サプライチェーンDXとは、サプライチェーンマネジメントを変革するためにデジタル技術を活用する取り組みです。人材不足や企業競争力の強化、効率性の向上、コスト削減など、サプライチェーンの課題を解決する手段として注目されています。
しかし、「何から始めればいいのか」「どのツールを使うべきか」「効果が出るのか」といった不安を抱えている企業も多く、日本では期待するほどDX化が進んでいない状態です。
本記事では、サプライチェーンにおけるDXの基本、現在直面している課題、成功に導くための改革ポイントについてわかりやすく解説します。
改革事例も紹介しますので、サプライチェーンに課題を感じている方はぜひ参考にしてください。
Contents
サプライチェーンとは
サプライチェーンとは、原材料の調達から製品の生産、流通、在庫管理、販売されるまでの一連の流れを指します。
企業が製品やサービスを顧客に提供するために必要なすべてのプロセスをつなげる仕組みで、複数の企業がかかわるのが一般的です。
グローバル化が進んだ今、サプライチェーンの範囲は国境を越えて広がり複雑さを増しています。そのため、些細なトラブルがサプライチェーン全体に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。
サプライチェーンにおけるDXとは
サプライチェーンにおけるDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して従来の業務フローやビジネスモデルを抜本的に変革し、より効率的で柔軟な体制を構築することを意味します。
DXはただのデジタル化にとどまらず、従来のビジネスモデルに大きな変革をもたらす取り組みです。
日本はなぜDX化が進まないのか
日本では多くの企業が労働力不足やグローバル化による企業の競争力に不安を感じているにも関わらず、DX化が進んでいません。ここでは、10の観点から日本でDX化が進まない理由について解説します。
2025年の崖
2025年の崖とは、経済産業省が2018年に発表したレポート上で示唆されたものです。既存のレガシーシステム(老朽化した基幹システム)から脱却できずにDXが進まなければ、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が発生する可能性を指しています。
しかし、2025年になった今もDX化は大きく進んでいません。サプライチェーンは複数企業の連携が前提になることが多く、レガシーシステムの存在もDX化が進まない一因です。
なお、物流業界は労働人口の加速度的な減少に直面する2030年問題も大きな課題です。2030年問題について、詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
関連記事:「物流業界の2030年問題を専門家がわかりやすく解説」
導入コストの高騰
DXを実現するには、クラウドやAI、IoTといった先端技術に対応したハードウェアやソフトウェア、運用のためのシステム基盤などさまざまな設備投資が必要です。初期費用が高額になることも珍しくありません。
特に中小企業にとっては大きなコスト負担となるため、DX化は容易ではありません。補助金制度がある場合でも、存在に気づかないケースや申請手続きの煩雑さで踏み切れない企業も見られます。
投資効果が見えにくい
DXは短期的な投資効果が見えにくく「今のままで十分」「現状維持の方が安全」といった心理が強く働きがちです。特に属人的な業務が根強く残るサプライチェーン領域では、システムを刷新しても新たな活用方法の習得に時間と労力がかかるため、現場から反対の声が上がることも珍しくありません。
また、業務がひっ迫している企業では「新しいことを試す余裕がない」と判断されて導入が先送りされるケースも見られます。
専門人材の不足
DXを推進するには、ITと業務両方に精通した人材が欠かせません。しかし専門家は市場全体で不足しており、特に中小企業では人材確保が難しい状況といえるでしょう。
データのサイロ化
