ビジネスにおける国際化と IT人材不足が増える中で、オフショア開発の重要性は日増しに高まっています。アジアの中でもフィリピンは、オフショア開発の先進国として成長し、そのスキルやコストパフォーマンスを高く評価されています。さらに英語が公用語で、高品質なサービスを低コストで提供できる能力があることから、多くの企業がフィリピンをオフショア開発先として選んでいます。本記事では、フィリピンのオフショア開発のメリットとデメリットを掘り下げて解説します。
Contents
フィリピンの概要
まずはフィリピンはどのような国なのか、人口や国民性など概要を説明します。日本とは違う文化で、異なる価値観が生み出すオフショア開発の利便性をみていきましょう。
フィリピンはどんな国?
オフショア開発を得意とするフィリピンは、どんな国でどのような価値観をもっているのか、そのバックグラウンドを解説します。
人口・国民性
フィリピンの人口は、2020年フィリピン国勢調査によると、約1億903万人です。
主にマレー系が大多数を占めており、ほかに中国系、スペイン系、その他少数民族もいます。
マレー系のフィリピン人は、一見物静かですが顔見知りになるととてもフレンドリーな人が多く、細かいことはあまり気にしない大雑把な性格の傾向にあります。
一方で中国系のフィリピン人は、礼儀正しく勤勉な人が多く、仕事にも真摯に向き合う人が多いといわれています。日本人にも友好的な人が多く、時間を守る傾向にあるので、オフショア開発ではかかせない人材として重宝されています。
宗教
フィリピン人は、東南アジアで唯一のキリスト教国で、国民の約9割がキリスト教を信仰しています。
宗教に対する考え方は、国や信仰する宗教によっても違うため、オフショア開発を進めるうえで、キリスト教および一部その他の宗教も理解して受け入れていく必要があります。
また、一般的に日本人よりも宗教が深く浸透している傾向にあるため、たとえば働く日時や宗教に関する祝日などは、より理解が求められるでしょう。
主要言語
フィリピンの公用語は、第一言語がフィリピノ語で、第二言語は英語です。公的な場や教育現場でも英語が使用されているため、フィリピン人の英語力は高く評価されています。
フィリピン人の英語力は、スウェーデンの EF が提供する英語能力指数によると、アジア内では2位(世界では22位)で、世界的にも非常に高い水準であることがわかります。
フィリピンでのオフショア開発の将来性
オフショア開発拠点として人気のフィリピンですが、この先さらに需要が増すのでしょうか。コストパフォーマンスや人材育成など、複数の目線でフィリピンでのオフショア開発の将来性について解説します。
豊富な労働人口
前述の通り、フィリピンの人口は、2020年フィリピン国勢調査によると約1.1億人です。2030年頃になると1.25億人となり、2050年ごろまで増加すると予測されています。
また、2020年時点でフィリピンの平均年齢は25.3歳※です。このことからも若年層が多いことがわかります。そのため、これから経験値が増えスキルアップが見込まれることから、中・長期的に見てもフィリピンの貴重な人材には将来性があるといえるでしょう。
※参考:WCL Solutions(Phil.) Corp..『平均年齢、2020年25.3歳に(15年24.3歳)』
戦略的投資優先計画(SIPP)
フィリピン政府が発表した2022年版の「戦略的投資優先計画(SIPP)」によると、デジタルやテクノロジーの分野も税制優遇等を受けられる産業として位置付けられています。
そのため、多くのテクノロジーや IT分野の企業が、国から税制優遇を受けながら事業を拡大させていくと考えられ、オフショア開発を含めた今後の IT領域の発展が見込まれています。
※戦略的投資優先計画(SIPP)
記載された業種・事業は各種優遇措置が受けられる。2022年版 SIPPは、2022年5月24日に承認されました。
フィリピンでのオフショア開発のメリット
次にフィリピンでのオフショア開発のメリットを、以下の3つの観点から解説します。
- IT人材育成
- 地理的距離
- コストパフォーマンス
IT人材
フィリピンでは、教育現場でも英語が使われており英語が公用語であることと、地域差はあるものの IT教育を受けて育った人が多いのが特徴です。
2020年の調査によるとフィリピンの IT技術者は約18万人です。
絶対数は同時期の日本より少ないものの、国が全面的に IT技術の支援を行っている背景や IT分野の教育の充実を考えると、今後のフィリピンの IT技術者は増え、期待以上の成果も見込まれます。
日系企業も含む、多くの外資系企業が進出しており、フィリピン人にとっては外資系企業で働く事は珍しいことではありません。グローバルな環境の中で育ち、明るく前向きな性格が多いことから、多国籍企業に適していると考えられます。
また、フィリピンの平均年齢が25.3歳ということもあり、進歩や変革が早い IT分野への適応能力や成長が見込まれる将来性という意味でも期待値が高いといえるでしょう。
地理的距離
日本とフィリピンは物理的距離も近く、日本からは4時間程度で現地に到着するため、定期的に赴くハードルは比較的低いでしょう。
