映することで、商品やサービスの改善につながり、結果として大きな成果を生み出せるためです。
VOCは企業の競争力を左右すると言われていますが、具体的な活用方法に悩む担当者は少なくありません。
本記事ではVOCの基本的な意味からマーケティングに活用するメリット、具体的な収集・分析方法、成功事例まで詳しく解説します。
生成AIとの組み合わせによる最新の活用法についても触れますので、ぜひ最後までご覧いただき貴社のマーケティング戦略にお役立てください。
Contents
VOCとは
VOCとは「Voice of Customer」の略で、日本語で「顧客の声」を意味します。
ここでいう声とは、単なるアンケート結果やクレームにとどまりません。顧客が商品やサービスを利用するなかで発する意見、要望、不満、期待などあらゆるフィードバックを指します。
コールセンターへの問い合わせ内容、店舗での会話、アンケートやインタビューの回答だけでなく、SNSやレビューサイトでの投稿、メールで寄せられる意見などもVOCです。
収集した顧客の本音は、商品開発やサービス改善など幅広い場面で活用できます。
VOCはマーケティングになぜ重要なのか

VOCを活用する大きな目的は、顧客を深く理解して要望や希望を商品やサービスの改善に役立てることです。
近年では生成AIの普及により、従来の手動分析よりも迅速かつ多角的に顧客の声を読み取れるようになり、VOCの重要性はさらに高まっています。
ここでは、マーケティングにおいてVOCが重視される理由を4つの観点から解説します。
顧客ニーズの把握ができる
マーケティングにおいて、顧客の要望や不満を正しく理解することは不可欠です。
これまでのアンケートや市場調査だけでは見えにくかった本音も、SNSやレビューサイトを通じて収集できるようになりました。
顧客の行動が商品開発やプロモーションに活かせる
VOCは新商品のアイデアや既存商品の改善点を見つける手掛かりになります。顧客の声をもとに改良した製品は受け入れられやすいので、開発リスクの軽減も期待できます。
顧客が関心を持つポイントを把握すれば、訴求力の高い広告コピーやキャンペーン設計にも活用可能です。
顧客体験の向上ができる
顧客体験(CX)とは、購入前からアフターサポートまでを含む一連の体験を指します。VOCを活用すると、次のような具体的な改善点を把握できるのが強みです。
- 購入時の不安
- サービス利用時の不便
- カスタマーサポートへの不満
継続的な改善が、顧客満足度の向上やリピーター獲得につながります。
LTVの最大化ができる
LTV(顧客生涯価値)とは、顧客が自社にもたらす利益を長期的に捉えた指標です。
VOCをもとに商品やサービスを改善することで顧客満足度が上がり、結果としてリピート購入の増加やアップセル・クロスセル促進といった成果が期待できます。
自社の商品やサービスに愛着と信頼を抱くロイヤルカスタマーを数多くつくることができれば、離脱率を抑えつつLTVの最大化を実現できます。
VOCをマーケティングに活用するための収集方法

