Webサービスの使いづらさを改善したいと思ったとき、専門家に依頼したいと思われる方もいるのではないでしょうか。
その際に特に気になるのがユーザビリティの専門家による評価「エキスパートレビュー」です。
一方で、エキスパートレビューでは具体的には何をしてくれるのか、ユーザビリティテストやユーザーリサーチとは何が違うのか、といったことが気になる点です。
この記事では、エキスパートレビューでわかることやメリット、実施のタイミングや流れについて解説します。
ユーザビリティテストやユーザーリサーチとの違いについても解説しているので、エキスパートレビューについてより理解を深められるでしょう。
Contents
エキスパートレビューとは
エキスパートレビューの概要とそのメリットについて解説します。
エキスパートレビューの概要
エキスパートレビューとは、ユーザビリティの専門家が体系化されたユーザビリティの 10の原則(ヒューリスティックス)や知見を元に、ユーザビリティの問題点を洗い出し、それに対する改善案を提案する手法です。
エキスパートレビューは、数ある UX 手法の中でも比較的取り入れやすく、効果も高い手法のひとつです。
そのため、エキスパートレビューを実施する企業は多く、ユーザーへの経験価値の提供につながる UI/UX の向上に欠かせない手法となっています。
エキスパートレビューのメリット
エキスパートレビューの実施によって得られる4つのメリットを解説します。
Webサイトの現状を客観的に把握できる
エキスパートレビューは、開発やデザインに関与していない第三者の専門家が行うため、客観的な視点から Webサイトの現状を評価できます。
制作の担当者だけでは気づきづらい「使いにくさ」「わかりづらさ」といった問題点を洗い出せる
制作に関わる担当者は、思い入れや慣れによってバイアスがかかってしまい、「使いにくさ」や「わかりづらさ」といった問題点に気づきづらいものです。
そのため、専門家が先入観を持たず Webサイトやサービスをユーザーの立場から評価することで、より多くのユーザーにとっての問題点を洗い出せます。
専門家による包括的な視点でWebサービスを分析・評価し、改善につなげられる
専門家は、デザイン・ユーザビリティ・アクセシビリティといった専門知識を元に、包括的な視点で分析と評価を実施します。
これにより、細かな改善点や潜在的な問題も特定でき、Webサービスや Webサイト全体の質を向上させる改善の実現につながります。
ユーザビリティテストの実施前に基本的な問題点を洗い出し、改善しておける
ユーザビリティテストを予定している場合は、事前にエキスパートレビューを実施することで、基本的な問題を改善した上でユーザビリティテストに臨めます。
その結果、ユーザビリティテストでは評価内容の焦点を絞ることができ、より効率的なユーザビリティテストの実施と質の高い改善につながります。
エキスパートレビューとユーザビリティテストやユーザーリサーチとの違い
エキスパートレビューは、よく聞く「ユーザビリティテスト」や「ユーザーリサーチ」とはどのように違うのか、疑問に思われる方もいるのではないでしょうか。
ここでは、エキスパートレビューと、ユーザビリティテストやユーザーリサーチ(UXリサーチ)との違いについて解説します。
ユーザビリティテストとの違い
ユーザビリティテストとは、実際のユーザーに製品やサービスを使用してもらい、ユーザーの振る舞いや発話を観察することでユーザビリティ上の問題を特定する手法です。
一方、エキスパートレビューは UI/UX の専門家が評価を実施して問題を特定します。そのため、ユーザビリティテストとは「製品・サービスを使って評価する人」が異なります。
ユーザビリティテストのメリットは、実際のユーザーによるフィードバックを得られる点です。一方で、ユーザビリティテストでは評価のためにユーザーを集める必要があるため、エキスパートレビューよりも時間とコストがかかる傾向があります。
ユーザビリティテストの詳細については、こちらの記事も参考にしてください。
ユーザーリサーチ(UXリサーチ)との違い
ユーザーリサーチは UXリサーチとも呼ばれ、ユーザーの行動やその行動に至る心理、感情を調査することに対する総称です。つまり、ユーザーリサーチは特定の調査手法ではなく、エキスパートレビューやユーザービリティテスト、インタビューなど、UX 向上に向けた調査活動を包括的に含みます。
ユーザーリサーチは、その目的によって、大きく「ユーザーの潜在ニーズの探索」と「ユーザー目線での仮説検証や製品評価」に分けられます。