また、時差が一時間しかないのもメリットで、日本国内のメンバーとオンラインミーティングをするのもチャットでやりとりするのもさほど調整は必要ありません。ほぼリアルタイムで進行できるので、ストレスなく仕事を進められるでしょう。
コストパフォーマンス
フィリピンにおける人件費は近年上昇中ですが、それでもまだ日本国内に比べればコストパフォーマンスは良いといえるでしょう。
フィリピンの一般的なエンジニアコストに関しては以下の記事にて紹介していますのでぜひご参照ください。
参考:「オフショア開発とは?簡単にわかるメリットや最新の市場動向」
また、アジアトップクラスの英語力や英語圏のカルチャーへの親和性も大きな魅力です。
多国籍チームでの開発体制においても英語が使えるため連携が比較的容易ですし、アメリカなど英語圏向けプロダクトなど海外進出を見据えた開発する拠点としても魅力的です。
フィリピンでのオフショア開発のデメリット
フィリピンでのオフショア開発のメリットを解説してきましたが、残念ながらデメリットも存在します。次はフィリピンでのオフショア開発をする際のデメリットを解説します。
日本語人材の不足
英語が公用語とはいえ、日本人としてはやはり日本語でコミュニケーションが取れるのがベストです。しかし、フィリピン人の日本語レベルは必ずしも高いとは言えないため、コミュニケーションに問題を感じる人も多いでしょう。
加えて 2020年3月以降、新型コロナウイルス対策でフィリピンでは2年以上にわたり対面授業が行われない状況が続いたことで、日本語の教育機関や学習者の数が大きく減少したことはネガティブな事実といえるでしょう。
独立行政法人国際交流基金(JF)の調査※によると、学校での日本語教育では、機関数は37機関(前回調査比24.8%)、学習者数は7,096人(前回調査比27.1%)減少しています。
教育省が策定するガイドラインに基づいて2020年3月以降 2年以上にわたり対面授業が実施されておらず、出勤抑制も厳格に運用されてきた影響によるものです。一方で、学校以外での日本語教育では、減少した機関数は53機関(前回調査比26.6%)、学習者数は23人(前回調査比0.1%)の増加と、ほぼ横ばいです。
日本語への興味関心は一定数あるものの、事実上教育機関が減少していることから、今後は日本語が話せる人材がさらに不足していくことも懸念されます。
※参考:国際交流基金(2022).『2021年度 海外日本語教育機関調査』
文化差・常識の違い
日本で一般的といわれる常識がフィリピンも同じではありません。文化も違えばバックグラウンドも異なるため、その違いを理解することは必須です。
たとえば日本の会社で「報・連・相」は当たり前ですが、フィリピンではこまめな相談をすることはあまりなく最初と最後の報告程度ということが一般的です。この点を日本のやり方を押し付ける形で対応してしまうと反感を持たれてしまうことも。一方で、進行の遅延や成果物の品質担保をするためにはある程度の「報・連・相」は譲れないというのが日本人の感覚でしょう。こうした違いに折り合いをつけるためには、「なぜそれが必要なのか」丁寧に説明して理解してもらう必要があります。
また、フィリピン人は仕事より「家族」の優先度が高く、キリスト教徒が多いことからクリスマス周辺は仕事の優先度が大きく下がります。そのため、スケジュールを決める際には注意が必要です。日本とは異なる文化・常識であることを意識しておく必要があるでしょう。
労働人材の流動性
フィリピンは、日本よりも離職率が高く、仕事を流動的に変える文化があります。
弊社の経験上ではありますが、日本と比較すると離職率は体感で3倍ほどでしょうか。仕事を覚えても 3〜4年で離職するといったことは珍しくありません。
特定の人材に依存した業務の体制はリスクが伴うことを心得ておくと良いでしょう。
メンバーの意見を尊重しスキルアップの機会を与え、責任のある仕事を任せてみるなど離職したくない環境を作ることが大事です。
ネットワーク通信環境
フィリピンのインターネット普及率は高く約 91% といわれてます。しかし、通信速度が 78.33Mbps と日本より 50Mbps 以上遅いのが一般的なため、日本で快適な速度で動く Wi-Fi を使用されているとストレスを感じるかもしれません。通信速度は仕事の効率化や生産性の向上にもつながるため、早いに越したことはありません。
とくにフィリピンで開発業務を行う場合は、まず安定した回線環境を整える必要があるでしょう。
フィリピンでのオフショア開発のデメリットに対する対応策
次に、オフショア開発のデメリットに対する対応策を説明します。
- 日本語人材の不足に対する解決策
- 文化差・常識の違いに対する解決策
- 労働人材の流動性に対する解決策
- ネットワーク通信環境に対する解決
これらのデメリットを解決または許容できればオフショア開発を検討すると良いでしょう。
日本語人材の不足に対する解決策
日本語が話せる人材不足に対する問題は、日本語と英語が堪能な「ブリッジSE」をアサインすることにより解決します。