収集の仕方によってVOCの質や内容は大きく変わります。顧客理解を深めるためにも、複数のツールを組み合わせましょう。
ここでは、マーケティング活用に役立つVOCの収集方法を7つ紹介します。
電話
カスタマーサポートやコールセンターでのやり取りは、顧客の生の声を得られます。会話の録音や文字起こしから、頻出する質問や不満の傾向を把握できます。
手動では見落としがちな傾向を効率的に抽出するには、AIによる自動文字起こしや感情分析も効果的です。
問い合わせ
Webフォームやチャット経由で寄せられる問い合わせからは、顧客がつまずいている具体的なポイントが読み取れます。
問い合わせ内容をカテゴリ別に整理すると、製品やサービスの改善点を体系的に把握できるでしょう。
問い合わせが集中する内容をFAQやガイドページの見直しに反映すると、サポートコストの軽減も見込めます。
メール
サポート窓口などに寄せられるメールは自由記述が多く、顧客のリアルな思いや要望を知るうえで効果的です。
顕在ニーズだけでなく潜在的なニーズや改善のヒントも含まれていることが多く、分析する価値が高い情報源といえます。
蓄積したメールをテキストマイニングや感情分析で整理すると、隠れたニーズや改善の優先度を見つけやすくなるでしょう。
SNS
X(旧Twitter)やInstagramをはじめとしたSNSや口コミサイトには、顧客の本音が率直に表れます。SNS監視ツールを使えば、ブランド名や特定のキーワードに関する投稿の自動収集が可能です。
また、ポジティブ・ネガティブの感情分析を実施すれば、リアルタイムに製品やサービスの評価を把握できます。
コミュニティ
自社のコミュニティや外部掲示板は、顧客同士の自然な会話からニーズを拾うのに役立ちます。
投稿やディスカッションを定期的に収集・分類すると、製品改善のアイデアや新商品開発のヒントが得られるでしょう。
特にロイヤルカスタマーの発言は、長期的な関係構築やブランド価値の向上にもつながります。
インタビュー
少人数に対して行うインタビューは、顧客行動や心理を深掘りできる機会です。録音・録画から文字起こしをして発言を分析すると、潜在的な不満や要望を抽出できます。
オンライン会議を導入すると遠方の顧客も気軽に参加できるので、幅広い層の声を収集できます。
FAQや閲覧されているページ
WebサイトのFAQページやヘルプページの閲覧データから、顧客がつまずいている箇所を特定できます。アクセスログを分析して、よく見られている質問や離脱率の高いページを特定しましょう。
「説明不足の箇所」や「改善すべき操作フロー」を発見してコンテンツを改善すれば、顧客体験の向上やサポート負担の軽減が期待できます。
VOCを収集分析する流れ

VOCを効果的に活用するには、目的設定から分析までの流れを整理して進めることが大切です。
従来は人の手で分類や集計を行うのが一般的でしたが、生成AIの普及で状況は変わりつつあります。AIは、膨大な顧客の声を短時間で整理し、従来の手法では見落としがちだった隠れた傾向やインサイトを抽出します。これまで数日間から数週間を要していた分析をわずか数時間で完了できるようになり、スピードと精度の両面で向上を遂げました。
ここでは、VOCを収集し分析する際の基本的なプロセスを4つのステップで紹介します。
①目的とゴールの明確化
漠然とVOCを集めていても十分な効果は期待できません。成果を出すには収集の目的を明確にすることが大切です。
たとえば、次のような目的が考えられます。
- 顧客満足度の向上
- 商品開発の改善点を探す
- キャンペーンの効果を検証する
目的によって収集すべき情報は大きく変わります。最初にゴールを設定しておくと、データを分析した後の活用方法がぶれにくくなります。
あわせて、「問い合わせ数」「リピート率」「自己解決率」など、数値で測定できる定量目標を設定しましょう。具体的な指標をあらかじめ決めておくと、取り組みの成果を客観的に評価できるので改善しやすくなります。
②VOCの集客チャネルの選定
電話・問い合わせ・メール・SNS・アンケート・インタビューなど、多様なチャネルがあります。
一般的に顧客の年齢層や性別、BtoCかBtoBかなどによって、注目すべきチャネルは異なります。顧客の利用チャネルを把握したうえで複数のチャネルを選定しましょう。
生成AIを使えば24時間稼働し、複数チャネルの大量のログも迅速に処理できます。
③ヒアリング内容の決定
チャネルを決めたら、ヒアリング内容を絞り込みます。アンケートであれば質問項目、インタビューであればテーマや深掘りの切り口を具体化すると良いでしょう。
「良かった点」「改善してほしい点」「利用をやめた理由」など、顧客が答えやすい形にすることで精度の高いVOCを得られます。
SNSの場合でも、ヒアリング内容に基づいて関連キーワードを設定して定期的に投稿を収集・分析することで、顧客が感じているリアルな声を把握できます。
④収集したVOCの分析方法の決定
集めた情報の整理方法や読み解き方を決定します。単純集計やカテゴリ分けに加え、テキストマイニングや感情分析ツールを使うと、潜在的なニーズやトレンドを効率的に発見できます。
さらに生成AIを組み合わせれば、大量の自由記述データも短時間で整理できるのが強みです。背後にある感情や意図を読み取れるため、意思決定に直結するインサイトを迅速に把握できます。
VOCの収集分析をする際の注意点
VOCはマーケティングに有効な手段ですが、取り組み方を誤ると工数ばかり掛かり成果が出ないケースもあります。
ここでは、実務で特に注意すべきポイントを2つ紹介します。
VOCの収集分析にかかる工数やコストを計算しておく
VOCの収集や分析には、アンケート作成・データ整理・分析作業など、見えにくい工数が発生します。
事前に必要なリソースを見積もり、外部ツールの導入や自動化の活用も含めて計画しておきましょう。コストを考慮せずに始めると、途中で運用が滞る原因になります。
複数チャネルからVOCを収集する
チャネルごとに得られる声は異なります。主な特徴や注意点は次の通りです。
| チャネル | 特徴 | 注意点 |
| 電話 | 顧客の感情やニュアンスを直接把握できる | 不満や緊急性の高い声に偏りやすく、声を上げない顧客層を拾えない |
| 問い合わせ | 具体的な課題や改善要望が集まりやすい | フォーム設計が不十分だとノイズが増える |
| メール | 顧客の本音や詳細な意見が得られる | 長文が多く要点抽出に工数がかかる |
| SNS | 率直な意見やトレンドを収集できる | 感情的・断片的な投稿が多くノイズが混ざる |
| コミュニティ | ロイヤルカスタマーの熱量ある声が得られる | 一般顧客の意見と異なる可能性がある |
| インタビュー | 潜在的なニーズや深層心理を掘り起こせる | 実施コストが高く、サンプル数が少ない |
| FAQ・閲覧ページ | 行動データから顧客の関心領域を把握できる | 理由や感情までは読み取れない |
複数のチャネルから収集することで網羅性が高まり、顧客像をより正確に把握できます。
VOCの収集分析における課題
VOCの収集分析の過程で課題が生じることがあります。スムーズに進めるためにも、事前に課題を予想して対策を立てておきましょう。
ここでは、代表的な課題を2つ紹介します。
収集したVOCの管理ができない
顧客を正しく理解するには、複数チャネルから収集して抜け漏れを減らすことが大切です。その結果、VOCの量は増加傾向になりやすく、重複や見落としが生じやすくなります。
収集したVOCを一元的に管理し、整理できる仕組みづくりが必要です。
VOCを改善や打ち手に変えられない
分析で得られた知見を整理しただけでは意味がありません。実際の改善施策への落とし込みが不可欠です。
商品開発の方向性やカスタマーサポートの対応の見直しなど、具体的な行動に結びつけてこそ成果につながります。
分析結果を関連部門に共有し、現場で迅速に実行できるよう体制を整えましょう。
VOCをマーケティングに活用した事例

