近年の日本では少子高齢化による人手不足が叫ばれています。日本も例外ではなく2022年時点で、IT人材の量的不足を感じる企業が全体の 83.5% に達したという調査もあります。
そこで注目されているのがオフショア開発です。
ブリッジSE と呼ばれるオフショア先とのやり取りを専属で行う SE(システムエンジニア)を配置すれば、各種対応がスムーズになるといわれていますが、ただ配置すればいいというものではありません。
この記事ではブリッジSE のオフショア開発での役割と必要性、注意点などをお伝えしていきます。
Contents
ブリッジSEとは
ブリッジSE とは、オフショア開発など他国と協業するプロジェクトの橋渡し役となるシステムエンジニア(以下 SE)のことです。
オフショア先への各種情報連携や成果物のチェック、日本側への進捗報告などを実施します。
ブリッジSE の業務遂行にあたっては、一般的な SE に求められる知識に加え、オフショア拠点の文化や言語などの知識も求められます。
ブリッジSEと通常のSEの違い
ここではブリッジSEと通常のSEについて、業務の違いを紹介していきます。
通常のSE
通常のSE(システムエンジニア)は、システムの開発や運用をはじめ、システム開発の業務そのものに関わることが一般的です。
ドキュメント作成や顧客との折衝など、システムに関わる業務内容全般を担当していきます。
ブリッジSE
ブリッジSE は先述の通常の SE業務に加えて、慣習の異なるオフショアメンバーに対し、システムの仕様や設計について正確に伝え、プロジェクトを円滑に進める役割を担います。
システム開発に関しての知見が必要であることはもちろんですが、日本語ではない現地の言語を活用したコミュニケーションとオフショアメンバーのマネジメント業務のウェイトが大きくなります。
ブリッジSEが求められる背景
続いて、ブリッジSE が求められる背景についてみていきましょう。
語学や外国の文化に精通したSEは少ない
オフショア開発では、残念ながらプロジェクトが破綻してしまうといった事例が多く聞かれます。
オフショア開発を含むプロジェクトでは、言語の違いや文化の違いからプロジェクト推進にあたって様々な齟齬が生じやすい点が国内での開発とは大きく異なります。この違いに対応できないことが失敗の原因としては大きいです。
※参考記事:オフショア開発は失敗しやすい?よくある失敗パターンの原因と対策を解説
このような事態を防ぐためには、オフショア拠点がある国の語学や外国の文化に精通したブリッジSE の配置が有効になるでしょう。
オフショア拠点側からみても、常に自国の言語で相談できる人員がいることは安心感がありますし、コミュニケーションの速度・質も上がります。また、自国の文化を理解し味方になってくれる人がいることで、オフショア先の勤務モチベーションも保たれます。
通常の SE の場合、技術的な会話も含めて多言語に対応できる人材は少ないです。また、オフショア開発拠点国の文化的な理解まで含むと一層希少ですので、ブリッジSE という専属のポジションの必要性が存在します。
オフショア先を管理する人材が必要
オフショア開発においてよくある課題として、オフショア拠点が発注元会社の複数の異なる人からリクエストや指示を受けてしまうといったこともあります。
結果として情報が錯綜してしまい、オフショア拠点側が優先度や対応要否などを判断できず、混乱してしまうことも。
そのような事態を避けるために、ブリッジSE に連絡先を一本化しておくことが有効です。
言語や文化差におけるニュアンスの齟齬も減らせるほか、発注側のメンバーも、オフショア拠点側のメンバーも要望を誰に相談すればいいか、情報を誰に確認すればいいかが明確になることで混乱を避けることができます。
ブリッジSE という情報の交通整理ができるメンバーがいることでプロジェクトを円滑に進めることができるでしょう。
海外で作成される成果物品質への懸念
海外で制作された成果物が必要な質を担保しているかということも、オフショア開発において挙がる懸念事項の一つです。
そこで言語や文化への理解と技術的な知見の両方を持ち合わせるブリッジSE が参画することで、現地エンジニアへの依頼内容とクリアすべき品質の基準が伝わりやすくなります。