エキスパートレビューやユーザビリティテストは、「ユーザー目線での仮説検証や製品評価」のために利用されることの多いユーザーリサーチの手法です。
一方、「ユーザーの潜在ニーズの探索」を目的としている場合には、ユーザーインタビューやアンケート調査、エスノグラフィーといった手法がよく利用されます。
ユーザーリサーチ(UXリサーチ)の詳細や手法については、こちらの記事をご参照ください。
エキスパートレビューが重視される理由
一般的に、Webサービスの多くはユーザビリティ上の課題を抱えています。
たとえば、目的の情報にスムーズにたどりつけないという導線の課題や、情報整理が不十分でわかりづらいといった課題がよくあります。他にも、配色や文字組みのデザインの視認性が低かったり、表示速度が遅かったりというケースもよくある課題です。
ユーザビリティ上の課題はユーザーにとってのストレスであり、Webサイトや Webサービスから離脱する原因になります。
ユーザビリティ課題に関する詳細は、こちらの記事をご覧ください。
一方、ユーザビリティの課題は多岐に渡るため、包括的な視点で Webサイトや Webサービスを分析するのは容易ではありません。そのため、専門家によるユーザビリティの評価、エキスパートレビューが求められるのです。
通常、エキスパートレビューの結果はレポートとしてまとめられます。問題点とその該当箇所、改善方法の案などが記され、それを元に改善に向けた方針や具体的な改善内容を検討していくのです。
(レポートのサンプル画像)
エキスパートレビューでわかること
ここでは、エキスパートレビューの実施により具体的に何がわかるのかを解説します。
製品の品質や機能性の評価
エキスパートレビューでは、使いやすさを表す代表的な指標である10の原則(10 Usability Heuristics for User Interface Design)が用いられます。
この原則は、ユーザビリティ研究の第一人者であるヤコブ・ニールセンが UIデザインのために注意すべき点をまとめたものです。
Webサイトにおいてユーザーが最低限求める品質であり、10の原則を網羅して実現することでユーザビリティが高いといえます。
そのため、10の原則をどの程度満たしているかによって、製品の品質や機能性を客観的に評価できるのです。10の原則の内容をご紹介します。
【10の原則】
- システム状態の可視化(Visibility of system status)
データの読み込み中といった、システムの状態をユーザーにとって適切なタイミングでわかりやすく伝える - 実世界とシステムの一致(Match between system and the real world)
ユーザーが慣れ親しんでいる用語や表現、見た目にする
- ユーザーに制御の主導権と自由を提供(User control and freedom)
ユーザーが途中で操作を中断したり、間違った際に取り消したりできるようにする - 一貫性と標準性の保持(Consistency and standards)
ユーザーが想定する一般的な使い方に沿うようにし、デザインや操作方法をシステム内で一貫する - エラーの防止(Error prevention)
操作ミスが起きづらい設計にする
- 覚えなくても理解できるデザイン(Recognition rather than recall)
メニューや操作を覚えなくても使えるようにする。以前使った機能や情報をシステムが覚えているようにする - 柔軟性と効率性(Flexibility and efficiency of use)
初めて使う人に向けた簡単な使い方と、よく使う人に向けた効率的な使い方の両方を用意する - 最小限で無駄のないデザイン(Aesthetic and minimalist design)
見たときに負荷の少ない、シンプルで美しいデザインにする - ユーザー自身で認識、診断、回復ができる(Help users recognize, diagnose, and recover from errors)
エラーメッセージを理解しやすく、ユーザーがどう対応すればよいかわかるようにする - ヘルプとマニュアルの準備(Help and documentation)
ユーザーを助けるヘルプやドキュメントを用意し、簡単に手に入れられるようにする
参考:10 Usability Heuristics for User Interface Design
競合他社との比較と差別化ポイント