VOCをマーケティングに活用するには、顧客の声を分析し現場に届けることが不可欠です。一方で、膨大な情報をどのように活かせば良いか悩む担当者も少なくありません。
ここでは、実際にVOCを取り入れてマーケティングや業務改善を進めた企業の事例を紹介します。
auじぶん銀行株式会社

引用:CX Clip
インターネット専業銀行であるauじぶん銀行は、外部委託の対応では品質のばらつきが生じていました。また、FAQでは自己解決できず、電話での問い合わせが多いことが課題でした。
顧客対応がブランドイメージに大きな影響を与えると考えた同社は、CSを「顧客の翻訳家」と位置付けて、サポート体制を内製化に切り替えています。専用ツールで問い合わせ内容やWeb上の行動を分析してFAQの表現や導線を見直し、適切にサポートできる仕組みを整えました。FAQの改善で、問い合わせ件数は約2割減少しています。
さらに、フィッシング被害への対応に生成AIを活用したWeb誘導を取り入れ、約1,200件の問い合わせを未然に防ぎコールセンターの負荷が軽減されました。月に平均2,103件あったクレーム件数は、1,382件へと大幅に減少しています。
VOCの戦略的な活用で顧客満足度を高めた成功事例です。カスタマーサポートの専門評価機関であるHDI格付けにおいても最高評価を獲得しています。
https://cxclip.karte.io/events/event_report/rt_au_jibun_bank_event/
株式会社バンダイ