ブリッジSE が存在することで、現地チームの各種ルール整備やコードレビューなどの品質担保の取り組みについても主導権をとって推進していけるでしょう。
ブリッジSEの役割
ブリッジSEは、システムの設計スキルを持ち合わせた上でクライアントと開発チームの橋渡しをします。ここではその役割の詳細を解説します。
オフショア拠点にプロジェクトの説明をする
オフショア拠点国の文化によって仕事の進め方は大きく異なります。
最初にプロジェクトの説明をし、出てきた疑問や問題点に対する細かい調整は必須です。
この細かい調整にあたってブリッジSE がその真価を発揮します。
仕様についてや要求される機能とその品質、対応スケジュールなど現地メンバーのスキルセットや現地の商習慣、祝日などを考慮して整理する役割を果たします。
設計書の翻訳や補足をする
オフショア開発に限定した話ではありませんが、設計書の意味を取り違えると取り返しのつかないことになります。
そのため、日本とオフショア先の両方の言語を理解したブリッジSE が設計書の翻訳・捕捉をしていく必要があるのです。
日本側(発注側)とオフショア側で共通した認識を持てるように、ドキュメントの整理などの対応する場合もあります。
納品物の品質の担保
納品物の品質担保のため、ブリッジSE によるコミュニケーションは不可欠です。
納品物に不備がある際は、信頼関係を壊さないよう誠実に、一方で要求する水準を満たしてもらえるように丁寧な対応が対応が必要になります。
場合によっては、一緒にソースコードを確認したり、参考にすべき記述方法の情報共有やディスカッション、アドバイスなどを行うこともあります。
現地の言葉を用いてのコミュニケーションも重要ですが、前提として SE としての技術的な知見を持ち、チームに還元することも求められます。
プロジェクトの管理や調整・報告
プロジェクトの体制にもよりますが、いわゆるプロジェクトマネジメントもブリッジSE の役割に含まれます。
納期までに決められた品質の成果物が納品できるように、スケジュールのコントロールや各種課題への対応、社内外を含めたステークホルダーへの相談や報告も重要な役割です。
プロジェクト成功のためにブリッジSEに求められるスキル
上記にて紹介した通り、ブリッジSE に求められる役割は多岐にわたります。
それに伴い、必要となるスキルの幅や質も高くなります。
ここではブリッジSE に求められるスキルの中で、代表的な5つのスキルを紹介します。
語学力
ベトナムやフィリピンなどオフショア開発の拠点国として人気の国では、最低限英語が話せる必要があります。
オフショア先の現場で使われる言語をマスターしていることはプロジェクト推進の前提となるため最も重要なスキルと言ってよいでしょう。
コミュニケーションスキル
コミュニケーションが取れないと認識に齟齬がでてしまい、望んでいた結果が得られない可能性があるため、異文化を理解したうえでのコミュニケーションスキルは必須です。
オフショア拠点国の言語、日本語、両方でコミュニケーションが取れることが重要です。
口頭でのコミュニケーションに加え、メールやチャットツール、必要な情報をドキュメントにまとめるといったテキストでのコミュニケーションもスムーズに行える必要があります。
異文化理解
オフショア開発を実施するうえで、現地の文化を理解して適切なアプローチ方法を考えることは欠かせません。
連携先の国の商習慣やパーソナリティの理解は、プロジェクトを進める上で非常に重要なファクターです。
現実的な差としては、たとえば祝日や長期休暇のタイミング、時差により稼働時間が日本と違っていたり、転職に対する考え方が日本よりもフランクなケースが多いなど、チームマネジメント、プロジェクトマネジメントの両面から考慮すべき事項は多く存在します。
前提となる常識や考え方ズレてしまうと、後々大きな問題となって表出することが多くあります。
英語でいう TOEIC などのように、定量的に測ることが難しいスキルではありますが、非常に重要なスキルです。
システム開発に関する技術的知見
当然ながら、システム開発を進めるうえで必要になる「設計スキル」「プログラミング言語・フレームワーク知識」「コーディングスキル」「セキュリティ対策」など、一般的にプロジェクトで使用される技術に対して理解を深めていることも必要です。