部門や部署ごとにデータが管理されており、容易に共有できない状態をデータのサイロ化と言います。なかでも、レガシーシステムを使い続ける企業においてデータのサイロ化が多く見られます。部門ごとにデータを管理していると全社的なDX化が進みません。
データが共有できなければ、リアルタイムでの情報分析やデータに基づく全社的な意思決定が困難になるのも課題です。
社内に「自分の部署のデータなので他部署と共有したくない」という考えを持つ人が多いことも、DX化が進まない要因となります。サイロ化したデータを共有するには手間やコストがかかるので、思うように進められないのもデメリットです。
ドライバーの高齢化と紙伝票
物流分野では高齢ドライバーの比率が高く、IT機器の扱いに不慣れな人が多く見られます。高齢のドライバーに改めてIT機器の使用方法を教えるよりも、現状維持の方が良いと考える経営層は珍しくありません。
さらに、多くの企業で今も紙の伝票やFAXが使われていることも、デジタル化の妨げになっています。
ベンダーロックイン
ベンダーロックインとは、特定のITベンダー(開発会社・システム提供会社)の製品やサービスに過度に依存し、他社のシステムや技術に容易に切り替えられなくなる状態です。サプライチェーンにおいては、複数の企業が協力して業務を進めなければなりません。1社でもベンダーロックインであれば、周囲との連携に支障が生じます。
データガバナンスの未整備
データガバナンスとは、企業で取り扱うデータに対し運用管理のルールや体制を定める枠組みです。データガバナンスが未整備だと、情報漏えいやデータ改ざんなどさまざまな問題につながります。
サプライチェーンのDXを成功させるには、自社だけでなく連携企業同士のデータガバナンスの統一も欠かせません。
セキュリティと輸出入規制
国ごとにセキュリティ基準や輸出入規制は異なります。グローバルに展開する企業は、それぞれ異なる対応が必要です。DX化に伴いクラウド導入やIoT活用を行う際も、各国の法令に対応しなければなりません。グローバル企業にとっては、このような国ごとの基準の違いがDX導入の妨げになるケースもあります。
KPI設定ミス
DXの効果を測るKPI(重要業績評価指標)が適切でないと、施策の効果が判断できずプロジェクト全体が迷走するリスクがあります。
たとえば、納期遵守率の向上、機会損失の低減、CO2排出量の削減などは直接的な収益には結びつかないためKPIとして設定しない企業もあるでしょう。しかし、「物流費÷売上高」といった財務KPIだけでDXの効果を測定すると、見えない価値や変化が見過ごされてしまいます。
非財務KPIは長期的な企業価値や社会的評価に大きな影響を与えることをふまえ、戦略的かつ多面的なKPI設定が必要です。
サプライチェーンDXを成功させるためのポイント
ササプライチェーンにDXを導入すると、在庫削減や納期短縮、需要変動への即応、業務の可視化、コストの最適化など多くの効果が期待できます。ここでは、DXを成功に導く4つのポイントを解説します。
経営課題の改善
DXは単なるIT導入ではなく、経営課題を解決するための手段です。経営課題を改善するために、多くの企業が重視しているのが「顧客価値の向上」と「収益性の改善」です。最初に、この2軸を明確にしたうえで、経営層と現場で合意形成を図りましょう。
業務改革セオリーを使う
DXを成功させるためには「作業改善」「業務統合」「組織変革」の3つの観点からフレームワークを活用し、現場でも再現可能な形で段階的に進めていくことが重要です。ここでは代表的な3つの手法を紹介します。
手法 | 分類 | 概要 | 現場での具体例 |
---|---|---|---|
IE手法 | 作業改善 | 製造業などで用いられる作業改善手法。工程を細分化し、無駄や非効率を定量的に可視化 | ・ピッキング作業における動線の最適化 ・資材配置の最適化 |
ECRS | 業務統合 | 下記の4ステップで課題を抽出し業務改善を行う Eliminate:不要な業務を排除する Combine:業務の統合 Rearrange:業務手順や担当者の再配置 Simplify:業務の簡素化 |