引用:見える化エンジン
年間約1万8000点もの商品を展開する株式会社バンダイの相談センターには、毎月約2万件もの問い合わせが寄せられています。
従来は内容を一件ずつ確認する必要があり、大きな工数が課題でした。
そこで同社は「見える化エンジン」を導入し、問い合わせ内容を自動的に分類・可視化して社内で共有できる仕組みを整備しました。商品ごとの問い合わせ件数や変動をタイムリーに把握し、関連部署との迅速な情報共有が実現したのです。
たとえば、特定商品の問い合わせが急増した際には、不具合をすばやく特定しQ&Aに動画を追加しています。顧客自身での解決を促すことで、問い合わせ件数の大幅な削減につながりました。
バンダイの取り組みはVOCを効率的に収集・分析し、改善に直結させた成功事例です。
https://www.mieruka-engine.com/case/bandai/
ネスレ日本株式会社

引用:Altius Link
ネスレ日本株式会社はECモールに出店した際に、顧客からの問い合わせ数が多いことが課題でした。メールやWebフォームを中心にVOCを収集・分析したところ、問い合わせの多くが出荷遅延であることが判明したのです。
そこで、顧客対応部門だけでなく、販売・マーケティング部門や倉庫会社と課題を共有し、運用フローや出荷体制を見直しました。さらに、梱包方法や注文内容の確認方法など、顧客接点の改善にも取り組んでいます。
その結果、出荷遅延の発生が減少し、遅延に関する問い合わせ件数が86%削減できました。単なる業務効率化だけでなく顧客の不安や不満を大幅に減らすことができ、顧客体験の向上につながっています。
VOCを単なる意見の収集で終わらせず、実際の業務改善に落とし込んで成果を生み出した好例です。
https://www.services.altius-link.com/case/manufacturing/nestle/
VOCの収集分析は生成AIでここまで変わる
VOCの収集や分析は人間が手動で行っていたため、時間やコストが大きな課題でした。
これらの課題解決の手段として注目されているのが、大量のテキストデータを瞬時に処理し、文脈やニュアンスを読み取れる生成AIです。
導入すれば、これまで数週間かかっていたVOC分析のスピードと精度を大幅に高められます。
ここでは、生成AIがVOCにもたらす変化とマーケティングにおける活用のポイントを解説します。
生成AIでVOCを自動化する潮流が加速
従来のVOCの収集や分析は人の手に頼っていたので、多くの工数がかかり精度にもばらつきが生じていました。
生成AIの普及によりVOC収集や分析の自動化が進んでいます。生成AIは文章のニュアンスや感情も読み取れます。従来は見落としていた潜在的な不満や期待の抽出にも効果的です。
VOC×生成AIは処理性能とリアルタイム性に長けている
生成AIの強みは、処理性能の高さとリアルタイム性です。従来のVOC分析は膨大なデータの整理に数日から数週間を要し、施策のタイミングを逃すこともありました。
生成AIなら数十万件規模のデータも瞬時に解析できます。たとえば、SNS投稿を自動収集して感情を分類・可視化することも可能です。トレンドを即座に把握し、商品改良やキャンペーンに迅速に反映できます。
さらに、文脈や言い回しから顧客の本音を読み取れるので、従来の集計では見えなかった深いインサイトを得られるのも強みです。
生成AI×VOCのマーケティングでの活用ポイント
生成AIとVOCを組み合わせると、これまで見過ごしていた顧客の本音を抽出し、感情や背景まで踏まえた精度の高いマーケティングが実践できます。
SNSやレビューを分析して広告コピーや商品改良に活かすほか、顧客ごとの特徴を学習してパーソナライズ提案にも応用できるので顧客体験の向上にもつながります。
つまり、生成AIによるVOC活用は単なる声の収集から顧客理解と具体的施策へと進化させる手段であり、今後のマーケティングに欠かせない要素です。
マーケティングを加速する鍵は、VOCにある
VOCは商品やサービスを磨き、顧客体験を向上させるために欠かせない情報源です。とくにマーケティングにおいては、集めた声を迅速に分析し現場へ反映させる仕組みが求められます。
そこで注目されているのが生成AIの活用です。従来の手作業では時間と工数がかかっていた分析が自動化され、リアルタイムで顧客の本音を把握できるようになりました。
結果として、より精度の高いマーケティングやパーソナライズを実行できます。
生成AIでVOCの力を引き出し、企業全体の競争力を高めて企業の成長を加速させましょう。
スパイスファクトリーでは、デジタル技術とデザインの力で顧客体験価値を高めるDX支援を行っています。
システム開発からUI/UX改善まで、顧客視点での価値創出をお考えの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

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