MVP開発とは?定義やアジャイル開発との違い、実施ポイントを解説
サービスや製品を開発する際には必要最小限の機能のみでリリースすると、ユーザーのフィードバックを得ながら細かく検証をしていけるため、大きなメリットが複数あります。
この必要最小限の機能を開発していく手法を MVP開発と呼びます。
この記事では MVP開発について、そのメリットや注意点も交えてお伝えしていきます。
Contents
MVP開発とは
MVP とは、必要最小限の製品(Minimum Viable Product)を略した言葉です。
その名の通り必要最小限のプロダクト・サービスを開発したうえで、顧客の反応を検証しながら改善していきます。この手法をソフトウェア開発に適用したものが MVP開発です。
MVP開発においては、対象の顧客セグメントを狙ったプロダクトを開発し、顧客の反応をみながら機能の追加・作り直しなどを実施していきます。
MVP開発を採用することにより、必要最小限のコストでプロダクトを開発する「リーンスタートアップ」を実現していけるのです。
MVP開発はリーンスタートアップのプロセスの一部
リーンスタートアップとは、事業を効率よく開始・成長させられるマネジメント手法のことです。
リーンスタートアップの基となったリーン生産方式は、トヨタ自動車株式会社が採用していることで有名です。
リーンスタートアップは「構築」「計測」「学習」の3つのプロセスで構成されており、この3つのプロセスを順番に素早く繰り返すことで理想のプロダクトに近づけていきます。
- 構築:戦略に応じたプロダクトを構築
- 計測:プロダクトを用いて対象の顧客セグメントの反応を計測
- 学習:顧客の反応をみて戦略を修正する
各プロセスの内容をひとつずつみていきましょう。
「構築」プロセス
構築プロセスの中では、戦略に応じたプロダクトを構築するために先述した MVP開発が用いられます。
MVP開発においては、開発しているプロダクトを最も求めていると考えられる顧客(アーリーアダプター)が求める機能だけを搭載します。
重要なのは、MVP開発は機能の過不足があってはいけないということです。
顧客が本当に必要とする機能だけにフォーカスし、一切の無駄を省きます。
ここでいう戦略とは、企業の目的(ビジョン)を実現するための総合的な準備・計画・運用の方策のことです。
ビジネスモデルや製品ロードマップ、提携企業や競合他社の視点、予想される顧客などの項目で構成されます。
「計測」プロセス
計測プロセスでは、さまざまな評価指標を用いて顧客セグメントの反応を計測していきます。
書籍『THE LEAN STARTUP』(エリック・リース 著)では、有効な分析方法として「コホート分析」が紹介されています。
コホート分析とは顧客を一定条件でグルーピングし、グループごとに時間経過に伴う行動変化(たとえばログイン回数や特定の機能の利用頻度など)を分析する手法です。
「学習」プロセス
学習プロセスの中では、顧客セグメントの反応をみながらプロダクトの方針転換(ピボット)をするかどうかも検討し、必要があれば構築したプロダクトを全て捨てることも考慮しなければなりません。
書籍『THE LEAN STARTUP』の事例においては、1つのプロダクトが完成するまでに6つものプロダクトを廃棄し、ピボットを繰り返した例もありました。新規事業・新規プロダクト開発の難易度の高さがうかがえます。
学習プロセスが終了したら、必要に応じて「構築」プロセスに戻り、プロダクトの完成までこれらのプロセスを繰り返し実行します。
MVP開発とアジャイル開発の違い
MVP開発の概念はアジャイル開発の概念とよく似ています。
この2つを混同しないように違いについて明確にしていきます。
アジャイル開発は、「必要な機能を細分化して、優先度順に設計、構築、テストを繰り返す」手法です。
対して MVP開発は「最小限の機能を搭載したプロダクトやサービスをリリースして、ユーザーのフィードバックを受けながら検証・改善」する手法です。
MVP開発はリーンスタートアップのプロセスの一部であるため、アジャイル開発にはないユーザーのフィードバックがプロセスに組み込まれています。
また、考え方として相性の良い点も多いことから MVP開発に開発手法としてアジャイル開発が活用されるケースも多くありますが、必ずしもアジャイル開発を採用しなくても MVP開発自体は可能となります。
参考記事:新規事業担当者必見。“アジャイル開発”で小さく始めるシステム開発