自社が使用する技術については精通していることが望ましいでしょう。
プロジェクトマネジメントスキル
日本国内とオフショア拠点の橋渡しをしつつ、品質や納期も守るためにオフショア先のエンジニアに対して的確に指示を出し、パフォーマンスを発揮できるようアシストする必要があります。
各ステークホルダーとの折衝や、オフショアチームのピープルマネジメント、進捗の管理やフォローの指示、スケジュールの調整など日本国内でのプロジェクトにおいても重要なスキルです。
さらに、多言語かつ、時差や祝日、文化差など考慮が必要な変数が多いことから、ブリッジSE にはより丁寧で緻密な管理が求められます。
ブリッジSEを参画させる場合の注意点
最後にブリッジSE を参画させる場合の注意点を一つずつみていきましょう。
ブリッジSEに求めるスキルを明確にする
ブリッジSE に通常の SE のような動きを期待するのか、コミュニケーション能力を期待するのか、それともプロジェクトマネジメントの能力を期待するのかで、ブリッジSE に求められるスキルが異なってきます。
もちろん、すべてのスキルを持っていればベストですが、その場合アサインには大きな費用を要することが多いでしょう。
そのためブリッジSE の職務定義を明確にし、ブリッジSE に求められる能力をはっきりさせておくことが無駄なコスト削減のためにも重要です。
オフショア開発を外注する場合には、依頼する会社側でブリッジSE のアサインが可能か相談をしてみるのが良いでしょう。
ブリッジSE のスキルレベルを会社独自の試験制度で視覚化しているオフショア開発企業もあるので、そのようなところを選択できるとベターでしょう。
事務員をブリッジSEにしない
やり取りの煩雑さから事務員をブリッジSE にしたがる企業やチームがあります。
率直に言っておすすめしません。
事務員では日々のやり取りが文字通り事務的になり、また SE としてのスキルも不足していることが多いため、オフショアチームの能力を引き出しきれません。
技術的な相談にも対応できないため、即座に対応すれば解決することが翌日に持ち越しになるといったことも往々にしてあるでしょう。
その場合、作業もスムーズに進まず、オフショアチームの効率も落ちてしまいます。
ブリッジSE には必ず システムエンジニア職務に従事・精通している人員を割り当てましょう。
連絡は必ずブリッジSEを通す
自社の複数の人員からリクエストを出すようにしてしまうと、オフショア先ではどの依頼を優先すべきかわからずに、その判断に時間が割かれてしまいます。
基本的に連絡事項は必ずブリッジSE に集約し、ブリッジSE が調整したうえでオフショア先に展開しましょう。
逆にオフショア先からのリクエストがある場合も、ブリッジSE を通して伝えるようにし、自社内での意思決定をスムーズにできることが望ましいでしょう。
最初はブリッジSEをオフショア先に張り付かせる
最初はコミュニケーションがうまくいかなかったり、オフショア先の文化を理解するのに苦労したりといったトラブルが発生することもあります。
そのため、特にオフショア開発の開始当初は、ブリッジSE がオフショア先に付きっ切りで手取り足取り業務を教える体制とした方が、後々の開発もうまくいきやすくなります。
ブリッジSEにオフショア先とのやり取りを任せ過ぎない
コミュニケーションはブリッジSE を経由した方がよいと前述しましたが、すべてをブリッジSE に任せきりにしてしまうのもデメリットがあります。
ブリッジSE だけで仕事をすると、成果物がブリッジSE のスキルに依存しやすくなるのです。
そのため、成果物についてはブリッジSE 以外のメンバーでも確認し、指摘点や不明点、改善点などはチーム全体で洗い出す体制がよいでしょう。
オフショアメンバー・国内メンバーどちらでもよいですが、プロジェクトのブリッジSE よりも開発スキルがあるメンバーがいれば、レビュアーとして参画してもらうことなどは有効です。
役割分担を明確にしてブリッジSEに把握させる
オフショア開発以外にも当てはまる話ですが、自社とオフショア拠点で何をするか役割分担を明確にしておきましょう。
各メンバーが範囲外のことまで取り組もうとした場合は、その範囲を明示して制することも必要です。
オフショア先と明確に会話するブリッジSE は、特に役割分担については明確に把握しておかなくてはなりません。
