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デザイン・イネーブルメントとは?価値づくりから社会の仕組みまでを支える新しいデザインの考え方

デザイン・イネーブルメントとは?価値づくりから社会の仕組みまでを支える新しいデザインの考え方

Posted by 舩木小南 | |UI/UX

かつては製品の見た目や広告のビジュアルを整えることが主な役割だった「デザイン」は、現在では課題解決やイノベーション創出のためのスキルとして、あらゆる領域で必要とされています。誰でもデザインをする時代が訪れている一方で、まだまだデザインスキルは専門的なデザイナーのみが保有しているという現状もあります。
このような中、非デザイナーにもデザインの力を浸透させる「デザイン・イネーブルメント」という概念が登場しています。本稿では、この新しい考え方について解説します。

デザイン・イネーブルメントとは

デザイン・イネーブルメントとは、一部の専門家だけでなく、あらゆる人々がデザインに参加できるようにするための環境づくりや仕組み化を指す概念です。

デザイン・イネーブルメントの意味

デザイン・イネーブルメントという文脈での「イネーブルメント(enablement)」は、作業療法分野で用いられる概念を借用したものです。作業療法においてはクライアントがその人らしい生活を実現できるよう、彼らの主体性や目標を尊重しつつ、作業療法者が多様なスキルを用いて協働的に関わるプロセスをイネーブルメントと呼びます。
デザイン・イネーブルメントではこの考え方を応用し、専門家であるデザイナーが非専門家に対してデザインの知を移転し、その実践を支援します。

誰もがデザインをする時代

デザイン・イネーブルメントが必要となる背景には、不確実性が高い現代が「誰もがデザインをする時代」であることが挙げられるでしょう。
過去の蓄積や慣習を繰り返すだけでは、変化に対応することはますます難しくなっています。そのような中で、個人、チーム、組織が描く「より好ましい状態」を起点に、あらゆる可能性を模索し検証するデザインという意思決定の仕組みに対する注目は高まり続けています。結果として、見た目を整えるデザインだけでなく、ユーザー体験を高めるためのデザイン、よりよい社会の仕組みを作るためのデザインが行われるようになりました。このようにデザインの対象が広がる過程の中で、専門的なデザイナー以外もデザインプロセスに携わる機会が増えるようになりました。
一方で、デザインにはデザイン的な知の活用(Designerly ways of knowing)と呼ばれるデザイン特有の物事の捉え方から実務的な専門知識を含む科学や人文科学に並ぶ知識体系が存在します。不確実性を新たな機会点と捉え、新しい選択肢を提案し、生活の中に組み込んでいく。この実践に求められる形式的・暗黙的な知識をいかにして専門家であるデザイナーから非専門家へと移転していくかが、誰もがデザインをする時代においてさらに重要になっています。

デザインをソフトスキルとして捉える


デザイン・イネーブルメントにおいて、デザインに関する形式的・暗黙的な知識移転アプローチは以下の3つの方向性とされています。

〇ひきだす
デザインスキルを移転する対象者と対話を行い、そのニーズや目標、ビジョンを顕在させる。

〇つたえる
形式知を中心に、専門家が自身の知識や経験、理論的な枠組みを言語化・整理し、対象者へ移転する。

〇みせる
暗黙知を中心に、OJTやペアデザイン、ワークショップ、レビューを通じて、専門家が自身の思考プロセスや具体的な適用方法を示して実践的なノウハウを伝える。

これらのアプローチは、いずれもデザイナーと非デザイナーの協働的なインタラクションを通じてデザインの知識やノウハウを共有する点が特徴です。また、その共同関係を実現する信頼構築が重要になります。デザインをソフトスキルとして捉え、テキストベースや講義ベースでの体系化された知識をつたえるだけでなく、実践的な協働作業を通じてその所作をみせることで移転してきます。

なぜデザイン・イネーブルメントが注目されているのか

以下では、デザイン・イネーブルメントが必要とされている背景を、実務的な視点から整理します。

地域・公共プロジェクトとの高い親和性

地域・公共プロジェクトのような複雑性の高い領域において、デザイン・イネーブルメントの考え方が有効となります。
地域課題や社会問題には地域住民や地元企業など多様な利害関係者が存在し、明確な正解がありません。最終的には、住民内で合意形成を進め、意思決定を行う必要があります。
デザイン・イネーブルメントは、住民自身が地域の課題を発見し、解決策をデザインするための手法として有効です。専門家が一方的に答えを示すのではなく、当事者が主体的に動ける環境を整えることで、複雑な地域課題にも対処しやすくなります。

組織・事業に提供する価値

また、デザイン・イネーブルメントは企業組織においても適用できます。ユーザー体験が重要視される現代のビジネスにおいて、顧客や自社の従業員がストレスなく利用できる仕組みを作ることが求められています。社内システムや顧客向けアプリのようなシステム領域、コンテンツ制作などのクリエイティブ・広報領域だけでなく、オフラインイベントの導線設計やキャンペーンの参加方法など、あらゆる領域でデザインを意識する必要があるといえるでしょう。
このような背景の中、デザイン・イネーブルメントを通して企業のあらゆる部署へとデザインの知識とノウハウを移転していくことが重要となります。

なお、実際のデザイン・イネーブルメントの事例については、以下の論文で取り上げられています。本事例では、日本のシステムインテグレーション企業を対象に、非デザイナーがデザインに取り組めるように支援する方法を、アクションリサーチを通じて理論化した取り組みが紹介されています。

※参考:Enabling Non-Designers to Design: Building a Theoretical Framework of Design Enablement Through Action Research with a Japanese System Integration Firm

デザイン・イネーブルメントが扱う領域

デザイン・イネーブルメントの実践は特定の領域に限られたものではありませんが、ここでは「人々の体験や社会価値」と「社会・組織の仕組み」という2つの領域を取り上げます。

人々の体験と社会価値をデザインする領域

製品やサービスを利用するユーザーの体験を向上させることは、ビジネスにおけるデザインの主要な役割です。さらにCSRの概念が一般化した現代では、使いやすいアプリケーションを開発するだけでなく、そのツールを使うことで人々の生活がどう改善され、結果としてどのような社会課題が解決されるのかもまた、企業や企業が行うデザインに求められる視点であるといえるでしょう。
デザイン・イネーブルメントでは、このようなユーザー体験や、さらにそれを発展させた社会的な価値をデザインするための知識・ノウハウ移転を実現します。

社会の仕組みや組織の働き方をデザインする領域

もう一つの重要領域は、組織や社会の仕組みをデザインすることです。どれほど優れたアイデアがあっても、それを実行するための組織や法規制などの仕組みが古ければ実現できません。デザインの視点を生かした仕組みづくりが必要です。
デザイン・イネーブルメントによりデザインスキルが一般化すれば、このような仕組みづくりにおいても良い影響が与えられるでしょう。

まとめ

デザイン・イネーブルメントは、デザインスキルを専門家から広く社会へ移転するための考え方です。ツールの導入だけでなく、創造性を発揮できる環境を整えることが重要です。
本記事では、デザイン・イネーブルメントの概念を簡単に取り上げましたが、より詳しくデザイン・イネーブルメントを知りたい方は、無料ダウンロード資料をご覧ください。本資料では、「そもそもサービスデザインとは何か」からサービスデザインを誰もが行うためにどのようにデザイン・イネーブルメントが寄与するかまで、詳細な解説を行っております。

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舩木小南

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