株式会社トムス・エンタテインメント トムス・エンタテインメントが進めるアニメーション制作DX|単なる「受発注システム」ではないProGraceが目指すもの

Client株式会社トムス・エンタテインメント
Year2022~

「ルパン三世」シリーズや「それいけ!アンパンマン」シリーズ、「名探偵コナン」シリーズなど、数多くの著名アニメ作品を手掛ける株式会社トムス・エンタテインメント。「アニメで世界をもっと元気に、カラフルに!」というミッションのもと、アニメーション受注制作だけでなく新作アニメーション企画のプロデュースやIPを活用したビジネスなど、アニメーション制作から派生するあらゆる可能性にチャレンジし、今日まで成長を続けられています。

同社では、日本のアニメーション制作業界を取り巻く制作面、ビジネス面、人材育成などの様々な課題を念頭に「アニメSDGs -2030年までに持続可能な日本アニメ産業の未来を創る-」という構想を掲げられています。スパイスファクトリーは、アニメーション業界のDXの先駆けとなる「ProGrace(プログレース)」の開発を継続的にご支援させていただいております。
今回は、本システムの開発をご担当されている河瀬様に、開発プロジェクトの背景や今後の展望について詳しくお伺いしました。

話し手:
株式会社トムス・エンタテインメント コーポレート本部
情報システム部長 河瀬彩紀様

ProGrace開発の背景と目指すゴールとは?

──早速ですが、今回開発された「ProGrace」はどのような背景で開発されたシステムなのでしょうか?

河瀬様:
ProGraceは、制作作業の受発注と制作管理を一括で管理できるシステムです。これまでは、スタジオや制作進行担当者ごとに、エクセルなどを活用してそれぞれのやり方で独自に管理していました。30分のアニメーションでは約300カットが必要となり、十数名のアニメーターが担当しますから、エクセルでの工程管理はとても緻密でして。順番通りに作業が進むわけでもないので、アナログだからこそ臨機応変に対応できていたと言えるかもしれません。

一方で、作画のデジタル化への取り組みも進み、コロナ渦でのリモートワークのタイミングで今後の方向性について社員にアンケートを実施しました。そのアンケートでは、制作の若手社員を中心に業務のデジタル化を求める声が非常に大きく、制作管理側のデジタル化の必要性が高まってきました。そこで制作フローにはアナログの良さも残しつつ、アニメーション業界の将来を見据えて、現場の方々が、よりアニメーション制作に集中できるように工程管理のデジタル化を推進していきたいと考えました。

──ProGraceの特徴は、どのあたりにありますか?

河瀬様:
工程管理と発注を組み合わせたシステムは各アニメーション制作スタジオさんも既に取り組んでいますが、様々な発注方法や管理方法が混在している状態で、ProGraceのように、お取引先やスタッフさん自らが請求書を発行するというシステムはかなり難易度が高いと感じています。

でも動画協会※1からも同じような取り組みの必要性が提言があり※2、受発注管理・制作管理・アセットマネジメント・タレントマネジメントなどのワンストップな仕組みがゴールであるとされています。そうした提言を読んで、「当社の取り組みの方向性は間違っていない」と勇気づけられたのを覚えています。
だからこそ、私たちがこのプロジェクト「ProGrace」の開発に積極的に取り組んでいくんだ、という意義や使命を感じました。

※1:一般社団法人日本動画協会。日本のアニメーション製作業界の意志を統合する団体として、アニメーション製作の新技術の開発、マーケット情報の収集と発信、各種付加価値の創造などに取り組む。
※2:一般社団法人 日本動画協会「作画等の制作とその制作管理へのデジタル導入の 現状と課題、普及の方向性」

──アニメーション業界の転換点になりうる取り組みですね

河瀬様:
実は、10年前にも一度同じような取り組みをしたのですが、道半ばとなってしまった経験があります。ようやく、時代が追いついてきて、アジャイル・クラウドなどのモダンな開発方法が生まれ、再挑戦できるチャンスが来たと考えています。

※ProGraceカット発注書詳細画面(左) カット表による制作進行管理画面(右)

 

UIUXデザインとアジャイル開発によるProGraceの開発とは

──ProGraceにより制作現場の働き方はどのように変わるのでしょうか?

河瀬様:
まずは標準化を進めていくことが大事です。制作の現場では、各社、各作品、テレビや映画など各媒体で、いろいろな業務の進め方が混在しているのが現状です。場合によっては工程単位で発注の仕方や納品方法などの商習慣が異なるというケースもあります。加えて、電帳法、下請法など各種法令の順守も求められます。

これらすべてに合わせるためには、様々なUIを作っていかないといけなくなってしまいます。だからまず業務プロセスを標準化しないといけないですね。現状の業務プロセスが効率的ならばあえて変える必要もないですが、統一化された業務プロセスに標準化することによって、むしろ効率化も進むと考えています。

──ProGrace開発中に、手応えを感じたエピソードなどはありますか?