MVP開発のメリット
先述した通り MVP開発には複数のメリットがあります。そのメリットを順番にみていきましょう。
開発費用を必要最小限に抑えられる
MVP開発によって開発されるプロダクトは必要最小限の機能しか持たないため、その開発費用も最小化できます。
もちろん戦略が誤っていた場合には開発を繰り返すことになり、その分コストはかかります。しかし、最初に立案した戦略が顧客のニーズに100%マッチし、かつ成功することはまれです。
戦略の修正に合わせて細かくプロダクトを作り直す MVP開発を採用すれば、結果的に開発費用は必要最小限となることが多いでしょう。
方針転換がしやすくなる
従来のソフトウェア開発手法であるウォーターフォール開発では、最初に必要と考えられる機能を全て実装してからプロダクトをリリースしていました。
しかし、ウォーターフォール開発では方針転換によるコストの無駄が大きくなってしまい、戦略に問題があった場合に方針転換がしにくくなってしまいます。
その点 MVP開発であれば、必要最小限の機能でプロダクトを構築するため、方針転換も決断しやすいでしょう。
MVP開発を行う際の注意点
メリットの多い MVP開発ですが、実施にあたって注意すべきこともあります。その内容を 1つずつみていきましょう。
目的(ビジョン)に応じた戦略まで明確に決めておく
プロダクトを開発するにあたって、目的(ビジョン)は必ず存在します。
ここでいう目的(ビジョン)とは、プロダクトを開発する理由であり、ユーザーや社会が抱えている課題の解決やニーズを満たすといった内容となることが多いでしょう。
そのビジョンを明確にしたうえで、方針となる戦略を明確にしておく必要があります。
戦略立案の際に顧客を分析し「必要最小限」となるクリティカルなニーズを把握することは必須です。
機能は過不足なく実装する
MVP開発のポイントは、「機能は不足があってもいけないし、過剰に搭載してもいけない」という点です。
ソフトウェア開発の際には、大抵はあれもこれもと機能をたくさん搭載する流れになりやすく、「過剰に機能を搭載しない」という行動については、非常に難しいものです。しかし、プロダクトの目的を達成するためには、避けては通れません。
MVP開発によるプロダクトの好例は、初代の iPhone です。
基本的なコピー & ペーストの機能もなければ、当時最新といわれていた 3G も使えませんでした。しかし、当時のアーリーアダプター(新しい技術、製品、またはシステムを早期に取り入れる消費者のグループのこと)はその iPhone を欲しがったのです。
ご存知の通り、現在の iPhone には私たち消費者のニーズを満たす多様な機能が搭載されています。ただ、それは iPhone が幅広く市場に受け入れられた後のことです。
まだプロダクトが本当に顧客に受け入れられるのかもわかっていない開発の初期においては、フォーカスしたターゲットニーズに対して、本当に必要な機能に絞ることが望ましいでしょう。
方針転換は大胆に決定する
たとえば顧客からのフィードバックを求めた結果、戦略が著しく顧客のニーズから外れていたとしましょう。
時には開発中のプロダクトを全て廃棄する必要があるかもしれませんが、方針転換が必要な場合、「迷わず・大胆に」実施する必要があります。
先述の通り6つものプロダクトを廃棄した例があります。
1つのプロダクトを制作するためには2週間~4週間程度を要したそうですが、そのプロダクトを検証して廃棄することを繰り返し、最終的にヒットするプロダクトを生み出せていました。
MVP開発のプロセス
MVP開発のプロセスは大きくみると従来の開発手法通りで、開発機能を戦略に沿って決定し、開発機能を開発・テストしてプロダクトに実装し、ターゲットである顧客セグメントの反応を検証します。
MVP開発プロセスの最大の特徴は、最初に実施する「開発機能の選定」にあるといえるでしょう。
「必要最小限の」開発機能を戦略に沿って決定すれば、あとの開発・テストは従来の手法で対応でき、手法によってはコーディングをせずにプロダクトを開発することも可能です。(その手法の種類は後述します。)
最後の検証結果に問題があれば、方向転換も検討します。
MVP開発の種類
MVP開発に限った話ではありませんが、ソフトウェア開発に用いられる手法は複数存在します。その種類をみていきましょう。
スモークテスト
スモークテストは、ユーザーがサービスに興味を持っているのかどうかのみを検証する手法です。その手法は、サービス紹介ビデオとプレオーダー形式の2種類があります。