業務についての責任の所在を明確にすることで、齟齬やトラブルのリスクを軽減するとともに、成果物に不足や不具合があった際にどちらが悪いといった不毛な議論に時間を使わずに済むようになります。
ブリッジSEからオフショア先への指示は定型文で伝える
指示は省略せずに、いつも同じ表現を用いて伝えましょう。
特に日本語は表現が豊富なため、海外の人材から指示がわかりにくいという声があがることもあります。
ドキュメントに記載のある表現をベースにして、指示はいつも同じ表現で伝えるようにしましょう。
たとえば、具体的には「~してください」と「~してくれませんか?」が異なるだけで意味を取り違えられてしまうこともあります。
仕事の進め方を可能な限り文書化する
非常に基本的な内容から、社内でのルールを洗い出して文書化しておきましょう。
日本人なら何となくわかりそうなルールでも、海外のメンバーにはくみ取れないことがよくあります。
仕事のルールのなかには、何となく定着した「暗黙のルール」もあるはずです。
この機会にルールを振り返って文書化しておきましょう。
また、必要な資料やデータの探し方については、文書化するだけでなく、画面越しにレクチャーすることも大事です。
オフショア先が資料を探すのに時間がかかっては効率が落ちるため、最初にレクチャーしておくことをおすすめします。
業務で使用する単語と外国語の対応表を作成する
日本語と英語、オフショア先の母国語で業務に使用する単語表を作っておきましょう。
特に自社で開発の際に頻出する単語については掲載しておくべきです。
オフショア先のエンジニアが、自社で頻繁に使われる業務用語を知らないため、必要な仕事を与えることができない場面も想定されます。
また、連絡のたびにいちいち単語の意味を説明していては時間がかかりすぎます。
共通認識を持つ意味でもプロジェクトの初期段階で用意し、随時追加しながら運用していくのが良いでしょう。
依頼企業選定時に優秀なブリッジSEのいる会社か見極めるには?
自社でブリッジSE を採用する場合は、前述した求められるスキルを満たしている人材かを確認して採用しましょう。
採用にあたっては、過去にオフショア開発チームとどのようなコミュニケーションを取ったのかを評価するべきです。
指示書等での簡潔な連携がメインであれば、品質を保つのは困難かもしれません。
オフショア開発を外部の会社に依頼する場合には、契約前の商談の時点で、ブリッジSE の有無の確認ならびに誰がブリッジSE として参画するのかを聞いておき、必要に応じて求めるスキルレベルを伝えておくとその後の対応がスムーズです。
可能なら商談時に営業だけでなく参画予定のブリッジSE とも会話をし、コミュニケーションに問題がないか、実績や経験は申し分ないかなどを確認するなどして自社の案件との相性を確認しておきましょう。
オフショア開発の依頼先選定については以下の記事もぜひ参考にしてください。
※参考記事:オフショア開発会社の選び方とは?確認すべきポイントを解説
まとめ:ブリッジSEのアサインでオフショア開発の成功確率を上げる
これまでの内容で説明した通り、オフショア開発プロジェクトを成功に導くためには、ブリッジSE は非常に大きな役割を果たします。
ブリッジSE を採用する場合は前述したスキルを保持しているかを確認し、オフショア先でブリッジSE をアサインしてもらう場合は、プロジェクト開始前に一度会話の場を設けて問題なくコミュニケーションが取れることを確認できるとベストでしょう。
当社、スパイスファクトリーではフィリピンを拠点としたオフショア開発のサービスを提供しています。
優秀なブリッジSE が参画し、高いレベルでのプロジェクト推進体制を構築していますので、これまでオフショア開発の経験がないお客様にも安心してご利用いただいております。
オフショア開発やブリッジSE のアサインにお悩みの場合は、ぜひ一度スパイスファクトリーにお問い合わせください。
参考文献
- 吉山 慎二 著.『ゼロからわかるオフショア開発入門』(2020).幻冬舎
- S-openオフショア開発研究会 著.『ソフトウエア開発 オフショアリング完全ガイド』.日経BP
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