Webサイトでは、基本的な品質を満たすだけでなく、他社との差別化も重要な要素です。
数多くの Webサイトを評価してきた専門家の視点で、競合他社と比較してどのような点が差別化の要素になるか知ることができます。差別化要素を踏まえて UI/UX を改善することで、より魅力的な Webサービスや Webサイトの利用体験の提供につながります。
エキスパートレビューを実施するタイミング
エキスパートレビューはユーザビリティの評価手法の中でも実施しやすく、幅広いタイミングで取り入れられます。
ここでは、エキスパートレビューの実施に特におすすめなタイミングをご紹介します。
サービス開発の初期段階
エキスパートレビューは、サービス開発の初期段階から取り入れられ、本開発前のプロトタイプやモックアップなどを使っての評価も可能です。
開発の初期段階でエキスパートレビューを実施することで、本格的な開発前に評価結果を踏まえた上でデザイン方針を決められます。
始めからユーザー目線での開発ができるだけでなく、開発終盤での評価・改善と比較して大きな手戻りを防ぐことにもつながります。
サービス改善やアップデートの前後
サービス改善やアップデートの際にも、エキスパートレビューはおすすめです。
改善前の Webサービスを評価しておくことで、より適切で、効果的な改善の方針を決められます。
また、Webサービス改善後の評価では、改善の目的が達成されているかや品質を確認できます。
サービス改善やアップデートの前後でエキスパートレビューを実施することで、リリース時により成果を得やすくなるでしょう。
マーケティングキャンペーンの前
マーケティングキャンペーンの実施に向けて、エキスパートレビューを取り入れるのもおすすめです。
マーケティングキャンペーンの中には、一定の効果を得られたとしてもユーザーにとっては不快でブランドの印象を損なうケースがあります。
最悪の場合は「炎上」と呼ばれるように SNS 等で悪評が拡散されてしまうような事態にもなりかねず、ビジネスにおいて大きなリスクが存在します。
エキスパートレビューを実施することで、予定しているキャンペーンの打ち出し方がユーザーの目にはどのように映り、ポジティブな効果を与えられるかを確認できます。
エキスパートレビューの流れ
本章では、エキスパートレビューの基本的な流れをご紹介します。
エキスパートレビューの依頼
まずは、エキスパートレビューの依頼先を決めます。
エキスパートレビューの対象は幅広く、プロダクトもあれば Webサービスもあり、分野も多岐に渡ります。そのため、エキスパートレビューを依頼する専門家は、依頼するレビューの対象やサービスの分野、レビュー結果の活用先などを加味して選定するようにしましょう。
依頼先が決まったら、エキスパートレビューの専門家と評価の目的やユーザーの情報・Webサービスの内容といった評価に必要な情報を共有します。
専門家による評価・分析の実施
事前に共有された情報と専門家としての知見を元に、評価を実施します。
評価では、問題点を洗い出して分析し、改善案を検討します。
形式は企業や依頼先によって様々ですが、一般的には問題点や改善案をまとめた評価結果がレポートにまとめられ、依頼主に提出されます。
報告会
評価結果の報告会などを実施し、レポートの内容を元に、専門家から評価結果の詳細説明を受けます。
サービスの改善
評価結果および改善案をふまえ、Webサービスの改善内容を決定し、改善します。
外部の専門家の新鮮な目でWebサービスの状態を知ろう
この記事では、エキスパートレビューの内容やメリットについてご紹介しました。
エキスパートレビューは、ユーザー目線でのサービス開発に非常に有効であることがご理解いただけたでしょうか。
ユーザビリティの「10の原則」などは、開発者自身でも実施できる内容です。
しかし、開発者は自社の Webサービスを見慣れてしまっていたり、開発上の都合もあったりと、適切に評価するのは難しい一面があります。
そのため、エキスパートレビューは、新鮮な目で Webサービスを評価する機会ともいえます。
エキスパートレビューは、ユーザーリサーチの手法の中でも比較的取り入れやすい手法です。
まだ実施したことのない方は、これを機に、一度エキスパートレビューを実施してみてはいかがでしょうか。
エキスパートレビューに関する詳しい内容や事例、費用についてはこちらのホワイトペーパーをご覧ください。
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