河瀬様:
ProGraceは社外の方に自ら請求書を作成してもらうところが難所で、本当に実現できるのか不安に思っていた時もあったのですが、スパイスファクトリーが作ったモックアップ(注:初期設計を具現化したデザイン)を見たときに「これはいける」と思いました。

だから開発を進めながら、システムの実物が見えていくことも大きいですね。今後はスマートフォン向けにProGraceの展開を進めていきますが、スパイスファクトリーは高いレベルでUI/UXが考慮されたデザインが上がってくるので、スタッフの方や関係会社の方に「楽しみにしててね」と言うことができます。
UI/UXが悪ければ、スタッフも誰も使ってくれませんからね。私たちは実物を見ているので「デモをやったときに喜んで貰えそうだ」と自信をもって話をすることができます。

※フリーランス向けスマートフォン版ProGrace画面イメージ

 

スパイスファクトリーを開発パートナーとして選んだ理由

──アジャイル開発の取り組みについてもおうかがいしたいです。すでにアジャイル開発で累計100スプリント以上のプロジェクトとなっているそうですね。

河瀬様:
当初から、ProGraceはアジャイル開発にしたいと考えていました。システムの仕様をきっちり決めてスタートするよりも、現場の意見を汲み取り、柔軟に改善を繰り返していくためにアジャイル開発手法が最適だと判断したのが理由です。

当社は社内にいちシステムを作り上げるだけの開発部隊はいないので、モダン開発ができるパートナーに声をかけて、RFIの時点で20社以上と話をしたと思います。その時に各社の過去の成果物を見ていろいろ学びました。「この仕組みはどうやって作ったのか?」「どんなメンバーでやっているか?」などいろいろ質問もさせてもらいました。

最終的にスパイスファクトリーに決めたのは、モックアップで素敵なデザインを見せてくれたのが大きいです。もう一気に気持ちが固まりました。開発力も高くて、スモールスタートで伴走してくれたのもよかったですね。既に開発に着手して3年たっていますが、実績を少しずつ出しながらプロジェクトをうまく進められていると思います。

──開発パートナーや開発内容ではどのような点を重要視されていますか?

河瀬様:
UI/UXへの知見があるかどうかですね。もちろん、機能面の品質も重要ですが、UI/UXをないがしろにはできません。スパイスファクトリーが提案するUI/UXデザインは、ボタンの位置一つとっても、とてもよく練られていますね。見た目のデザインセンスだけでなく、UI/UX、それらを全部考えてくれるのが御社の強みだと感じます。

スパイスファクトリーUIデザイナー 鷲田:
──ありがとうございます。スパイスファクトリーでは、ご提案前に社内でレビュー会を実施しています。UIデザイナー、UXデザインはもちろん、エンジニアもUXの視座をもって本当に使いやすいか議論を重ねています。

河瀬様:
それはすごく感じます。スタッフへのインタビューの際も「このデザインなら使えますよ」という意見をもらえましたし、制作側の本部長と話をしても「スマートフォン向けの機能は早くリリースしてよ」といったポジティブな意見をもらうことが多いです。

──100以上のスプリントを通して、当社と共に成長できたと感じられたところはありますでしょうか

河瀬様:
当初から、本プロジェクトではペアプログラミングなど、共に成長することを目標にしていました。なかなかそこまではできませんでしたが、たとえば基幹システムとの連携部分はAPIを利用して自前で開発しましたし、おすすめいただいた最新でモダンなツールを導入したりもできました。

そのおかげで、だんだんレガシーなツールの利用はなくなっていきました。もっとこれからも一緒に勉強していきたいなと思えるくらいに、アジャイルの考え方もたくさん取り入れることができましたね。

この取り組みは「やれるまでやり続ける」

──「ProGrace」のこれからについてお伺いします。

河瀬様:
この取り組みは、やれるまでやるというつもりでやっています。アニメーション制作に関する業務全体をデジタル化していくことがゴールです。
もちろん、タブレットでの作画などクリエイティブ業務をデジタル化することも重要ですし、それに合わせて、社内業務のデジタル化も必要です。

──アニメーション業界のDXについての展望はありますか?

河瀬様:
ProGraceは、当社だけが使う工程管理・受発注のシステムとして作ることは、考えていません。これは私たちのシステムでもあり、アニメーション制作業界全体に貢献できるシステムとして開発していきたいと考えています。

だからこそ、社内のみならず外注先やお取引先などあらゆるステークホルダーの方々との情報交換やシステムの利用に関するテストにご協力いただきながら、一緒に取り組み、業界共通のプラットフォームを目指していきたいですね。

これは、競争領域ではなく協調領域なんです。

デジタル化が進む作画だけでなく、制作管理もデジタル化で作業の標準化をさらに推進していきます。
ProGraceの利用を浸透させて、制作に携わる人たちの働き方をより良いものに、そしてクリエイティブなことに注力できる環境を提供できることでアニメーション業界に貢献していきたいと思っています。

We'd love to hear about your project.
LET'S WORK TOGETHER