英語や現地語がわからず意思疎通できないといった悩みを、日本語を理解できるエンジニアが言葉の橋渡しをしてくれるので、解釈の違いやニュアンスの違いといった細かな部分まで指示することが可能です。
開発業務においては、言葉の理解だけでなく事業の背景やプロジェクトの課題や問題を即座に理解する必要があります。特にプロジェクト立ち上げの初期段階は、スピード感をもって動く必要があり、言葉の理解とコミュニケーションは必須のため、ブリッジSE は重要な役割を担います。
※参考記事:ブリッジSEとは?オフショア開発での役割と必要性、注意点も解説
文化差・常識の違いに対する解決策
国が違えば文化が違い、常識は通用しないということを理解する必要があります。
これを実現するには、まずお互いがどのような考えを持ち、どのようなことに価値観を持っているのか等話を聞くこと、そしてお互いの文化や考え方を知り、理解することが大事です。
特に初期段階はトラブル発生はある程度は覚悟する必要があります。価値観の違いは大きなトラブルを生みかねないので、理解できないことがあれば都度充分に話し合い、お互いを理解する努力が必要になるでしょう。
また、理解するためのコミュニケーション機会を創出する仕組みも重要です。後述する離職率の高さへの対応にも共通しますが、社内コミュニケーションが柔軟にとれるような体制や仕組み・制度を整えることも必要です。
労働人材の流動性に対する解決策
大前提として文化の違いも大きく、日本人と比較して転職に対するハードルがそもそも低いことは理解しておく必要があるでしょう。
客観的に会社に大きな問題がないとしても離職は発生します。
一方で、離職の要因の一つには企業側の問題もあると考えることが重要です。これはオフショア開発企業に限ったことではありませんが、離職率を下げるためには企業側の改善は必須です。
いわゆるブラックな労働環境を提供していないかといったことはもちろん、働くメンバーが気持ちよく働ける環境や適切な待遇を与える仕組みを整えていく必要があります。
たとえば当社、スパイスファクトリーのオフショア拠点では具体的に以下のような対策を行っています。
- 社内コミュニケーションの促進
- 月次イベントの開催
- インセンティブ制度等の福利厚生を充実化する
- 細かな人事評価制度を整える
スキルアップのための研修やインセンティブ制度等の充実といった、メンバーにとっても会社にとってもメリットのある制度から整えていくと良いでしょう。
ほかにも福利厚生を充実させたり、社内コミュニケーションの風通しを良くしたりなど、目に見えない企業カルチャーに至るまで働きやすさを追求することが離職率を低下させることに繋がります。
ネットワーク通信環境に対する解決策
フィリピンで通信回線を引く多くの企業は、2社以上のインターネットプロバイダーと契約することで対策を講じています。
仮にどちらか 1回線でトラブルが起きても、もう片方の回線を利用できるため、この方法が一般的な通信環境の対策となっています。
オフショア開発の成功は国と文化・メンバーの特徴を相互理解することが鍵
この記事では、フィリピンのオフショア開発の特徴についてご紹介しました。
魅力的なメリットを豊富に有する一方で、日本の開発環境と比較した際にデメリットもあります。これはフィリピンに限らず、どの地域におけるオフショア開発でも同様です。
オフショア開発を成功させるためには、そのメリット、デメリットの両方を理解し、現地のメンバーと信頼関係を築いていくことが重要です。
スパイスファクトリーでは、フィリピンでのオフショア開発の相談も可能です。フィリピンでのオフショア開発についてお悩みがありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
参考文献
WCL Solutions(Phil.) Corp..『平均年齢、2020年25.3歳に(15年24.3歳)』.https://pheconomist.com/topics_detail8/id=77020,(参照 2023‐7‐4).
ヒューマンリソシア(2020).『第1回:世界各国のIT技術者数~アジア・オセアニア編~』.https://corporate.resocia.jp/ja/info/investigation/case/global_report01,(参照 2023‐7‐4).
国際交流基金(2022).『2021年度 海外日本語教育機関調査』.https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/result/dl/survey2021/s_east_asia.pdf,(参照 2023‐7‐5).
Primer Media, Inc..「フィリピンのIT ソリューション業界」.Philippine Primer (フィリピンプライマー).https://primer.ph/guide/living-life/it-solution/,(参照 2023‐7‐4).
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