・業務負担の見直し ・業務の属人化防止 ・ヒューマンエラーの軽減 ・コスト削減 ・マニュアル化の促進 |
レヴィン3段階モデル | 組織変革 | 組織変革を「解凍→変革→再凍結」の3段階で進める | ・これまでの慣習を見直す ・点在していた業務をひとつにまとめる |
それぞれのフレームワークは目的や視点が異なります。現場での業務の見直しは「IE手法」、業務統合に関しては「ECRS」、組織全体の見直しの際は「レヴィン3段階モデル」など、必要に応じたフレームワークを活用しましょう。。
あわせて、「現場担当者のリテラシー向上」を目的としたPoCも有効です。実際に、スパイスファクトリーでは簡易アプリを使い、テスト的に導入しました。その結果、担当者がデータ活用のメリットを実感し、業務改革が進んでいます。
詳しくは関連記事をご覧ください。
関連記事:「株式会社データ・シェフ|物流業界のデータ活用を促進 -実践的な物流データを気軽に体験しデータをより身近にする【Data Chefアプリ】」
SCMの標準知識に基づく業務設計
これらを活用し、自社業務を「調達」「製造」「配送」「返品」などのプロセス単位で再定義すると、課題の抽出や改善の優先順位を客観的に判断できるのがメリットですSCMには、JIS(日本産業規格)やSCOR(Supply Chain Operations Reference)などの標準モデルがあります。
さらに、標準モデルに基づいた業務設計は、ITベンダーと要件定義や連携を進める際の土台になります。業務プロセスから属人性を排除し外部標準に基づいた設計に転換できるため、他企業との連携もスムーズになるでしょう。
全体の最適化とリアルタイム化
サプライチェーンDXを行う際は、全体の最適化とリアルタイム化が欠かせません。
一社だけでなく、サプライチェーン全体を一気通貫で可視化し、連携させることで全体的なパフォーマンスの向上が実現します。そのためには、他社とのシステム連携やデータの統合が不可欠です。
また、こうした変化に柔軟に対応するには、アジャイル型のアプローチも検討してみましょう。小さく始めて検証と改善を重ねるこの手法は、業界を問わずDX推進に適しており、スパイスファクトリーでも多くの現場で採用しています。
アジャイル開発の定義やメリットについては、関連記事で詳しく解説しています。
関連記事:「アジャイル開発がこれからのDX推進に必要な理由とは?活用するメリット・デメリットを解説」
サプライチェーンDXで導入検討必須のテクノロジー
サプライチェーンDXを導入する際に、必ず検討すべきテクノロジーを3つ紹介します。
IoT
IoTはモノのインターネットと呼ばれています。物流機器や製造設備、在庫棚などにセンサーを設置し、位置情報や温度、稼働状況などのデータをリアルタイムで収集・可視化する技術です。サプライチェーン全体の状況を即座に把握できるため、予防保全やトラブルへの早期対応が可能になります。
クラウド
クラウド環境を利用すると、サプライチェーン全体の情報をインターネット経由で共有・管理できます。オンプレミスと比べて導入コストを抑えられるのも利点です。データを一元管理すると迅速な意思決定が可能になるため業務の効率化や顧客満足度の向上につながります。
AI
AI(人工知能)は大量の履歴データを分析し、従来のツールでは捉えきれないほど多くのパターンや変動要因を抽出できます。そのため、需要予測、在庫最適化、異常検知など幅広い活用が可能です。また、機械学習を活用すると、予測精度や運用効率の向上が期待できます。
サプライチェーンDXを現場と経営に直結させるシステム・ツール
サプライチェーンDXの効果を最大化するには、現場レベルの業務改善だけでなく経営層が意思決定に活用できる財務・管理データとの接続が欠かせません。ここでは、業務の自動化や標準化に役立つ3つのシステム・ツールを紹介します。
ERP
ERP(Enterprise Resource Planning)は、企業全体の業務を一元管理するためのシステムです。生産、販売、会計、人事などの情報を統合し業務の効率化を図ります。
RPA