サービス紹介動画や事前登録サイトの公開後にユーザーの反応を確認し、需要が本当にあるかどうかを見極めます。
モックアップ
モックアップはプロダクトの見た目のみを作る手法です。デザインのトンマナを確認するためだけの場合もあれば、画面に配置する項目の IA設計まで確認する場合もあります。
IA とは、Information Architecture(情報アーキテクチャ)の略で、ユーザーが情報を探しやすいように、分かりやすく整理して伝えるための手法・技術のことです。
オズの魔法使い
画面のみをユーザーに見せて操作してもらうのがオズの魔法使いと呼ばれる手法です。
実際にはシステム実装されておらず、担当者が裏でシステムを操作することでシステムが稼働しているように見せられます。
童話『オズの魔法使い』にある、人々が恐れた魔法使いの正体が実はカーテンの後ろのおじいさんだった、というストーリーから名前がつけられた手法です。
コンシェルジュ
全てを手作業・マニュアルで操作するのがコンシェルジュです。
もちろんフロントプロダクト(画面)も手動で対応します。
ユーザーとのコミュニケーションが密になるため意見を吸い上げやすいというメリットがあります。
コンビネーション
コンビネーションは、既に世に存在するサービスの組み合わせで新サービスを実現する MVP手法です。
この手法で開発した場合、非常に使い勝手が悪い UI になることが多いですが、実現したいことが叶えられれば一定の評価が得られます。
今日では既存サービスの組み合わせをサポートするツールも複数リリースされています。
プロトタイプ
プロトタイプは、ユーザーの反応を見るために最小限の機能を入れた試作品のことです。
特に、実際に形を持った製品・サービスを指す場合が多く、コスト的には他の MVP に比較して大きくなる傾向にあります。
DXとMVP開発の関係性とは
企業が DX を推進するにあたって、構築、測定、検証の繰り返しは極めて重要です。
顧客に対して新たな価値を創造し提供することが DX の目的ですから、顧客のニーズに合わせて製品やサービスのコンセプトを設計する必要があります。
そのコンセプト基づいて必要最小限の機能を備えた製品やサービスを作り、顧客の反応を調査・分析して仮説検証を繰り返すことで、プロダクトを顧客にフィットしたものへ近づけていけるのです。
細かい検証を行いながら製品やサービスの方向性を定めるために、MVP開発は欠かせないアプローチといえるでしょう。
参考記事①:【2023年版】DXが失敗する理由は?リスクを下げ成功確率を上げる「FastDX」という選択肢
参考記事②:DXを新規事業に取り入れるには?事例に学ぶコストをおさえて小さくはじめる方法
MVP開発の特性を知って効率のよいプロダクト開発を
この記事では MVP開発のメリットや注意点、具体的な手法などについてお伝えしてきました。
必要最小限の機能に絞って開発することにより、検証を素早く実施し、ユーザー視点でプロダクトを開発していくことが可能です。
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参考文献
■参考書籍
- エリック・リース 著/井口 耕二 訳、伊藤 穣一 解説.『THE LEAN STARTUP』(2012).日経BP
- アッシュ・マウリャ 著/角 征典 訳、渡辺 千賀 解説.『RUNNING LEAN』(2012).オライリージャパン
■参考サイト
- アイミツ.mvp開発とは?意味やアジャイル・Pocとの違いを紹介【2023年最新版】|アイミツ.https://imitsu.jp/matome/web-system/mvp-development.(参照 2023-7-10)
- SHIFT ASIA -ソフトウェア品質保証のプロフェッショナル-.MVP開発とは|そのメリットと開発のポイント.https://shiftasia.com/ja/column/mvp開発のメリットと開発のポイント/.(参照 2023-7-10)
- 株式会社モンスターラボ.MVP(Minimum Viable Product)とは? 意味や開発プロセスを解説.https://monstar-lab.com/dx/about/about-mvp/.(参照 2023-7-11)
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