RPA(Robotic Process Automation)は、ソフトウェアロボットを使いパソコンで行う定型業務を自動化する技術です。受発注処理や帳票作成などの作業時間を大幅に削減できます。ヒューマンエラーを防止できるのもメリットです。
BPSP
BPSP(Business Payment Solution Provider)は、企業間取引におけるキャッシュレス決済を促進する仕組みです。従来の企業間取引では請求書に基づいた現金や手形での支払いが一般的でした。しかし、BPSPを利用すれば、クレジットカード非加盟店でもキャッシュレス決済が可能になります。そのため、資金繰りに余裕ができるだけでなく、ペーパーレス化による業務効率化にもつながります。
サプライチェーンDXの改革事例
サプライチェーンDXを導入すると、業務効率化や顧客満足度の向上、人的負荷の軽減などさまざまな効果が期待できます。ここでは、実際にDXを取り入れて成果を上げている企業の改革事例を3つ紹介します。
ダイキン工業 西日本パーツセンター
ダイキン工業の西日本パーツセンターでは、補修部品倉庫にハンドリフト牽引型の自動搬送装置(AGV)を導入しました。
最長500メートルの入出庫品の搬送を自動化し、運搬作業の負荷を軽減しています。また、レンタルAGVも併用し、季節変動による需要の繁閑に柔軟に対応しました。
その結果、生産性は15%向上し、2名分の省人化を実現しています。
引用元:「物流・配送会社のための物流DX導入事例集~中小物流事業者の自動化・機械化やデジタル化の推進に向けて~」
福岡運輸株式会社
福岡運輸株式会社では、自社開発の「バース予約・受付システム」を導入しました。
ドライバーが携帯電話で倉庫予約や到着報告を行い、倉庫側で受付情報やバース(荷降ろし場)の稼働状況をリアルタイムで可視化できる仕組みです。
倉庫周辺で待機するトラック台数と倉庫内貨物の状況が瞬時に把握できるので、ドライバーの待機時間短縮や渋滞緩和など物流効率の向上に貢献しています。
この取り組みは、2020年度に国土交通省から表彰を受けました。
引用元:「物流・配送会社のための物流DX導入事例集~中小物流事業者の自動化・機械化やデジタル化の推進に向けて~」
株式会社シーエックスカーゴ
株式会社シーエックスカーゴでは、クラウド型物流容器在庫管理システム「epal(イーパル)」を導入しています。
従来、拠点ごとに管理していた自社パレットとレンタルパレットの情報を一元管理し、Web上で全拠点の在庫をリアルタイムに把握できる仕組みを構築しました。
パレットの利用が最適化され、在庫管理の負担が大幅に軽減されています。また、過剰なパレットのレンタルを防ぎ、コスト削減にもつながりました。さらに、在庫状況の可視化によって在庫管理の精度が向上し、帳簿在庫と実在庫の差異も減少しています。
引用元:「物流・配送会社のための物流DX導入事例集~中小物流事業者の自動化・機械化やデジタル化の推進に向けて~」
スパイスファクトリーの物流特設チームの創立
スパイスファクトリーでは物流業界が抱える2030年問題の解決に向けて、特設チームを立ち上げました。
日本のサプライチェーンDX化を後押しするために、IoT、ビッグデータ、AIなど最先端の技術を活用して革新的なソリューションを提供しています。
データ共有により業務の最適化を図り、業務の効率化や人的リソースの効果的な活用を実現する取り組みです。
まとめ
労働力不足や業務効率化、レガシーシステムからの脱却といったサプライチェーンが抱える多くの問題を解決するには、DX化が欠かせません。
DXの導入はサプライチェーンの構造や仕組みを根本から見直す大きなチャンスといえます。いち早く物流業界が抱える課題を乗り越えることで、他社との差別化や顧客満足度の向上が期待できます。
持続可能な成長を実現するためにも、この機会にDX化の導入を検討してみましょう。
私たちスパイスファクトリーは、物流業界のDXを支援するための具体的な解決策をご提案しています。無料で資料をダウンロードできますので、ぜひご活用ください。

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